第九十二話「もう折れないと誓う時」
「あ・・あれ・・おかしいな・・どうして・・」
ずっと見せる事を恐れていた『悲しみ』の感情。
どんな苦しみにも悔しさがあっても。
歯を食いしばり絶対に流さないと決めた涙。
なのに、その近いは心から込められた『優しさ』によって。
我慢の壁さえも粉々に打ち砕いたのだった。
ずっと求めていた優しさをされた時、人は情に溺れる。
誰かに助けを求めたくても求められない苦しさ。
どこかへ消えたくても消えれない臆病な心。
ずっと、このままでありたいと思う最低な精神。
こんな状態の人を一体誰が見てくれる?
一体、誰が支えてくれる?
そう思うだろう、だが違う。
支えてもらえないと思うだけで、本当は必ず支えてくれる人がいる。
生きる事に辛くなっても、死にそうなくらい苦しくっても。
きっとどこかに誰かは誰かを思う人がいる。
人は孤独なんかじゃない、いつだって誰かいる。
どんな一人ぼっちでも、きっとその人の事を思う人がいる。
そう、俺の目の前にいる愛川の様に。
三日もずっと看病してくれる妹の様に。
俺の勝手な思い込みかもしれないが。
学校のみんなだって、心配してくれているはずだ。
一度気づけば気づくほど、自分の愚かさに後悔する。
なんて後ろ向きな人間なんだと。
なんて身勝手に堕ちていく人なんだと。
自分の勝手な思い込みと果てしない暗闇に呑まれていた。
それは、自分も含めてだった。
俺も人知れず、耐え切れない絶望に呑まれていた。
救えない無力さに嘆いていた。
恐怖して何処までも逃げていた。
それは何故か、自分にはできないと決めつけていたからだ。
自信が持てず、あんなにも支えられて来た仲間を裏切る行為をするのは自分だ。
今まで散々人には言って立ち上がらせたのに。
自分は言われたら目の前にある茨に踏みとどまる。
なんて事をしていたんだろうか。
そして、何でこんな事に気づけなかったのか。
悔しくてしょうがない、気づいて馬鹿だと思った自分が悔しくて。
もう、屈辱と哀しみの涙が止まらなくなる。
ああ、疲れてもう・・言葉も思いつかないよ。
気づいた時には、おかゆを食べ終わったていた。
知らない間にずっとやけ食いでもしていたんだろう。
「・・馬鹿だな・・俺は」
「せ、先輩?大丈夫・・ですか?」
ふと気づいて愛川を見る。
どうやら突然涙を流して食べ続ける俺を何も言わず。
ただ、見守っててくれたらしい。
どこまでも優しい後輩だ。
本当に心が尊いほどに可愛い奴だよ。
「大丈夫・・ありがとう・・本当にありがとう」
「せ、先輩?!」
勝手ながら、俺は愛川の頭を優しく撫でてあげた。
こんな事に意味なんてあるのだろうかと。
そう思ってもらっても構わない。
俺が今できる愛川への恩返しだ。
「あわ・・先輩・・なんだか・・その・・き、気持ちいい・・ですけど・・その・・」
「ごめんね・・嫌かな?」
「ち・・ちがいます!とっても好きです!・・ただ・・急だったもので・・恥ずかしくって・・」
「はは・・唐突にやってごめんね・・俺そういうところあるからさ・・」
「はは・・大丈夫です!私、先輩の為ならこのぐらい全然・・むしろ・・その・・山田先輩には失礼かもしれませんが・・とても心地よいです」
「・・ありがとう、山田ならきっと・・かどうかは分からないが・・許してくれるよ」
「そうだと・・いいです」
俺の濁った心が晴れていく。
気づいた時には輝く光が差し込み太陽が顔を見せる。
止まった物語はまた動きだす。
そう、再び俺の停止した進路が再開を果たしたのだ。
やろう、優しいこの顔に誓って。
この微笑みを俺は忘れない。
たったこの数分の出来事で俺は報われた。
俺はまた、一歩を踏み出せる奴に戻れた。
倒れた心の柱を支えてもらったのなら。
今度は俺が誰かを支える番だ。
俺も笑おう、また自分の言葉に誓って。
歩き出そう、勇気の一歩へと。
明日がまだある限り、俺の物語はこれからだ。
「愛川・・俺・・風邪が治ったら絶対学校行く・・」
「はい!先輩!」
「そしたら・・また山田とも会っていつもみたいな日常をしよう!」
「はい!先輩ッ!!」
俺は愛川に誓おう。
二度と、起こらぬように心に刻む言葉を持って。
「俺・・また立ち上がる・・そして今度は二度と折れない・・だから見ていてくれ・・俺の姿・・ずっと見ていてくれ」
「せん・・ぱい・・はい!愛川・・もう先輩の事ずっと見てますからね!」
「ああ・・頼むよ!」
一つの苦難を乗り越えひと段落。
まだまだ越えなくてはならない壁があるとはいえ。
ここから勝負どころ、まだ始まったばかり。
俺はこれからも歩こう、自分の物語の執着へと向かって。
走り出そう、明日へ向かって。
NEXT
◆
その夜の事だった。
ある日の山田の家での事。
「・・うん、これでよし・・間違いなく・・これならもう過去の私は消えた」
柳原が復活を遂げた一方で山田もまた・・【変化】していた。
そう、柳原とは異なる・・別の変化。
「もう慢心なんてしないよ・・絶対・・これからは・・徹底的にやらなきゃ・・ね?」
鏡を見つめる先に・・一体何が待ち受けているのだろうか。
~ To Be continue ~




