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第八十四話「姉弟の愛と絆」

気づけば静かな夜。

賑やかだった食卓から数時間、あっという間に時は過ぎていく。

楽しい時こそ早く過ぎてしまうモノはないだろう。


「本当に・・色々あったな・・」


「何を思いふけている?」


「うおッ!?姉さん・・か」


「驚かせてしまったか?すまないな」


黒のワンピースの寝間着に着替えて現れた姉の姿。

この人は本当にいつどこから現れるか分かったもんじゃないが。

急に話しかけられると本当にびっくりするんだよな・・。

それはともかく、急に露出が高くなったな・・。

黒は女を目立たせるというが・・・本当に目立つよ色んな意味で。


「どうした?顔が赤いぞ?」


「いや・・不用心な恰好してるからさ」


「はは・・弟の前くらい羽を伸ばしたいのさ・・」


「どんだけブラコンなんだよまったく・・少しは大事な人でも作ったらどうすか?」


「ん?私にとって大事な人は菊だが?」


「(近親相姦は勘弁してくれ・・)」


でも姉とこうやって二人きりで話すのは何日ぶりだろう。

確かに今までもこうやっていい加減結婚しろって会話をしてきたな。

それでもかたくなに姉さんは誰とも付き合う事がないけど。

いつまでも俺の事を愛してくれるのは構わない。

けど、俺は俺自信の恋と向き合わなければならない。

今もなお、すれ違い恋愛をし続ける愛川との恋。

俺には今好きな人がいる、だからこそ。

周りの愛を受け止める事はなおさらできない。

姉さんにこの事実を話したら。

姉さんはなんて言うだろうか・・。


「姉さん・・」


「なんだ、菊」


「俺、今好きな人がいる」


「えっ??」


まあ、そりゃあそんな驚き隠せん顔になるよな。

今まで可愛がって育てた弟が突然他の女に惚れている。

なんて、愛を注いだ姉さんからしてみれば。

驚かない方が難しいだろう。


「俺は姉さんの事が別に嫌いってわけじゃない、だいぶ前に酔って告白された挙句の果てにキスされかけた事もあった・・姉さんが家にいた頃俺に夜這いしに来てた時もあったのも知ってる、どれだけ姉さんが俺の事を愛してやまないのかも知ってる」


「(そ、そんなに覚えててくれたんだ・・恥ずかしいな・・)」


「知ってても・・その愛に答える事は弟としても俺としてもできない」


「菊・・」


悲しい顔をされても俺の答えは変わらない。

この想いは今伝える、今言っておかないと絶対にダメだ。


「今とは言わない、けれどもいつか・・キッパリと俺へ求愛は諦めてくれ」


「・・本当に立派に育ってしまったな・・なんだか・・昔とは違うな」


「弱虫はもう卒業したんだ、言えない自分も卒業した・・」


「なるほどな・・知らないところで・・ずいぶん成長したんだな・・」


「ごめんな、姉さん」


「いや、構わないさ・・どのみち私もきっとお前はそう答える日が来るとは思っていたさ、だから私自信、愛を注いで他の所へ行っても・・素直に応援してやろう、素直に祝福してやろう・・そう考えていたさ・・だからお前が気に病む事はない」


「・・ありがとう姉さん」


いつもは冷徹で殺意の眼差しを見せる冷酷な目つきの姉。

それとは別にもう一つ家族でいる時の優しい目。

そして今はとても優しい顔つきでとても哀しい顔をしている姉。

成長の喜びと寂しさが身に染みるのだろう。


「・・でも、最後に・・本当に最後にお願いがあるんだ」


「なんだい?姉さん」


「手を・・握ってもいい?」


「それぐらい構わないよ、本当は断りたいけど・・これで最後なら・・最後のわがままくらいなんでも聞くよ」


「はは・・ありがとう」


笑いながら俺の側に近寄り、となりに座って優しく手を握る。

姉の手と俺の手が暖かく握り合い、心が少しだけ締め付けられる。

本当にこれが最後となってしまう姉にはもっと胸が締め付けられている事だろう。

寂しそうなあの目を見れば俺には分かり切ってしまう。


「ふふっ・・暖かい手・・」


「・・そうだね」


「ああ・・ダメだな・・私は・・」


「なにが・・ッ!!」


その時、俺はまたあの時同じ衝撃に襲われる。

背中に力を入れられて両手で抑えられるこの衝撃。

だが、あの時は違う、押し寄せられるのではなく。

今度は抱き着かれていたのだった。

とても力強く、とても優しく、暖かな温盛に包まれて。


「・・ダメだな・・私は・・」


「・・しょうがないんだから・・姉さんは・・」


姉さんは優しい声でそう告げる。

だから俺も、優しい声で答える。

それがきっと、正しい答えなんだろう。


「・・私頑張る・・だから・・菊も・・頑張れ」


「ああ、ありがとう・・俺より良い奴・・見つかるといいな」


「・・うん、絶対に見つけるよ・・もう、菊の事から離れるから・・応援・・してね」


「するよ、どんなに遠く離れても・・俺達は家族だ」


「・・ありがとう・・菊」


その夜、姉と俺は最後の姉弟としての夜を過ごした。

哀しくも暖かでとても心地よい夜。

この温盛は、これから先二人だけの思いでとして。

いつまでも残るだろう。

永遠の姉弟の絆としても愛としても・・いつまでも。


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