第七十五話「一人で生きるわけじゃない」
「と、とにかく・・俺はもうアイドルとか忘れてんのッ!とっくに引退して今は普通の女の子ッ!いいねッ!?いいよねッ!?」
「(普通の女の子が何故駄菓子屋の看板娘をしているのかはさておき・・)」
「そこはほら・・とりあえずの店番だよ、ちゃんと仕事もしてるし・・」
「(そろそろ本題に入ろうじゃないか田畑君、まさか私をこんな場所まで連れて来てサービス何にも無しなら今後どのようなモノが飛んで来るか分かったもんじゃないぞ?)」
「せ、先輩の笑顔の矛先ッ!?これはちょっと気になるところだが・・その太陽の微笑みに答えてぜひともジュース一本とおすすめの駄菓子を奢らせてもらいますッ!」
「(流石は田畑君ッ!私の期待通りの人間で助かるよ)」
「杉坊・・お前こんな女にコキ使われて楽しいか?」
「そんな目で見ないでくれ・・興奮するだろ?」
「変態かッ!!!」
もう半場ツッコむ気力がなくなるくらいハイスピードマシンガントークについていけない。
俺って本当に無個性かつ普通な人間なんだなーっと改めて実感。
こういうカオスな人間に交わって何か面白い事を言う事がない。
アグレッシブな人はこういう時羨ましいよ。
「よし・・じゃあ愛美先輩!これお願いします!」
「またベタにラムネと美味すぎ棒なんてベタなスナック菓子選びやがって・・」
「ベタなモノほど美味く美味しいモノはありませんよ、例えるなら成長系感動超大作アニメにも例外なくどれも良作といえます」
「なるほど、それには納得・・ちなみになんで4本?」
「俺と西園寺先輩それから愛美先輩に柳原先輩の分ですけど?」
俺の分もあるのッ!?
てっきり存在忘れられているかと思ったのに!?
「いやいや・・俺ついて来ただけだし・・悪いよそんな・・」
「遠慮しないでくださいよ、先輩とは共にアニメとゲームそして中二病を語れる仲なんですから・・いわば俺にとって柳原先輩は親友に近き者です!」
「そ、そうか・・でも俺結構にわかな部分あるし・・」
「重要なのは興味を持ってもらえることです、少しでも興味を持って同じ仲間の輪に入ってくれるだけで俺は感動モノですよ、特にマニアック部類に引っかかる先輩は貴重な人員なんです!」
「(あの1世代前のSFアニメを進められて俺が気に入ってる話かな?)」
田畑が熱烈に思いを語り始めるとあの不思議な日本語が無くて助かる。
のだが・・今度はまた熱意がありすぎて語りが熱いんだわコレが・・。
「まあ後は・・」
「あとは?」
「先輩はなんだか俺にとって・・いや、なんだかみんなにとっていなくてはならない必要不可欠な人物・・例えるなら・・」
「(主人公?)」
「そうですね、わりと雰囲気からどことなく特に目立つところは無いけど隠れた強みがある・・そんな主人公」
「おー・・でも俺もなんかどことなーく・・ダメそうなのに主人公似合いそうって思うわ」
しゅ・・主人公?!
またなんかとんでもない立ち位置の枠に当てはめられたモノだ。
しかも、みんなから見ても同じってどういう事なの・・。
嬉しいが俺には合わない立ち位置だろう。
「んー・・・過大評価しすぎだって~!俺別にそんな人じゃねぇもん・・主人公的人間なら他にもっと適役がいるし・・」
「おいおい・・確か柳原クンだっけ?よし・・柳の坊主!もっと自信持てよ!」
「鬼龍院先輩・・」
鬼龍院先輩が肩をポンポンと叩いてなんだか心の不安が一気に吹き飛ぶ。
兄貴分の様な少し気の強い風がそういった不安を飛ばしてくれるのだろう。
俗にいう姉御肌・・素晴らしい。
「せっかくお前の事を主役って認めてくれた仲間に対して【俺はそんな人間なんかじゃない】って思うよりさ、少しぐらいは【そういう人間】って思ってもバチは当たりはしないさ」
「そ・・そうですかね・・」
「(そうだとも、愛ちゃんの言う通りだ・・私自信不服なんて全然ない、むしろ頼りない部分含め主役とは未完成なのがちょうどいい、未完成って事は支える柱が足りないだけ)」
「そうして足りない部分を仲間が支える事で一つ成長できるんだ、別に強い事だけが正義の証でも主役の証でもない、お前はお前なりの主役でいいから、みんなに言われてもなんの問題もねぇの、だから自信持てよ?な?」
「そう言われると・・なんだか自信出てきますね・・」
「そうだろ?そうやって自信を持ち続けて生きろ、無くしちゃいけないもんだぜ・・自信つう最強の武器はな?」
「(ふむ・・愛ちゃん語録集に書き加えておこう・・)」
「おい、馬鹿止めろ」
「また一つ歴史が・・」
「杉坊も止めてくれ」
面々こそカオスで俺みたいな真っ白な白紙の人間が本当にいても良い場所なのか。
最初こそ迷っていたが・・いればいるほどに安心がある。
白紙だからこそ、この多色の者達の塗場になる事ができる。
そんな感じだろう。
支えられた分・・今度は支えなくちゃな。
また一つ、俺も成長できた気がするよ。
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