第六十八話「勝利の一瞬」
「(今・・俺の勝ちだとか言ったかコイツ?ふざけやがって・・ハッタリだ・・さっきの試し打ちでもうその実力は分かっている・・コイツに勝てる根拠なんてモノは存在するはずがないッ!!)」
「い、今・・勝ったとか言ったのか・・アイツ・・?」
「・・・」
夢子もそりゃあ思わず驚きの表情になるのは無理もあるまい。
いくらなんでも冗談が言える奴じゃないのは分かっている。
だとするとハッタリでも無ければまさか本当に勝利宣言なのか?
信二の実力を補えるほどの強さをここで見せつけられるのか?
大和、お前のその目に・・濁りはないというのなら。
本当に信じて良いんだな?
その鋭き勝利を見る目は確実に嘘吐きなんかではないんだなッ!?
「赤薔薇先輩」
「?」
「俺はアンタの事が好きだ」
「ブフォッ?!」
「な、何を急に・・そんな冗談言ってる場合じゃ・・」
「いえ、今言っておきたいんです・・今、言っておかなきゃダメなんですよ、どうしてこんなにも自信を持ってこの勝負に挑めたか、信二に勝てる自信があったのか・・それは全て・・赤薔薇先輩が好きだからなんです、それもただの好きじゃない、大好きだ」
「ん・・うん・・」
急な告白に俺は吹いたよ。
まさかコイツも新手の天然?
それとも時と場所がよめない人間?
いや、そんなことは無いか・・でも気持ちを伝えて純粋に好きだという熱い熱意は伝わる。
信二との勝負だというのに、どこまでも涼しい顔で恐怖の無い男だ。
「お前・・僕を馬鹿にしているのかッ!?こんな時までお前はァ!!」
「そう怒るなよ、早死にするぞ?」
「言ってろよ・・まあいいさ・・どうせそれを言って敗北するお前の姿は目に見えているんだ・・だから好きなだけハッタリを抜かして顔真っ赤にして赤薔薇先輩に泣きつくといいさぁ!」
「そうか」
スパンッ!
その一瞬、一つの時間が止まったような感覚だった。
まるで、大和が神の様に見えてしまうほど美しい神速の動き。
迷いは一切無かった、動きにブレもない、調整の時間も見えなかった。
なのにだ、俺もついに視力が濁ってしまったとでも思う様な光景。
疑いをしたくなるほどの状況。
しなやかに放たれた矢はうっすらだがど真ん中を貫いてるように見えるッ!!
神風の様な一瞬だった。
あの一言ともに体は自然に動き、弓を構えて勝利への一歩を勝ち取った。
「信二・・アレって何点?」
「・・・じゅっ・・十点・・だ・・」
「へえ・・お前の視力で見て、お前が言うなら間違いないな・・」
「し、信じられない・・今・・一瞬で」
信二もさすがに焦り始めた。
そして、プレッシャーと同時に逆の立場になった事でより恐怖が湧いてしまっている。
無理もない、今立たされている立場が逆転してしまったているのだからッ!
「次」
「へっ?」
「まだ二本残っているだろ、やれよ」
「・・・あ・・・ああ・・やってやるとも・・ハハッ・・」
「そのうすら笑いが最後じゃないといいな、信二」
「クッ・・グゥ・・ッ!!」
汗だくになりその恐怖に耐えらず震える手。
手だけではなく体も震えている。
そしてこれでもかというくらい煽り返し何もできない悔しさに怒りを見せる。
完璧なカウンターと言えるだろう。
そりゃあそうだ、目の前であんな光景を見せられた無理もない。
だが、もうこれは完全に勝負が決したも同然だろう。
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