第四十八話「不服の大勝利」
なんだかんだ内輪もめが激しく中々話し合いが決定しない中。
三十秒の小競り合いの後ついに仲良し三人組はチームを結成。
これから俺達三人による素晴らしいチームプレイが披露される事であろう。
不安は多少あるが、いざこのコートに立てばその不安は解消される。
何故なら、二人の熱い背中を見ればどれだけ信頼と安心が保証されているか分かる。
この場に俺だからこそ分かる。
今の二人はあの小競り合いの後でもきっとチームプレイを乱さないと。
きっとこの二人なら背中を預けても多少の問題にすらならないと。
信じられる二つの背中、俺はずっとこういう日を待っていたのかもしれない。
だからこそ、二人を信じて送り出す為に今この瞬間、背中を押そう。
「山田、武蔵!」
「ん?なんだいきっくん?」
「どうした、菊」
二人の背中を押す言葉はたった一言で構わない。
複雑な内容の入った命令も必要ない、たった一言。
そう、この一言で全てが伝わる。
だから大きな声で自信を持って叫ぼう。
「思いっきり頑張ろうッ!」
この言葉にしばしの沈黙はあったが、フッと笑う山田に当然だろうとニヤリと笑う武蔵。
それに答える様に俺もニッコリと微笑み、チームが一つになった事を確認する。
もはや今の俺達に死角はない、思う存分好き放題暴れてやろうッ!
「では、二チームの準備が整ったので試合開始の合図を出したいと思います!」
「よし・・始まるぞ」
「3・・2・・1・・スタートッ!」
ビュガォォォォンッ!!
だが、その信頼と安心そして安息の戦いは幕を開けてから数秒で閉ざされた。
俺は完全に忘れていた、目の前に溢れ出るアドレナリンを必死に抑えていた狼の存在。
興奮し一度このような場に出れば誰も止めらないという事を忘れていた。
かの狼はまさかの暴れても良いという了承という意味で俺の言葉を受け取っていた。
完全に忘れていた俺が悪かったと言えるが、やらかしてしまった。
気づいた時には目の前の巨大な土壁のてっぺんに登っていた少女の姿があった。
そう、山田だ。
スパァァァンッ!!!
有無を言う前にまずその一撃は放たれる。
壁から飛び降りてグルリグルリと回転をかけたゼロ距離ショットが敵の1人の湶を襲う。
この競技は一人一個はボールを持っているのだが、相手を倒した時または落ちたボールは自分のボールにしても構わない。
つまり何がいいたいかと言うと、山田には今両手にボールがそろった。
そう、勝利が確定してしまったのだ。
「い、いたぞッ!もうここまで来てやがるッ!!」
急いで追跡して壁の向こうへと向かうが状況はやや手遅れ。
ボールを二つ持ち完全武装の最強兵器のオーラを醸し出し完全に殺人マシーンへと開花。
その姿はさながら歩く虐殺ロボと言ったところか。
なんとなくだが、この時の山田は終始楽しそう。
「クックック・・血が騒ぐよ・・本当に・・」
※いたって正常であり、相手ビジョンの山田さんです。
目が赤く光りそうなくらい恐ろしい姿だ。
見ろ、敵さんビビッて動けず声も上げれて無いぞ。
「あば・・あばばば・・」
「笑止ッ!!!!」
ズバシャァァァンッ!!!
思いっきり飛び上がり何メートルもあった距離を追い詰め。
最終的には二つのボールをゼロ距離ショットで仕留める山田。
相手の最後の姿はさながら理不尽な戦いに死にゆく戦士の様だった。
「勝負ありッ!チーム柳原」
「・・・マジか」
「マジです」
山田、自重してくれ。
頼むからまた復活したスポーツを禁止に追いやるのは止めてくれ。
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