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第二十九話 「支え合おう」

「・・来年の三月なったら・・もう」


「苺、今はその事は忘れておけ」


「で、でも・・ッ」


「来年のその事ばかり考えていると・・今を楽しむ事ができない・・明日は所詮明日だ、気持ちは分かるが先の未来ばかりを見なくても大丈夫だ」


兄として、今ここで苺にかける言葉はきっと「大丈夫」とか「心配ない」とかじゃない。

ましてや不安を煽るような言葉はもってのほか、今俺から言える事は。

考える事を止めさせてあげる事ぐらいだ。

先の事ばかり考えていたらきっと、今が歩けなくなる。

だからこそ、そんな事考えなくていい、今を楽しめという事。

不安になるのは分かるけど、それだけが人生じゃないからな。


「・・うん、分かったよ・・お兄ちゃん」


「ごめんな・・苺」


「大丈夫!お兄ちゃんに言われて・・ちょっと安心した・・そうだよね・・来年の事だもん!今を見なきゃ!」


ニッコリ笑って微笑む姿の裏面にはきっと。

ごちゃごちゃとした黒い不安という化け物がいるのだろう。

今、妹はその心の中の不安と戦っている。

今を歩く為に立ちふさがる、巨大な化け物だ。

俺としてはいつまでもこの笑顔にしてやりたい。

けれどもいずれそれは叶わないのだろう。

だから、今この時だけでも、笑顔でいてくれ。

どうか、その化け物に呑まれる事だけは・・無いように願いたい。


「・・うん、それでいい」


「・・でも、お兄ちゃん・・今を歩きたいから・・一つだけわがまま言っていい?」


「なんだい?」


「・・こんな事・・愛川さんがいるお兄ちゃんにとってはルール違反なのは分かってる・・けど・・その罪は全部私が背負うから・・私を・・だ、抱きしめて・・ほしいな・・」


い、苺・・お前そんな頬を赤らめて言うのは反則だろ・・。

愛川はそもそも俺の恋人でもないが・・今のはズルい・・ズルいって・・苺。

もじもじとしながら言った後にチラッとこちらを見て来る仕草。

何もかもがもう・・可愛い、大天使だ。

いや、それより・・俺が妹を抱くのはアリなのか!?

だが・・今、あんなことを勇気を持って言ってくれた妹に恥をかかせたり。

泣かせたりするのは絶対にしたくない。

俺も罪を・・いや、その罪は俺が背負う。

どんな天罰も俺が背負ってやる。

苺、お前が俺を求めた事に罪は無い。

だから、後で死ぬほど恨んでくれていい。

妹をたらした最低の兄だと罵ってもらって構わない。

だから、今だけでもお前の願いを叶えよう。

明日を歩くために。


「いいよ、抱いてやる・・抱いてやるとも」


「お兄ちゃん・・ッ!!」


少し強引に右手で引き寄せる様に近づいて来た妹を右手で包んで抱く。

左手で顔をうずめてくる妹の頭を優しく撫でてあげる。

スリスリと甘えてくる妹はとても嬉しそうに頬を赤らめて上目遣いの目でこちらを見る。

とっても嬉しそうに満面の微笑みでニッコリと笑う。

本当に・・なんて可愛い妹なのだろう。


「お兄ちゃん・・ありがとう・・わたし・・とっても嬉しい・・お兄ちゃんがいるから・・もう何もこれ以上の幸せは望まないよ・・どんな不幸も・・どんな辛い事も・・哀しい事も・・私・・この幸せを思い出して乗り越えるから・・」


「うん、辛くなったら・・また支えてやる」


「この優しい温盛・・それにお兄ちゃんの優しい手・・私好き・・大好き・・きっとこんな優しいお兄ちゃんの周りには・・みんながついてきてくれる・・みんなが協力してくれる・・」


「そんな事ない、俺みたいな・・人たらしは・・いつか痛い目に合うさ」


「ふふっ・・泣かないで・・お兄ちゃん」


本当に、なんて優しくて健気で高嶺の花の様な妹なのだろう。

まるで、本物の神様の送り子の様だ。

その暖かな手で俺のこぼれる涙をどうか拭かないでくれ。

俺の心がもっと締め付けられるほどのその優しさは。

とっても・・眩しくて目が当てられないから。


「・・うん、ありがとう・・本当に・・苺が・・家の子で良かった・・良かったよッ!!」


「うん・・私も・・お兄ちゃんの妹で・・とっても良かった!」


乗り越えよう。

これからもこの先も、ずっと乗り越えよう。

お前が俺を支えてくれるのなら、俺はお前を支えよう。


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