第二百十四話「脆く儚く美しくはない」
一方その頃、タランチュラ本部ビルでは。
逃げ切ったシグマ・アルファ・イプシロンが到着し。
現状報告をしていた所だった。
「・・というわけです」
「つまり、お前らはそのどこの誰とも知らない奴にビビッて逃げて来たわけか」
彼女達が迫るプレッシャーに押し寄せられる威圧。
210㎝の身長はあるであろうその男の名は【Mr.ゴッド】である。
金髪のボサボサ頭、引き締まる筋肉。
全開きの革ジャン、一目で分かる悪人面。
彼はこの新薬の研究所もといタランチュラに大金を捧げ。
この世界の平穏を乱す為日夜暴れ倒す者。
正真正銘の悪党である。
シグマが話相手になってなんとか話すが。
彼女が内心で怯えるのも無理はないだろう。
「・・その通りです」
「馬鹿野郎ッ!!」
ゴバッ!!
ゴッドは隙無くシグマに向かって拳を握りこめかみを殴り。
壁へめがけてぶっ飛ばす。
ガンッ!
あまりの衝撃の強さに一発で体はボロボロとなり。
頬が青くなり、歯がくだけ血がドロドロと流れはじめ。
咳をし、口からはつばが飛ぶ、あまりの衝撃の強さに。
シグマは過呼吸になり、目が震えて力も出なくなる。
それをアルファはとても心配し。
急いで駆け寄って先輩の状態を確認する。
酷く傷ついたシグマを見て、両手で口を押えて恐怖に怯え。
この一言を口にする。
「ひ・・酷い・・どうしてこんな事・・」
「作戦リーダー班はコイツ、つまり全ての責任はコイツにある」
「だからって・・小さな女の子にこんな真似しなくたってッ!」
「ならお前が変わりに罪を償うとでも言うのか?」
ゴッドが眉間にシワを寄せ怒りの睨みを見せる。
それでもアルファの意志は曲がらない。
真っ直ぐ迷いの無い目で彼を見て。
両手を伸ばし、シグマをかばう様に叫ぶ。
「それで満足すると言うならお好きな様にお殴りくださいッ!!」
「・・ほう、そうか」
男は静かにそうつぶやくと。
腰に刺していた警棒を取り出して。
静かに振り上げる。
その瞬間自分が殴られる事を覚悟したアルファ。
目をつぶり、全てをのむ事を決意する。
だが、この時全ての者が予想した違う方向へと。
運命は変わってしまう。
そう、それは振り下ろした時。
アルファを叩こうとしたのではない。
アルファの付けていた腕の新機種ら向けて。
一気に叩き壊したのだった。
バァンッ!!
新機種は壊れ、一瞬痛みが無く終わり。
彼女の中では疑問しかなかった。
だが、ふとゴッドの顔見てみるとニヤリと彼は笑っていた。
何故だか分からない、だが静かに恐怖が迫っている。
アルファの中ではとてつもない恐怖が迫っている。
そう感じ取っていた時だった。
次の瞬間。
ブクブク・・ブクブクッ!!
アルファの腕は謎の赤いブドウの様に肉が膨れ上がった。
それだけではない顔もドロドロ溶けて。
足も腹もどんどんドロドロに溶けては膨れ上がった。
体には焼ける激痛が伝わり、神経がブチブチと切れ果てしない痛みを感じる。
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!い゛ゃ゛ぁ゛ッ!!!あ゛ぁ゛ッ!!!」
もはやその一言を叫ぶと同時に彼女は得体の知れない肉の塊へと変わった。
青と緑血管が飛び散り、体のパーツが飛び散り。
もはや、人ではない何かへと変わった。
最後にはただの赤き人ではない何か。
ただ、その塊へと変わってしまった。
あんなにも人を慕っていた彼女の姿はもう何処にもない。
シグマは痛みなんかどうでも良かった。
ただ、目の前で後輩がやられた事に驚くしかなかった。
イプシロンは恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
自分は次はああなる、そうなったらどうしようと。
それだけ考えるだけが精一杯だった。
彼女たちはたったこの一回の謎の死が体に恐怖を与えた。
人の精神とは脆く、儚いモノだった。
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死亡報告:アルファ(13) 本名不明。
死因:不明、薬品に関係あり。