第百九十一話「無となった先生」
「先生・・なんですか・・この状況?」
「見れば分かるだろ、お仕置きって奴だな、俺なりの教育だ」
「教育?!生徒を一方的に痛め付けるのが!?そんな彼らと何が変わっていると言うんだ?!」
「知った事か、もはや状況はそれどころじゃない、優しくしても調子に乗ってつけあがるのなら、一度痛い目にあって死にかけてもう一度人生を考える時間を与えてやった方がはるかにマシだ」
「アンタの教育理念はどうしたんだよ?!たとえどんな生徒でも優しく接する!体罰ではなく、優しさをもって人に教える、暴力の無力さを教えるんじゃなかったのかよ?!」
「優しさ?甘ったれてんじゃねぇよ、人間ってのは常に甘えて育つさも当たり前の様に欲望の獣へと変わる、自分達は生まれもって幸福これからも祝福されて生きなければなんて思ってるからあたかも自分が神の様にふんぞり返る、優しさは0でいい、無情さを10割だ」
そこにいたディートリッヒ先生の目は濁り果てていた。
黒く深く、吸い込まれていきそうなくらい真っ暗な目をしていた。
絶望というより、無だ。
何もかもを見て、もう何も見たくないかのような心を閉ざした目だ。
その鋭い目と冷たい言葉からはそう言った。
目の前の俺に、非情で無情な言葉の数々。
暖かな温盛があった先生なんて嘘みたいだ。
どんなに感情のまま俺が叫んでも、訴えても。
そこにいる冷たき無情の先生には何も響かなかった。
何も、聞き届けてくれる事は無かった。
その日、男子7名、女子5名が病院へ搬送。
幸い死人は0人、後の検査と調査の甲斐もあり。
先生はどうにか1年間の謹慎処分で済んだ。
本来なら生徒に対する体罰含めて警察に突き出す所だったらしいが。
その時はとにかく先生にいなくならないでほしい思いで。
おじいちゃんに頼ってまで裏であやふやにしてもらってしまった。
本当ならこんな真似許されるはずもない。
していいわけでもない。
でも、そうしてもし俺の事を思いああまでしてくれた先生に。
少しでもの報いがあるのなら、俺はせめての思いで。
なんとか軽い刑で済んでほしかった。
だが、三年後の復帰でそれは叶う事も無かった。
みんなからはきっと熱血的な先生だとか。
スパルタな先生だとか思っているのだろう。
その目にはきっと熱い心が宿っていると思われているのだろう。
けれども違う、どんなに見ていてもそこには冷たい目がある。
誰も疑わない、誰も分からない、先生の心はまだ閉ざされていると。
帰って来た今でも分かる、先生は・・変わってしまったんだと。
俺は、帰って来た先生とまともに話す事も。
もう、あの時の様な会話をする事も無かった。
全てが変わってしまった。
全てが終わってしまった。
あの事件をきっかけに全てが変わったんだ。
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