第百五十三話「また動き出す物語」
「菊お兄様~ッ!」
「お兄ちゃんー!」
ふと気づけば、妹達の呼ぶ声がする。
振り向けば向こうから走って来てくれたのは苺。
袖から手が出て無くブンブン振り回す様に走ってくるのはアネモネ。
2人ともとても元気そうだ、怪我もしっかり治療されている。
「良かった・・元気そうだ」
「おう、外に出て来た時から医療班にしっかり頼んでおいたぜ、もう大丈夫だ・・」
「ありがとう兄さん」
「礼には及ばない、早く行ってやれ・・お前が今の兄ちゃんだ」
「・・うん、本当にありがとう・・」
「礼は良いって・・妹達はお前の事待ってんだから・・いつまでもこんなクズといねぇでお前もさっさと妹達抱いてやれ」
「何を言ってんだよ・・まあ、いいや・・ちょっと行って来るよ」
「おう、行ってこい」
兄さんは相変わらず自分の事を棚に上げず、ずっとクズだなんだ言ってるけど。
俺はそう思わない、世界で一番誇れる兄さんだと思う。
性格とかのらりくらりとしている気分屋だけど。
良い時は本当に良い時あるし、頼りになる時は本当に頼りになる。
僕も心から尊敬している一人の兄さんだ。
だから、兄さんの言われたとおり今は妹達の事を気にかけてあげなきゃ・・。
「アネモネ、苺・・心配かけてごめ・・ゴボォッ!?」
しかし、心の中で思い更けていたら。
突然目を開けると二人の少女が僕へとめがけて飛び込んで来た。
予想してなかったというより想像以上だった。
コワくて心配でとかそういうのは分かるけど。
突然飛び込んでこられた流石の俺も地面へと押し倒される。
「お兄ちゃん!私怖かったよぉッ!」
「お兄様~!!私本当にお兄様の事が心配で・・どうにかなってしまいそうでした!」
「ちょ・・ちょっと待って二人とも・・飛びつくなんて聞いてない・・ッ!!」
「お兄ちゃん!帰ったらしっかり洗ってあげるね!」
「ええ!?苺ちゃんズルいわ!こういうのは一番恩を返すべきなのは私!さあ!私がお背中流して差し上げますわ!そして夕食は私の特性ディナーを召し上がってもらいます!」
「ダーメ!私が恩を返すの!」
「いやです!私が先です!貴方はいつもお家にいらっしゃるでしょう!?」
「それでも私がいいのー!」
「なんてわがままな!」
「そっちこそッ!」
女怖い。
なんていうか僕の上でとりあえず喧嘩は止めてほしい。
こ、これ以上は本格的に胃がやばい。
「おにいちゃーん!!」
「あ、アレ・・この声は?」
なんとなく聞き覚えのある声。
顔を上げて確かめると向こうから走ってくるラベンダーの姿が・・。
「ラベンダー・・ガハッ!?」
苺とアネモネの間に飛び込む様に泣きついてくるラベンダー。
だ、ダメだ・・気を失いそうだ。
「ら・・ラベンダー・・」
「ごめんなさいッ!ごめんなさいぃ!!」
「そ、そうか・・それは分かったから・・頼む・・お・・り・・」
「ああ!お兄ちゃん!しっかりして!もうラベンダーちゃん!」
「ああ!そんな!し、しっかりしてお兄ちゃん!」
「お兄様!こんな所で死ぬなんてダメーッ!」
お父さん、お母さんへ。
僕は元気です。
なんかライトノベルのハーレム主人公みたいな環境下に置かれましたが。
今、俺多分幸せなんだと思う。
こんなに家族に愛されて俺は本当に幸せだ。
だから、そっちも早めに迎えに来てもらえると助かるな。
俺、貴方より先に天へ旅ただないか心配です。
なんとか頑張ってみますけどね。
そんな・・安らかな眠りにつきそうな手紙が書けそうなぐらい。
今俺はやばい・・この先もこの子達と上手くやっていけるだろうか。
「先輩!」
「愛川・・」
気を失いかけていた所に俺の顔を覗き込む様に現れた愛川の姿。
膝を下げて屈み俺を見て来きて話しかけてくれた。
「なんだ・・愛川」
「フフッ・・今日も妹さん達に囲まれて幸せそうですねって」
「あはは・・囲まれすぎるのも・・ちょっとな」
「今の光景はちょっとカッコ悪いですけど・・先輩の頑張っていた姿は・・カッコよかったですよ?」
「ん?フフ・・ありがとう」
「どういたしまして、どんな先輩も・・やっぱり先輩ですね!」
思わずむずがゆい思いにクスクスと互いに笑ってしまった会話。
過ぎて見れば平和な光景、ひと時の癒しなのかもしれない。
俺達の物語の1ページがまた一つ、記憶の中に書き足され瞬間だろう。
NEXT
その頃、柳原棗は重大な発見をしていた時だった。
「なんだと!?奥の方に人質として捕らえられていた理事長の娘と妻が見つかった!?」
「はい!間違いありません!完全一致です!」
「そうか・・これでやっと理事長が救われる・・俺連絡して来る!」
「各員には指示はありますか?」
「とりあえず救助班に連絡、その救助班に護衛をしっかり付けておけ、後理事長の護衛として選抜10名を送る準備だ!」
『その必要はない、棗君』
「えっ?理事長!?」
◆
「黒服の連中はこちらでどうにかする・・君たちの活躍はやはり期待通りだ・・そのまま自分達の任務に集中してくれ、こちらの事は何も心配するな」
『そうですか・・分かりました!』
「ああ、場所は特務機関本部だったな?私も今すぐ向かう・・そちらも気を付けて」
『はい!ご武運を!』
ピッ
一つの電話が切れたと同時に沈む夕焼けの光が差し込む窓ガラス。
理事長室のデスクに肘を乗せていつもの様に思いふける理事長。
「・・しばらく君に迷惑をかけるな・・津久井君」
「理事長の命令ならば・・私はそれに従うまで・・こちらの事は我々職員が全力で守り抜きます、理事長はしばらく・・向こうでその身を守ってください」
「ああ、そうさせてもらおう・・妻と娘の安否が確認でき次第・・絶対に戻る」
「信じて、待っておりますとも」
「・・そうだ、山田君と柳原君に伝えておいてくれ【無茶はしないでくれ、でも可能な限りでいい、我々無力な大人の力になってくれ】と・・」
「・・分かりました、そう伝えておきます」
「ああ、よろしく頼む」
理事長がデスクから立ち上がり津久井猫鼠から荷物を取ってもらい。
この部屋を出ようとした時、両開きドアが静かに開き始める。
そして、そこに現れたのは・・。
「邪魔するのじゃ、ここが妾の新しい場所なのじゃな?」
「むっ・・君はもしや」
身長は137㎝ほどしか無さそうな見た目の少女。
ぶかぶかとした袖が特徴的な貴族を思わせる服。
おでこを出して分けられている長い紫色の髪の毛
赤いちょっと多きめなヘッドバンドを付けて。
少し凛々しくも小柄な見た目の少女。
そんな子がこの理事長室に現れたのだ。
「名は【神光咲 天照】じゃ、内藤・・貴様の命によって明日から我がこの学園の代理理事長を務めるのじゃ」
「そうか・・電話では分からなかったが・・相も変わらず・・か」
「なんじゃ?その言い方は・・無礼じゃぞ?」
「失礼、これからこの学園をよろしくお願いします・・天照殿」
「うむ、良きにはからえじゃ」
突如現れた理事長代理。
果たしてこの学園は一体どういう方向へと変わって行くのか。
誰の予想もできない未来の果てに・・果たして何が待ち受けるのか。
今度こそ NEXT