第百五十一話「死ぬって意味」
かくして事件は解決した。
静まった廃棄工場の中をようやく警察の集団を送り込む事ができた。
何十人と数え切れないほどの黒服とあの大男は警察で保護。
あとはこの周囲を散策して異常が無ければ終了。
最も、警察側としては致命的な痛手を負わせてしまった。
三太郎の死だ。
俺達はただアイツらを大人しくさせるのが精一杯だった。
それに大男の登場は予想だにしなかった。
あの大男の介入さえ無ければ三太郎を生かす事ができた。
ただ、それだけが悔いだ。
「・・やるせないな」
「気にしてもしょうがないだろう、菊」
「兄さん・・」
俺の肩をポンッと叩いて不安を消してくれるような安心感。
俺の事を気遣ってくれるのはありがたい。
だが、やるせない気持ちは変わらない。
どうしても、自分が見殺しにしてしまった様な気がしてしまう。
もし、あの時どうにかできていれば・・命だけならば救えたはず。
そう思えてしまう。
「・・まあ、気に病むな・・相手が犯人だからとか罪人だからとかじゃないけど・・仕方がないんだよ・・菊、お前が鯨を救えると思うか?」
「無理だね・・自然の掟ともいうけど・・人間が介入して鯨が救えるわけがない・・特に死に掛けも・・襲われた鯨さえも・・人間に救う事はできないよ・・」
「それと同じだっただけだ・・悲しいが救えない命だってこの世にはごまんといる・・今回はその一つだったってだけだ・・だから・・気に病むな、自分が今生きている事、それが重要だ」
「分かってるよ、兄さん」
そうだ、生き残れただけで俺はまだ全然マシだ。
死ぬより辛い事はない。
だけども、この心残りは生き地獄って奴だろう。
アイツは死んでも良いって思う人もいるかもしれない。
だけども本当にそれでいいのか。
死ねば・・死んでくれれば本当に救われるのか?
そこに残るのはただの虚無感と虚しさだけだと思うんだ。
命は一つしかない。
それは人が生きて行く為に本当に必要なモノ。
玩具でも無ければ、誰かのモノでもない、自分の命という一つの大切な体だ。
それを、世の中では自分達の玩具の様に扱う奴らがいる。
俺はそういう人間が許せない。
人の心を利用し、恐怖を与え、世間を脅かす悪魔の集団。
嫌いだ、そいつらを憎み恨みしながら生きる人生は本当に嫌いだ。
分かっている。
自分でも、その相手を恨む事で、憎むことでしか生きられないって。
怖いんだ、いつかこの憎悪をぶつけた相手がこのまま次々と死んでいったとして。
もし、将来・・人の死に何も思わなくなる人間になったらって。
そう考えている時間がある。
俺の中ではもうたくさんなんだよ・・誰かが死ぬ事で救われる世界なんてない。
人は生きて当然なんだ。
たとえどんな悪人でも、殺していい人間なんて誰一人いないんだ。
人が人を裁けないってのはそういう事だ。
殺人なんかした時こそ・・人としての最後であり。
それは、人生の終焉。
俺は、死を聞くのも見るのも・・本当に大っ嫌いだ。
もう、そいつは喋れないし、動けないし、何もできない。
死んだら最後なんだ。
死ぬ事の辛さ・・俺が一番・・分かっている。
だからさ・・誰も死なないでくれよ。
顔を上げて、空を見る。
気づけばもう・・夕方か。
俺はただ天の夕焼けを見つめて、そんな感情を抱いていた。
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