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第百四十四話「圧倒的絶望」

「待ちくたびれたぜ・・さ、さっさと始めようか」


ユラリと立ち上がり光太郎に近づきはじめる三太郎。

だが、怒りの声を静かに出して三太郎に問いただす。


「その前に・・一つ聞くぞ」


「なんだ?」


「貴様が傷を付けたのか?苺ちゃんに」


「・・それ以外誰がいるッ!?」


「いや、ただ・・迷いたくは無かったんでな・・制裁を下す相手をッ!!」


「そりゃあ良かったぜェッ!」


バッァァァンッ!!


互いの挨拶代わりの拳がぶつかり合うこの一瞬。

まずは一つ、互いの戦いの火蓋が切って落とされたッ!


「クックッ・・そうでなくてはな・・お前をわざわざここに呼んだ理由が消えるじゃねぇーか」


「おのれ・・良くもッ!」


「まあ、焦んなよ・・お前には説明しなきゃならねぇ事があるんだからよ」


「説明しなきゃいけない事だと!?」


「ああ、良く見ろよ・・周囲のカメラ・・アレはなんだと思う」


「・・ま、まさかッ!?」


周りに設置された複数のカメラ。

これこそ、全国のモニターというモニターをハイジャックして。

全てのモニターへとこの映像を流し、全ての人々に恐怖してもらう。

その作戦が込められ設置されたカメラなのだった。


「ケケッ・・この戦いよお・・ただ人質を脅す為には使わねぇよ?この戦いに負ければ・・お前の人質は死に、さらにちょいとVIP人質にも死んでもらう事になる・・そうすれば・・全国はどれだけ俺達が恐ろしいか分かるッ!お前でさえ勝てないという事実があるのだからッ!」


この戦いのルールそして目的が分かってしまった光太郎は怒りがヒートアップする。

手を握りしめて血が出るのではないかというぐらいに強く握り。

その怒りを震え上がらせる。

人々にこの集団の恐怖映像なんかを見させた時には。

全国は恐怖の渦に飲み込まれて安心して暮らせる世の中は消える。

そうはさせてたまるか、と光太郎は心の中で正義の心を全開にさせるッ!


「ふざけた真似を・・そんな事させてたまるかッ!」


「フンッ!!そうなるんだよッ!おらっ!」


「ぐぉっッ!?」


この時、光太郎は何故蹴りを避けずにガードしたのか。

それは光太郎の中にある不安がそうさせる。

確かに話の筋では負けなければいいのだが。

そうした場合コイツらが【素直に人質を解放する】なんて事は。

夢のまた夢、ならば下手に勝ってしまうと。

このままどの人質も殺されてしまう可能性がある。

それだけは避けなくてはいけない。

そんな不安も抱きながら戦う為。

まともな戦いができないのである。


ガードしては殴られ、時には地面へと殴り飛ばされる。

避けた方面に蹴りを入れられ中々に反撃の目途がない。

絶望の光景だ、信じて待っていたヒーローが悪にやられそうになるなど。

子供にとってどれだけ絶望の事だろうか。

気づけばもう体中ボロボロである。

息を荒くし、腕から流れる血を抑えて。

もはやまともに戦える状態ではない。


「ハァ・・ハァ・・ヴァッ・・グハッ・・ハァ・・」


「光太郎・・伯父さん」


「なんだ~・・お前思ったより弱いんだな・・」


「ハァ・・違う・・俺は・・弱くないッ!」


「じゃあなんでそうやっていつまでも反撃できねぇんだよッ!してみろよッ!」


「俺はな・・もう決めたんだ・・」


「何をだ?」


「子供達を守るとッ!そう決めたんだッ!」


「・・はぁ?頭湧いてんのかてめぇ」


傷つき倒れるしかしそれでも不屈の闘志がまた彼を立ち上がらせる。

それは何度やられても起き上がり強敵に立ち向かうヒーローの様に。


「俺はな・・子供達に教えられたんだ・・大人の大切な思い・・どれほどまでに・・大人という存在が大切なのか・・教えられたんだッ!だからこそ・・今ここで・・俺はその思いに答えなければならない・・先に進んだ者としてッ!」


「脳みそイカレタゴミとはまさにこの事だな・・てめぇはどこまで自分に甘いんだよッ!?一度先へ進み、罪を背負った人間が・・子供を救うだと?笑わせる・・今のお前にできるはずがあるまい?!悪が必ず微笑むのだからッ!」


「大切なのは信じる事だ、自分の正義も夢も希望も何も捨てない事だッ!信じて前を突き進め、黒き闇の中にある白き光をつかみ取れ・・そうやって信じて前を歩いて行くんだ・・その先に・・明日があるのだからッ!」


「いい加減にしろよぉッ!どこまで俺を・・俺を・・ッ!!」


怒りに任せて鉄の棒を使い殴り降りかかる。

時には蹴ろうと仕掛けて来る。

だが、もはや彼の攻撃は当たらないッ!

正義を信じ貫いた者にもはやただの敗北があるだろうか!?

否、そんなものは存在しないッ!


「俺達大人は先に行った者・・先に行った者と書いて・・【大人】だッ!ならば子供達はなんだ・・【夢を見て未来を創る者】後に続く者と書いて【子供】だッ!俺達は子供達の為に明日を繋げるためにあるッ!どんな形であれ・・大人は子供の為に未来を作ってくれるッ!この世でそれができない人間が一番のクズ人間だッ!貴様は人間失格・・否!大人失格だッ!」


完全に復帰した光太郎。

勇ましい姿と共にその熱き語りが三太郎の心を突き刺す。

今まで無関心だった彼に一撃を与えたのだ。

精神的一撃をッ!


「カッ・・カァァァァッ!!!俺様に対して・・そんな発言は・・認めんぞぉぉぉッ!!」


「さ、三太郎様大変だ・・ッ!!」


「なんだッ!!」


「全国のハイジャックしたモニター越しの視聴者が・・あっちこっちでアイツの事応援してやがるッ!それも一人二人じゃない・・交差点では数え切れない人が・・・ッ!!」


「な、なんだとッ!?」


全国の者は彼に勇気をもらった。

そう、彼の勇敢な姿に全ての者はその熱意全てを受け取った。

どれだけ必死に戦い、どれだけの人生をそこに作り上げたのか。

全ての者に理解されたのだ。

今、ここにいなくとも感じられる。

全国で、彼が応援され、光太郎の勝利を待ち望んでいる人の声がッ!


「・・聞こえなくとも・・感じる・・この向こうにいる人達の思いが」


「ふざけんなッ!お前をここから絶望させ・・うおッ!!」


ついに反撃の一打が通るッ!

真っ直ぐ放たれた拳が奴を殴り飛ばすッ!

全ての者の思いに答えるべく、もはや負けるわけにはいかない。

そう心から確信的な思いを抱き、勇ましき雄姿ある姿を見せたのだ。


「こ、コイツ・・」


『観念しなさいッ!もう貴方の後ろ盾はないんだからねッ!』


「にゃにぃ!?」


この瞬間の隙をついて満を持て登場する愛川の姿ッ!

三太郎が声のする方を振り向けばそこには愛川の姿がある。

そう、ラベンダーと苺の救出に成功したのだッ!


この作戦は相手に悟られずいかに相手を油断させるかが求められていた。

警察の協力も必要とされたていたが。

この救出のみ愛川だけの作戦として与えられていた。

一見危険極まりないが、愛川もそれは承知。

人の命がかかっている時に四の五の言わないのが愛川である。


「愛川お姉ちゃん!来るって・・信じてたよ!」


「ごめんね・・こんな傷だらけに・・待ってて今縄を解くから・・」


「・・ッ!!」


「(ごめんね・・こんなに怖がらせて・・)」


ぶら下げられから近くの足場に戻る事ができほっと一息をつき。

思わず今までの辛抱強く耐え抜いた心から涙を流す。

これにはラベンダーも嬉しさのあまり泣きながら愛川の下へと抱き着く。

2人の恐怖と哀しみを受け止め、二人を抱く愛川であった。


「おーのーれぇぇぇぇぇぇぇッ!!もう絶対に許さんぞッ!!こうなればもういいッ!ダダッ!アイツだけでも殺せッ!!」


「承知ッ!うひょょょょッ!」


気色の悪い男がアネモネにと飛びかかりぶら下げられていた縄に向かい。

紐を切断をさせようとナイフを取り出して行くッ!


「させるかッ!」


しかし、それに秒速対応をして勢いのまま阻止しようとする愛川。

一見、愛川の方が早いようにも見えた・・だがしかし!


「この女早いッ!?だが・・ッ!死なばもろともッ!」


スバシャァァァッ!!


最悪の事態が発生したッ!

なんとか気色の悪い男は気絶させる事に成功したが。

その代償として男の飛ばしたナイフで紐が結局切らされてしまったッ!!

絶体絶命の大ピンチッ!

アネモネはそのまま落下するしかなかったッ!!


「キャァァァァッ!!」


「アネモネちゃんッ!」


「アネモネェェェェッ!」


「い、行かせるかぁッ!」


「クソがァァァッ!退けぇぇぇッ!!」


アネモネの中で目を閉じてもはやこれまで。

彼女の中ではもう走馬灯が見えていた。

落下する中、色んな日の思い出を回想させる。

楽しかった時、苦しかった時。

哀しかった時、嬉しかった時。


全ていい思い出だった。

もう、ここで人生が終わるのならそれでも悔いはない。

父に育てられて母に産んでもらい何も悔いる事はない。

ただ、最後の最後で・・父に面倒をかけさせてしまった。

みんなを巻き込んでしまった。


それだけが彼女の中で心残りだった。

まだ、何も謝罪はすんでいない。

本当は謝って、これからもずっと父の下にいたかった。

これからも、もっと誰かと話をしたかった。

あの母の作ってくれるご飯をもっと食べたかった。

姉達にもっと色んな事を教わりたかった。

友達ともっと遊びたかった。


そう、悔いは無いなんて嘘だ。

思い出せば思い出すほど。

彼女の中ではもっと生きたいと願うのだった。

そんな願い叶うはずもないのに、こんな絶望に叩き落とされても。

なお、そんな願いを抱く自分が情けなくてしょうがないと思った。


そう思いながら、アネモネは死を覚悟しても。

それを覚悟の上で心から放ったのだ。


本当の嘆きを。


「助けてぇぇぇぇぇッ!!」


一瞬、その目には何も狂いは無く。

本当にアネモネは落下してしまうのではないか。

もう、助ける事はできないのではないか。

周りはそう思う人もいただろう。

だが、しかし・・。


この圧倒的絶望の状況化において、勝利をもたらす男が現れたのだ。

その男は一体どこから現れたのか分からない。

一体、何故勝利をもたらす事ができたのかは分からない。

けれども、その場にいた多くの絶望した人達を希望へと誘った。


そう、全ての者から見て間違いはない。


生きている。


アネモネは 生きていた。


落下したアネモネを抱きかかえたたった一人の男。

それこそ、柳原 菊である。


「・・菊・・お兄様・・ッ?」


「大丈夫かい?アネモネ」


「ああ・・菊お兄様ッ!」


「な、なんだとぉぉぉぉぉッ?!」


泣き喜び思わずアネモネは抱きかかえられているその姿勢から抱き着く。

死ぬかと思ったこの状況化での最高の救世主。

アネモネだけではない、全ての者が救われた瞬間だ!


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