第百二十五話「幼馴染のすれ違い」
「はぁ・・掃除飽きた、マリア先生に会いたい」
「しっかりしてよ武蔵、あともうちょっとで全部並び終えるから」
「だってさー・・俺達だって本当は今の時間自習しているはずなんだぜー・・それを大人の事情だ云々でやらせてくれねぇし堕舞黒はムカつくし・・最近この学校おかしいぜ」
「偶然だよ、きっとこの前のも・・きっとね」
「いいや、アレは陰謀が働いてるね、裏では社会の闇がうごめいているんたぜきっと」
それ、あながち間違いでも無いんだよね。
まだあれから1時間も経たないのか。
俺と武蔵と華蘭でとりあえずは書物の整理。
信二は掃除に夢中、愛川は職員の様子を見て来てくれているらしいが。
それもいつになる事やら、先は長いね。
ま、武蔵のあの性格なら飽きっぽいのは無理もないけど。
「だーッ!さっさと終わらせてもう帰りたいなーッ!」
「こらこら・・一様学校に通っている身なんだから・・そんな事言わないの」
「だってもう飽きた、俺は飽きたよ」
ついにピカピカに磨かれたばっかの床に寝そべりやる気を無くす武蔵。
ずいぶん飽きっぽい性格だな・・駄々をこねる子供の様だ。
「時間に余裕があったらまた夜勉強付き合ってあげるから、今は掃除しよ?」
「・・お前が付き合ってくれんだったまあ・・別にいいけど」
流石は長年二人でいるだけあるな。
華蘭はもう扱い慣れてるお姉さん的立ち位置や。
いや、むしろ華蘭いなかったらストッパーなんていないんだけどな。
「よーし、良い子だね~」
「ガキ扱いすんじネェッ!!」
「フフッ・・ごめんごめん!」
とっさに撫でられて恥ずかしそうにする武蔵。
怒られているのに嬉しそうな華蘭。
こういうやり取りできる仲って羨ましいな。
俺も前まで似たようなやり取りしていた様な気もするから。
完全に他人事ではない気もする。
でも、今こんな感じのやり取りを幼馴染とやるってのは・・難しいだろうな。
だから今でも仲の良い二人ってのは本当に羨ましいよ。
「・・はあ、いつまで経ってもてめえはてめえのままなんだよな」
「急に何言いだすの?」
「いや、一緒にいると楽だなって・・お前と」
「ん?私も君といる時とっても楽だし楽しいよ!いつも・・いつもね!」
「そりゃあ良かったぜ」
「うんうん!」
仲はいいけど、心の通いはどこか違うんだよな。
多分華蘭のあの言葉の奥には隠れた恋心があって。
武蔵の中には純粋な親友とか幼馴染として楽な気持ちがある。
そういう事なんだろう。
かみ合わない会話とか恋愛って大変だよな。
「・・ねえ武蔵」
「なんだよ、急にかしこまりやがって」
「まだ・・マリア先生の事好き?」
「あ?当然だろ・・俺はいつまでもマリア先生一筋だっつうのッ!」
「へへ、そうだよね・・うん、そうだね・・」
「なんだよ・・今日のお前変だぞ」
「ううん、大丈夫・・ちょっと覚悟決めただけだから」
「覚悟?」
こういうしんみりとしているけどどこか応援したくなる切ない恋路。
つい、黙って本棚に背中をくっつけて、空気になって。
このまま二人きりって状況に思わせていつまでも聞きたくなる。
不思議だ、誰の目から見ても他人事のこの状況下で。
心の中では、どうか叶ってほしい。
そんな応援したくなるほど心がざわつく。
今日も部屋と言う部屋があつくなってしまうな。
「好きな人がいるんだ、私」
「ああ、言ってたな」
「でも・・その人他に好きな人いるんだって」
「えっ!?お前・・フラれ・・たのか?」
「こんなお荷物やっぱり要らなかったんだろうね」
「ひでぇ事言う奴もいるもんだな」
オマエノコトダゾ。
「・・でも私その人に怒ろうとか・・憎もうとか一切ない・・」
「フラれ・・たのに?そんなひどい事言われたのに?」
「言われたわけじゃないよ、そう感じただけ・・」
「そ、そうか」
「まあ・・アレだよ・・本当に心の底から好きな人はね・・たとえ誰かと付き合っていても・・誰かと結婚しても・・ここの底から言ってあげるんだ【がんばれ】とか【おめでとう】の言葉をね・・本当に好きなら祝福してあげるの、それもまた恋路だよねって」
「・・華蘭・・お前・・」
「あはは、ごめんね・・しんみりさせちゃって」
「いや、悪くねぇよ・・ただスゲェなって・・俺にはできない考えとか普通にやりやがる」
「きっと武蔵にもできるよ」
「だといいけどな」
「フフッ・・できるよ・・きっと・・(する機会もないだろうけど)」
「なんか言った?」
「ううん、何も」
本当に末永く爆発してほしい本棚の後ろから澄まして聞こえるこの会話。
むずがゆいったらありゃしない。
武蔵も武蔵だよな、一途なのはしょうがないけど。
こうまで想いに気づいてあげられないあたり。
やっぱりその辺は鈍感なんだろう。
男なら・・誰でもありがちだからしょうがないけどな。
さて、そんな武蔵君の恋路が分かった所で。
そろそろ作業の再会をしなきゃな。
「大変ですッ!皆さんんんんッ!!!!」
「あ、愛川ッ!?どうしたそんな慌てて・・」
「大変・・大変なんですッ!私・・つい見てしまったのですッ!!」
「1年の・・どうした・・何が・・大変なんだ」
この時、知る由も無かった。
「また・・何か起きたの?まさか・・」
この愛川の一言から。
「いえ・・違うんです・・堕舞黒さんかは分かりませんが・・」
瞬く間に物語が進展して行く事を。
僕達はまだ知らない、悲劇のその先も。
まだ、何も・・知らない。
「マリア先生が・・拉致されてしまったんですッ!」
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