第十一話 「主役的人間」
一波乱あったもののなんとか図書館で過ごす事ができそうだ。
相も変わらず愛川の違う愛の視線と藤宮の嫉妬の視線に挟み撃ちにされて死にそう。
この空気を誰か変えてはくれないものだろうか。
「相変わらず好かれていますね、柳原先輩」
「ん?その天才的男前な声・・頭の良さが一発で分かるくらい優秀な頭脳持ち・・つきましては二学年トップ・・総合順位三位という驚異的イケメン秀才・・・俺の後輩第一号!」
「よしてくださいよ、俺はそんな天才じゃないですから」
「またまた~ご冗談を~!」
「ほ、本当ですよ!!」
地毛の茶髪にショートヘアー、凛々しい瞳にキリっとした表情。
制服のキッチリ具合からそれはそれは真面目な人物だという事が一発で分かるであろう。
彼の名は【大宮 大和】。
二年生の中でも学年順位は瑛里華嬢を抑えて一位、三年から一年までの総合順位でも三位。
さらに知識だけでは止まらず。
やった事のないスポーツからゲームまで練習一切無しで相手を一網打尽。
別に筋肉がムキムキだとかメガネをかけるほどがり勉というわけでもない。
素で覚えるのが早すぎる、理解力のありすぎる秀才、超速理解。
その圧倒的常人では理解不能な成績優秀は一体どうやったらなれるのか。
本人ですら「どうやって覚えたか忘れたけど・・体が覚えててくれる」と言う始末。
これが我々凡人にはできない天才の境地なんだと理解した。
しかし、そんなコイツにも大きく悩まされる悩みがある。
それは何かって?
「そういえば大和君や、ここに来たという事はまたアレかい?」
「あ、はいそうなんですよ!妹達が今のレパートリーに飽きたと言うものだから・・」
「なるほど・・それでこの大図書館へ来たわけだね」
「そういう事ですよ~・・いやーやっぱり4人兄妹って大変ですよ」
「それを家族無しで支えてんだ、お前はスゲェよ・・まったく」
「大した事じゃないっすよ、俺が面倒見てやらなきゃいけないのは当然ですし、俺あんまり苦とも思ってはいませんからね」
そう、大和に家は【両親がいない】のである。
どこのラノベ展開御用達の家庭である大和の家にはまさにラノベ的3人の妹がいる。
中学三年生の【真美】中学一年生の【沙貴】小学6年生の【奈美】。
どの子にも嫌な顔一つもせず毎日食事から勉強なにから何まで教えるあたり。
かなり優しい兄だ、という一番上だからしっかりしなきゃいけないという。
プレッシャーあるいは使命感で自然と体が動くのだろう。
プレッシャー・・使命感ッ!?
ハッそうか・・俺の頭に今電流ぽっいのが走ったぞッ!
分かった・・分かってしまった・・今俺の中は解放されているッ!
コイツが天才になれる理由・・大和が今こうやって秀才になれる理由ッ!
ズバリ主人公補正ッ!
奴はこの危機的生活環境においてもバイトを掛け持ちして生き延びているッ!
その過労の果てには心配する妹達・・そしてメインヒロインの姿があるッ!
と言う事は必然的にラノベで言う大和は主人公・・そう、これは神が与えられし境地!
恐ろしい奴だ、生まれもってここまで幸福な奴はいない。
ましてや主人公という地位だけで恵まれている・・。
大和・・我ながら恐ろしい後輩を俺は見つけてしまったのではないか?
「大和・・」
「なんすか先輩、急に改まって・・」
「君はこの先も前へ出続けるんだ・・決して後ろへ下がるんじゃないぞ・・」
「えっ?あ、えっと・・はい・・(先輩の頭の中で何があったというんだ・・)」
その時、地球の歴史はまた一つ動いた。
が、特に世界が変わる事は無かったけど。
藤宮が後ろで愛川ともめていた所を西園寺さんに頭を鷲掴みにされていた。
こうしてまた一つ、人類の歴史は刻まれたのであった。
ありがとう、大和・・そして、感謝。
「先輩ッ!?なんで手と手を合わせているんですかッ!?合掌ですかッ!?僕何かしましたッ!?ていうかなんでそんな浄化される一歩手前みたいな顔なんですか?!先輩?先輩ちょっと・・せ、先輩ィィッ!!」
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お詫び:多事情により大和君の名前が【大宮 大和】になりました。