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秋から冬へ 焦る

 木々が色づくにはまだ早く、しかし夏はとうに過ぎ、日差しも弱くなりつつ、あれだけうるさかった花火の音もぴったりと止んでいた。セミに代わってコオロギの羽音が耳に馴染んできたようだ。森に行けば、サルナシが肥え太っている時期。そろそろ受験性は二種に分かれる。勝ち組と負け組。


 俺は焦りまくっていた。

夏期講習で伸びなかった、学力の隙間を埋めようと、もっと早い時期にすべきことを後半になって付け焼刃で稼ぐ。そんな俺の姿に、家族も空想の友人たちも呆れている。

 

 大胆な男が現れて、予備校内で威風堂々と振る舞う。そんな幻想を観て彼に憧れる。彼の名前は(なかば)

高校時代のクラスで一番イケていた男子生徒をトレースした架空の友人の一人である。

縦じまのシャツにジーパン、大柄で胸板が厚い。劣等感などは、微塵(みじん)も感じさせない。

俺は、何度も彼に自分と変わってくれないかと望んだ。央のようになんでも積極的に行動したかった。他人の顔色をうかがい、気弱で声の小さいおどおどした自分に嫌気がさしていたからだ。

だが、彼のように俺がなることも、彼が俺の代わりをしてくれることもなかった。

央は無言で拒否した。

最初から無理な要求だったのだ。


 架空の友達は自由にコントロールできるが、誰かの代わりにはなれない。もちろん自分が彼らになることもできない。まゆみの真摯さが少しでも俺に備わっていたらと残念に思う。妙子の理知的な思考が俺の将来を見通す能力にプラスに働いていたらと空想する。でもどれも叶わない。俺はダメなままの存在でしかない。それでも生き抜いて合格しなければならない。


 外出先の商業施設で、高校時代の同級生に出会った。相手は女性だった。

服装は覚えていないが。高校時代ハマトラのソックスを履いていたことだけを瞬時に思い出す。

俺はあのソックスの柄が苦手、いや嫌いだった。好き嫌いで考えると嫌いという感情が俺を拘束している。損な性格だ。

「あら、地淵くん」

「おう」

会話はそれだけで終わった。当時も今も対人コミュニケーションはどうしていいのかわからない。

雑談も会話もなかった。そもそも高校時代から、女性が苦手になってきている。

中学生時代は気楽に話せた女生徒が、高校から遠くの存在として離れつつあった。

 

 話をすることで受験生生活が上手くいかないことを悟られたくなかったわけではない。

そんなことはどうでもよく、ただ人とどう話せばいいのかがわからなかった。

頭が停止して言葉がでなくなる。

当時はそこまでしか思考できず、久々に会った異性の同級生に対してなんの話題を振ればいいのかなんて見当もつかない。冗談なら言える。雑学的知識も言える。でも普通の会話をどう組み立てればいいのかわからなかった。


「女の子に『おう』はないでしょ」

とまゆみにダメ出しされる。

わかっている。わかっているんだけど、どうしても怒気を含んだ声が出る。

まだ自分を外向きにコントロールは出来ていない。


机に向かうが、大学別の赤本は解けない。長文解読は判らない英単語が半数以上ある。二浪めも一浪目と同じ結果になる可能性が出てきた。

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