過ぎゆく夏~勉強は?
盆踊りの太鼓が聞こえる。
公園を彩る提灯、高くそびえる櫓。様々な露天のタンパク質を焼く匂いが食欲をそそる。
巻き貝がよく乾燥した殻から肉をはみ出させ蓋を少し持ち上げた格好で醤油の焦げたにおいを振りまいていた。
ざっと一昨年の記憶だ。あの喧騒に身をゆだねたい誘惑は感じているが、二浪目という立場が願いをかなえさせてくれそうにない。遠巻きに薄ぼんやりとした赤い灯を見るだけだ。
夏期講習の応募を忘れてしまい。ぎりぎり滑り込みで受講したのは、ゲストの人気講師の英語、一講義だけという凄まじさ。親には内緒にしていたが。夏休みに予備校に行かないのも疑われるので、他はさほど人気のない自校の講師の講義を受けまくった。教室の熱気は人気講師のクラスに比べると、寂しいものがある。
それでも受けないよりはましと腹をくくる。
良く考えると有名大学志望なのに何をポカやってるんだと腹が立ってくる。
にもかかわらず、落書きノートの返事が楽しみで喫茶店には足しげく通う。
家に帰ると、まゆみに責められる。
「なんで申し込まなかったの」「夏休みは天王山でしょう」「今焦らないで間に合うの」矢継ぎ早に叱責が飛んでくる。
「そこまでにしておいたら」妙子がまゆみを抑えた。
「あなたが甘やかすからこんな事態になったんでしょ」と髪を振り乱して、詰め寄る。
俺は勉強机に背を向け、二人の対立を傍観する(勉強してればいいのになんだが)。
「もう二年目なのよ。後がないのよ」
まゆみは俺が去年の二の舞になることを心配している。
「彼もそれぐらい心得ているでしょう」
一方妙子は、俺のことを信頼しているのか、それともどうでもいいのか、あまり急かすようなことはしなかった。
だから俺は思う存分甘えていた。それが取り返しのつかない事態を招くことは薄々感じていた。
でも、何かアンバランスな状況にしか頭が働かないのだ。現状を無視して未来をひたすら楽観視する毎日だった。
まゆみは怒って出て行った。
俺は手招きをして妙子を誘う。
レースのカーテンをまとい俺は妙子にキスをした。
まゆみは当然いない。出てこない。
なぜ彼女はそこまで従順なのか、俺の分身ながら彼女の事なかれ主義は珍妙に思えた。
それでも俺は甘えていた。
古文単語の「あからさまなり」の意味が未だに覚えられなくても、必死にはなれなかった。




