Hand in Hand (改)-ある文化祭の一考察-03
ぜんかいのおはなし~!
富野研のバンド、なかなかレベル高そうですよ?
おしまい!
「どうだい? 司馬クン。そちらの首尾のほうは?」
「余裕だな、西村朋晃サンよォ。…本気で首獲ってやるから覚悟しときな…」
K大祭初日、朝から暑苦しい戦いが始まっていた。
その相手は西村朋晃、司馬の同期でK大の院生である。
「ま、まぁまぁ、司馬さんも西村さんもここは落ち着いてください。美味しいお茶でも淹れますから、今はどうか争わないで!」
メイが男たちの中に割って入る。
「大体、勝負は最終日のステージで決まるんです。今からそんな調子ではお体が持ちませんよ?」
「いやぁ、メイちゃん。噂に聞いていた通り、まるで天使のような優しさだ。こんな男臭くて胡散臭いしょうもないオトコのところにいること自体、信じられない」
「男臭くて胡散臭いとはよく言ったもんだぜ。そういうお前は、なよっちぃモヤシ野郎だろうがよ!」
「全く… 君には気品というものが全く感じられないのだな。これでは君のところにいる女性陣がかわいそうだ」
「確かに、男臭くて胡散臭いことには間違いありませんわね」
秋帆まで中に割って入ってきた。おいおい、騒ぎだけは勘弁してくれよ?
「気品も教養も下の下だと… そう思いますわ。でもね」
秋帆の鋭い瞳が西村を捉えた。
「仲間を想い、慕われる素地は一見の価値アリですわよ? そうは思わなくて?」
「お嬢…」
司馬の瞳がかすかに潤んでいた。
「フン、それはどうだか。大体、研究室で最年長だってだけだろ?」
「そう思われるなら、それもよし。ただし、こちらもただでは済まさないとお思いくださいませ」
メイが淹れたお茶を一気に飲み干すと、西村は白衣を直しながら退出した。その場にいた女性陣全員がその背に舌を出してブーイングの意思表示をしてみせる。
「まったく困った野郎だねぇ…」
村山が司馬の傍で一言。
「まぁ…今度の失態を引き起こしちまったのは、俺だ。何言われたって仕方ないさ」
そして、司馬は秋帆の方を見て一言。
「お嬢…、アンタの言葉、この司馬繁しかと受け取った。俺の演出した明日のステージ、楽しんで演ってくれ」
「言われるまでもないですわ。私は私の意志でこの富野研に居たいんですの。そこのところをお間違えなく」
◇ ◇ ◇ ◇
「西村さん、いいんですか? こちらで勝手に進行させては頂く予定ですが、どうしても理解できないんです。このチームの団結力と根拠のない自信…。裏に何かあるのでは?」
ボクの側でウロチョロしている同期の鵜飼が心配そうに聞いてくる。
「心配には及ばないよ、鵜飼クン。こちらだってボクのコネクションの全てを使って、最高のバンドを構成している。必ずあいつらを叩きのめして女性陣を我が研究室へ迎え入れるのだ! それに…」
ボクの視線は最終日のステージに向けられていた。
「すでに打つべき手は打ってあるよ。この西村朋晃の財力、とくと知らしめてみせる!」
◇ ◇ ◇ ◇
「マスター、一緒にいろんな展示を見て回りませんか?」
「俊樹。あたし見てみたい展示、あるんだけどな?」
メイと沙耶。どちらも肝心な俺の方見てないじゃないか? お互いを見合ったって、決定権は俺にあるんじゃないのか?
「おいおい、一度に誘われてもどうこうできないぞ。だいたい俺は退院して間がないんだ。慌てるな」
「そんなこと言って。お医者さんに『超人的な治癒スピードだ!』って言われてたじゃない」
沙耶が口を尖らせる。時に見せる、駄々っ子モードに突入してしまった。
「そんなこと言ってもだなぁ…」
「そうですよ、沙耶さん。マスターは病み上がりなんです。あんな大怪我の後ですから、あまり無理させてはいけません」
「じゃあ、メイちゃんが遠慮なさいよ。いつもいつもメイちゃんばっかりなんて、ズルいと思う!」
やっぱり俺の方を見てない。…全く、お前ら俺をどうしたいんだ?
「一番悪いのはマスターの方です!」
「そうね。ハッキリしてくれない俊樹が一番悪いんだわ!」
二人の視線が、いきなり俺に向けられた。
「そんなこと言ってもだな、俺は沙耶やメイ達の衣装、全部一人で作ったんだぞ? 少しは休ませろ!」
「人の気も知らないで、マスターは全く無神経です!」
「この人参野郎!」
「どーして俺が責められるんだよ!」
で。
結局ジャンケンして、一時間の交代で学園祭を回ることになった。
最初はメイと。
そして沙耶と回った後、衣裳の試着と手直しという超ハードなスケジュールをこなすこととなった。
故に、二人と巡った学祭での内容は、残念だが割愛させてもらう。俺の頭は身も心もデリケートな女性陣の衣裳サイズのことで手一杯だったのだ。最初に測ったサイズで合っているだろうか? 否、幾分か余裕は持たせて計測している。本人の申告はあえて無視して作らせてもらった。後はピンなどで仮止めして、ざっと縫いを残すのみなのだ。
残すのみ?
そう思うだろう。しかし、違うのだ。
衣裳を手作りするコスプレイヤーの皆さんにはきっと、経験があるかもしれない。
ただ現場で合わせるだけなら、安全ピンで留めるだけでいいのだよ。
しかし、だ。今回は違う。ステージでの激しいアクションが待っている。
演奏中に衣裳が破れたり破損することだけは避けないとならないのだ。
でありながら、本人のプロポーションを活かしたデザインを崩さないよう気を配らねばならない。
何とも悩ましい案件だ。俺は大きなため息をついた。
◇ ◇ ◇ ◇
俺がデザインした衣裳というのが、キャンパスライフをイメージした袖なしのトップスにネクタイ。舌は赤いチェックのスカート又はレギンス、どちらか好きな方を選択させてある。レディースの衣裳というものはコレでなかなか値が張る物が多い。故に、生地から型紙に合わせて切り抜き、縫い合わせ、組み立てるのだ。勿論、激しい動きに合わせて伸び縮みする素材を使用してある。ベースはそれ。そこまでで2回ほど訂正をくわえた。その上での各自コーディネートをするには全く問題無しとしてある。そこのあたりのアレンジは、男の俺より女性陣のほうが確かな目を持っている… 筈だ。
時間は限られている。なんとか早く最終試着してもらって、本番に間に合わせなくては…!
◇ ◇ ◇ ◇
「マスター、マスター! このたこ焼き、とっても美味しいですよ?」
メイがたこ焼きの乗った皿を持ってやって来た。
「…ああ、たしかに上手く作ってるな。ふわとろでありながら、しっかりとタコが自己主張している。上にかけられていたソースもさることながら、更に上にかけられたマヨネーズの美味いことといったら! とても市販のものとは思えない。新鮮な卵とピネガー、それに加えて絶妙の塩加減! …これはなかなかの手練と言わざるを得まい。」
「くふふ… マスター、何気にこういうのにこだわるんですね」
「そりゃ、食べるということはヒトの基本的な欲求にして、もっとも正直な感覚だ。美味いものは国家間における外交手腕にすら深く関わってくるんだぞ。舐めんな」
「確かに。随分と長い間沙耶さんのお料理を食べていたら、そのような感想を持つのも仕方のないことかもしれません。ですが、あまり深くこだわりすぎるのもどうかとも思いますよ?」
「? どういうことだ?」
「覚えていませんか? いつぞやのお好み焼き論争。沙耶さんは大阪風ですが、マスターは広島風から絶対に譲りませんでしたよね? とってもおかしかったです」
「おまえ… わかってないな? 広島風って言うな! 広島のやつこそ本道のお好み焼きだ! ちゃんと理解しろよ。父親が妻や子供たちの前でその腕前を披露しつつ、温かい雰囲気でそれを食す。材料を全て一つの容器に入れて渾然一体となったものをワイワイガヤガヤ自分で好きなように焼くだなんて、ハッキリ言うが…!」
「ま、マスター… そこから先の言動は大阪の方を敵に回しかねないかと」
「お好み焼きは鉄板の上の芸術だ! そこの所は譲る気はない! 大阪焼きと一緒にしないでくれ」
「(大阪のみなさ~ん、あくまで一個人の意見ですので、どうか気になさらないでくださいね~)」
◇ ◇ ◇ ◇
「俊樹~! 今度はここの展示を見てみましょうよ!」
沙耶が嬉しそうに子供を対象にしたワークショップの展示研究を指差した。
…そうだったな、沙耶の第一志望は小学校の教師だったけっか?
「面白いのよ。先日やった新聞紙でエア・ドームを作るってワークショップをやったんだけど、作るときよりも最期に壊すときのほうが盛り上がるの。一気にバリバリってね、ドーム状の新聞紙を破っていくのよ。本当に楽しそうだったし、私も楽しかったなぁ…」
遠い目をしながら、沙耶は次のワークショップへの構想を練っている模様だった。
「…ちょっと、疲れたな。どこか喫茶のブースにでも行ってみるか?」
「そうね、近い所ででも…」
そうして最も近いところにあったのが『純喫茶 第三帝国』だった。
「…本当に入るの?」
「いや、最初のところって決めたところだし…」
「へいらっしゃい!」
あれ? なんで司馬がいるの?
「ここは俺の趣味で開いた喫茶店だ。まぁ寄ってってくれよ」
暖簾からしてなんか鍵十字だったりするんだけど、気のせいか?
中に一歩入ってみると、まず目に飛び込んだのは大きな戦車のオブジェであった。
「どうだ? 俺が寝ずに作ったレオパルド1A4! 駆動モーターも仕込んであるから、砲塔が回るんだぜ!」
「…ここで司馬さんのポジションを聞かせてもらってもいいですか?」
「演出総括だが、なにか?」
…そう言えば、店内の展示がやたらミリタリーに偏っている。それも第二次世界大戦のドイツ軍の…
給仕のスタッフもまた、ドイツ軍服らしきものに身を包んでいた。それぞれ徽章によってランクや仕事内容が違うらしい。
「ま、ナリはこうだがちゃんとした喫茶店だ。アブフェルクーヘンとセカンドフラッシュのダージリンだ。美味いぞ」
「アブフェルクーヘン…?」
「簡単にいえば、ドイツ風アップルパイだな。それからセカンドフラッシュと言うのは、ダージリンの中でも特にフルーティな香りが特徴のお茶。ストレートで飲むと、甘いパイにピッタリ合うぜ」
「んじゃ、それを」
「あたしも♪」
しばらくして、ケーキセットが手際良く運ばれてくる。
「それでは、早速…」
美味い! 抑えめの甘さに加え、リンゴ本来の風味が絶妙なハーモニーを奏でている。
それに、提供されたダージリンの良く合うこと! これは司馬の隠された一面を見せつけられた瞬間だった。
「あざ~っした~♪」
司馬の声を後ろに、俺達は次の展示を見に足を早めた。残り時間はもう少ない。
「さぁ、残りの時間を楽しもうぜ」
俺は沙耶の手を引くと、沙耶は嬉しそうに顔を赤らめるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
で、だ。
俺はこの日の晩から朝にかけて、やはりと言うかなんというか、やっぱり発生した衣裳の手直しで殆ど寝ていない。その上でお嬢様方のエスコートも、だ。疲れないわけがない。とは言え、いつもいろいろと世話になっている分のことはしなくてはならない。
故に、今は少し眠らせてもらうことにする。
おやすみ、騒々しい毎日よ。これで俺の役目もひとつ、終わる…。
ハイ、皆さんこんにちは。
この章では皆が青春してますね~。
楽しそうですね~、私も大学時代を思い出してしまいました。
さて、すでにアップしてある外伝との差はおわかりになっておりますでしょうか?
外伝よりもかなり加筆修正させていただいております。
おっと、またまたお時間をオーバーするところでした。
それでは皆様、さよなら、さよなら、さよなら~♪




