街路樹は知っていた-15
ハイ、今日もギリギリ間に合いました。
そんな訳で…
ぜんかいのあらすじ~!
小原一馬が現れました
おしまいっ!
その声の主は身長160前後。ヨレた白衣から覗く、これまたヨレヨレの赤いストライプの入ったワイシャツ姿。平均的な40代を思わせる顔立ちと白髪交じりの髪。猫背と両腕の腕貫がトレードマークと言ったところか? 一見どこかさえない感じの普通のサラリーマン然とした男がそこに立っていた。
「小原… 一馬だと? 笑わせてくれる。どこをどう見ても、ただのオッサンじゃないか」
侵入者は続けた。
「痛い目にあいたくなければ、ソコをどくべきだ。こちらには人質もいる。おとなしく…」
ヒュ…!
目に見えないほど高速の蹴りが繰り出された。
蹴りは侵入者の右側頭部、丁度耳の少し後ろあたりにヒット。標的はその一撃でそのまま沈黙した。
「舐めてもらっちゃ困る。ボクはこれでも平和主義でね…」
その容貌に似合わず若々しい声。これが本物の小原一馬という男、なのか?
続けて二撃目・三撃目がもう一人の侵入者を襲う。
その男が人質の手を緩めると、それを待っていたかのように右側頭部に当たる耳の後ろへの蹴りを加え、昏倒させる。
小原を名乗る男は、それこそあっという間に事態を急変させた。
「…矢野さん、でしたね? 故あってこの格好のままで申し訳ないが、改めて申し上げる。このボクが小原一馬本人です…」
◇ ◇ ◇ ◇
「今、青年たちがこの施設を守るべく戦っています。それも後どれ位持つか…」
侵入者たちを縛り上げて外に放り出した後、何もしなかった小原に「何故何もしなかった?」と問うと、彼は笑いながら言った。「記憶を奪うツボがあるんですよ、と。
「耳の後ろ、そう、丁度このあたりにね。短時間の記憶ならこれで消せますので、ご心配なく」
MAI-5000のコアブロックへ行く道すがら、私は正直なところをぶつけてみた。
「やはり、一般大学生には無理だったんですよ。現在、HIH製の守りの要とも言うべきドローンが暴走を始めています。あの規模、破壊力からすれば、ここが陥落するのも時間の問題かと…」
「物は考えようですよ、矢野さん」
その要望に似合わない爽やかな声で、小原は続けた。
「彼らが居たからこそボクがこうして間に合ったんです。素人ながらなかなかいい仕事してますよ。それに、あなた方だって貴重なデータを取れたじゃありませんか。 それを次に活かせばいいんです」
「このパーツだけは、玄田先生手製のものです」
私はMAI-5000のコア・ブロックを開示してみせた。勿論、私の独断である。
「…ここまで回復しているのか!」
小原と名乗る男は感嘆の声をあげた。
そのカプセルの中には羊水に満たされ、その中に浮かんでいる一人の少女の姿があった。だが、その姿をちゃんと見ることはできない。厚いアクリル製のカプセルの中は零下に保たれ、その表面は結露のために白く凍りついている。私はコンソールの幾つかを弾いた。
「端末であるMAI-5000の活動が停止してからというもの、コアであるこちらの生育もまた異常値を示しています。まるで、意図的に再生を急いでいるかのような…」
「もしかすると、アンドロイドという受け皿のキャパシティが既に受け皿としての役割をオーバーしてしまっているのかもしれませんね。それに、急拵えの『人工人間』がどれだけ耐えられるかが問題となるでしょう」
ごぽ…。
突然、羊水の中でなにかが起こった。
「今のは… 一体…?」
私は何が起こったのか、全く把握できないでいた。
「目覚めが近いのかもしれません。これはマズいことになりそうですね…」
ごぽ… ごぽ…ごぽ… 。
羊水の温度が徐々に上昇を続ける。
「…カプセル内圧の上昇を確認。羊水の温度も上昇中!」
田中クンがカプセル内で起きている異常を伝えてくる。
羊水の中の少女が何かを口にした。声にこそなっていないが、何かを伝えようとしていることだけは理解できた。
「羊水内圧、更に上昇! カプセル強度に問題発生!?」
「何が起こっていると言うんだ…?」
私には何がなんだかわからなかった。このような事態は想定外だったし、何も聞かされていなかったからだ。
「早すぎる! このまま覚醒すると崩壊するぞ!」
小原は叫び、コンソールを操作する。しかし…。
「カプセル内圧限界突破しました。水温、沸点を超えています。当設備からの撤退を要請します!」
◇ ◇ ◇ ◇
ズム… ン…!
施設の奥で、爆発音が聞こえた。地響きがここまで伝わってくる。どうやら何かが壊れたらしい。
「今のは?」
私は、私のすぐ側でコントロール・パネルを操作していた右京に問いかけた。
「お嬢様、この施設の奥で何かあった模様です」
「そんなことはわかってますわ。何があったか、確認してきてくださる?」
「…了解しました」
言うが早いか、右京は席を立って音の下方向へと駆け出した。
「左京!」
「何でしょう!」
「ゲデヒトニスをおとなしくさせる方法… 足パーツのパージはできないんですの?」
私の後ろでコントロールを受け持っている左京にも問いかける。
「先程から信号を送っているのですが、全く反応しません」
マズい…、このままでは本末転倒ですわ。守りの要だったはずのこのゲデヒトニスが、よりによってこの施設を破壊するようなことでもあったら…。
「舞衣さん、聞こえていらっしゃいますか? ゲデヒトニスは完全にコントロール不能に陥っていますわ。こちらでも対処をしていますが、おそらく間に合いません。そちらで何とかしていただけませんこと!?」
『舞衣、了解。俊樹クン、行くわよ! 司馬クン達は今何処?』
『司馬・野村両名ともにもうすぐ最前線だ。もう少し待っててくれ!』
『彩花。既に交戦域に到着。今から仕掛けてみる!』
『……』
「村川さんは? 彼は一体どうしているの?」
『わからない。もしかすると、もう…』
舞衣さんの真剣な声がレシーバーから聞こえてくる。
私は一成さんの方へ彼を行かせた自分の判断が間違ってたことを実感した。
何故舞衣さんが私と村川さんとをセットにしたのか。今になってようやく理解したような気がした。
はい、皆さん本文を読んでお気づきになられましたか?
何をかって? なにか違和感を感じませんでした?
つまり、そういうことなんですね。
お気付きになられなかった方は、もう一度彼の登場シーンを確認してみましょう。
おっと、もうそろそろお時間です。
それでは皆様、さよなら、さよなら、さよなら~♪




