もう一度!-05
ぜんかいのおはなし~!
フロンティアコーポレーションで手に入れたメイの設計図。
そして、今度は故・玄田哲也教授の自宅へと向かう舞衣だった。
物語の中核から切り離されちゃった俊樹達の明日はどっちだ!?
◇ ◇ ◇ ◇
「あなたがあの、富野先生の懐刀という…」
ここでもソレか。アタシはとある県庁所在地の駅前にいた。出迎えてくれたのは、玄田麻美。件のフロンティアコーポレーションの社長夫人である。年の頃は60代くらいだろうか、白髪が上品にまとめられている。その瞳はどこか優しげで、それでいて厳しさも兼ね備えたご婦人に見えた。
「懐刀かどうかはわかりませんが、鷲尾舞衣です。どうぞ、よろしく」
「ここで立ち話も何ですので、とりあえずお車に乗りましょうか」
「ところで、メイは元気に動いてるかしら?」
唐突な質問だった。
「動いているか? と言いますと?」
「あら、言葉のとおりよ。MAI-5000 Type-Xは元気に稼働していますか? と聞いたのですけれど…」
「はい。毎日元気に家事や労働や、時には遊びにと元気にしています」
「そう、それなら良かった」
夫人は満足したげにTESLA-Model3の後部座席に座り、その隣に座りなさいと促される。アタシは言われるまま夫人の隣りに座ると運転手が扉を締め、やがて静かなモーター音とともに走り出した。
「あの人はね、初孫の愛衣を蘇らせるだけのために、ロボット工学を推し進めたのよ」
こちらから聞くともなく、夫人の方から切り出してきた。
「そう、俺は天馬博士になるんだと言ってね。何の話かと思ったら、マンガのお話だったの。おかしいでしょ? でもあの人は本気だった。それくらい、生まれた時には本当に嬉しかったのよ。初孫というのはね。あなたにはまだわからないでしょうけれど…」
「病気か… 何かですか?」
「ええ、生まれつき心臓の疾患があってね。とても成人まで生きられないだろうって言われてたの。何度も何度も手術をしたわ。でも、ダメだった。その娘は16歳の誕生日に亡くなったのよ。それはもう大変な悲しみようでね、私も暫くは立ち直れなかったわ。」
「お察しします」
「でもその頃にはね。あの人は何を思ったのか、コンピューターに強い興味を持っていたの。少しでもいい、亡き孫の記憶の一部でも後世に残せれば… と。そして父の研究は日増しに激しくなったのよ。動物の脳をね。取り出して研究したり、行きたまま脳に電極につなげて… 特に私が許せなかったのは、愛衣の脳を亡くなる寸前に・私達が知らぬ間に脊髄と脳を取り出して、生命維持装置にかけていたって知った時…。我が父ながら、なんてことをしてるんだってね」
「脳と脊髄を… 取り出して?」
「そうよ。人としてやってはいけないことを父はやってしまった。私の大切な娘を、あの人自身の孫の命を、一体何だと思っているんだって。私は強く反発していたの。わかるでしょ?」
そういえば、玄田先生はかつて『人の記憶』についてこう言っていた。
人間は、その記憶だけなら僅か数P-Byteの記憶領域があれば十分補完できる、と。
そうか、アタシは納得した。確かに生体実験を繰り返していれば、いずれは記憶に関する正解に行き着く。
「麻美夫人、あなたはあなたの旦那様もその計画に関わっていることを…」
「ええ、知っていたわ。だから今も別居しているのよ。夫は父の技術や理論抜きに商売を成立し得なかった。だからこそ夫は強硬に離婚に反対していたのよ。それが今では、軍用アンドロイドの中核を担う会社を創り上げてしまった。何もかも、私が産んだ娘から始まったの…」
夫人はずっと車の窓から遠くを眺めていた。
「私はね、舞衣さん。専門外だから詳しいことは知らないわ。でもね。今稼働しているMAI-5000を娘として認める訳にはいかないのよ。例え心の何処かで反発していようとね」
「でも、メイちゃん… MAI-5000は普通の人と変わらないほど完成されたアンドロイドでした」
「そうでしょうね。あの人と夫と、三本の矢… あなたの恩師の方々がいなければ、MAI-5000は成立しなかったでしょうね。魂の補完… 父はそう言っていたわ。だからといって、許されることではない…!」
そうか、あの時沙耶ちゃんから聞いたメイちゃんの言葉は… そういう意味だったんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「メイちゃん …あなた、実はとんでもないモノじゃないの? それも、アンドロイドじゃない、別の何か…」
「いいえ、アンドロイドですよ」
「私は自律型ではありますが、ご覧になった通り尋常ではない大量のデータのバックアップを必要とする、特注のアンドロイドです。そのデータ容量はEバイトを遥かに超える、Zバイトを瞬時に処理しています」
「ゼータって… 聞いたこともないわよ。せいぜいテラぐらいしか…」
「何かの本で、人の記憶容量が2000テラ位だって聞いたことはあるけれど、それだって、そういう記号ではなかったわよ?」
「だと思います。実質十数年前までは2Pバイトだと、それが常識でした。でも、違ったんです。魂まで補完するには、あまりにも足りなさすぎたんです」
「…? 何のことを言っているの?」
「忘れてください。ちょっとした豆知識です」
「?」
「ねぇ、沙耶さん?」
「なぁに?」
「世界って、こんなにも美しいものなんですね。人為的には操作できない、本当に神様の造形物みたい」
◇ ◇ ◇ ◇
魂の補完…。果たして本当にそのようなことができるんだろうか? アタシは常々そう考えてきた。しかし、そう考えるとメイちゃんの挙動の自然さも頷ける。
◇ ◇ ◇ ◇
Aという人物がいる
そのAという人物のDNAを使ったクローンA'という人物がいると仮定する。
彼らAとA'は同一人物とみなしてもいいかというと、答えはNoだ。
では同じ魂を持ったAとA'であればどうだろう?
同じ経験、同じ思考…。
おそらくであれば、経験が分岐されるまでは(データセーブしているところまでは)同一人物とみなしてもよいのではないか?
ああ、ややこしい!
今現在宮崎研には、分岐前の『玄田愛衣』のデータが残されている。
そして富野研には、経験を重ねて分岐し、成長しているメイちゃんがいる。
もしも。もしも、だ。
富野教授が開発した暴走を制御しなければいけないような自体でも起こってしまったなら。
それまでのデータが失われるようなことが起こったならば。
それは、アタシ達の知っているメイちゃんの『死』を意味する。
それだけは、それだけはなんとしても避けなければならない。
ああ、もう! 玄田先生も富野教授も、なんという難題を突きつけてくれたんだ!?
◇ ◇ ◇ ◇
「舞衣さん、今日は泊まっていかれるでしょ? もう随分と時間も遅くなってしまったし、ホテルよりはずっと過ごしやすいと思うわ。それに…」
夫人はニコリとしながらアタシの方を向いた。
「私、もう随分と長い間、懇意にできる人とおしゃべりしていないのよ」
はい、MAI-5000計画の全容が明らかになってきましたね~。
これから舞衣さんはどのような話を聞くことになるんでしょうか?
気になりますね~。
おっと、そろそろお時間がやってまいりました。
それでは皆様、さよなら、さよなら、さよなら~♪




