もう一度!-02
ぜんかいのおはなし~!
一馬が行方不明になりました
おしまいっ!
「お、おい。姿を消しちまったって… そりゃ一体?」
司馬も驚きを隠せない模様だ。当然である。今ここにいるメンツの中で唯一、小原一馬の実力を知っているからだ。いくらDOGSが関わっているとはいえそう簡単にくたばるタチではない。
「少なくとも国外に逃れたか、それともどこかで息を潜めているのか…」
村川は席につくと、その言葉の通り頭を抱えた。
「だ、だがよ。EVE-00が稼働してるんだ。少なくともお盆の時期にはいたんだよ。恐らくヤツはこの近くに身を潜めているに違いねぇ…」
と司馬。やはりまだ信じられないといった風だ。
「であるとまだわかりやすいんだがなぁ…」
村川は続けた。
「EVE-00が発見されている以上、おそらくだが、小原一馬は近くにいる… 筈だ。気を抜かないようにしなくちゃだな」
「でもさ。一人で国外へ何らかの連絡を取りに行ったってことは考えられないのか? MITの知り合いとかさ」
珍しく野村がマトモなことを行っている。だが村川はそれを指で制した。
「それならばEVE-00をおいたまま、というところがわからない。とにかく、だ。全員くれぐれも気をつけるように!」
◇ ◇ ◇ ◇
仏生山クレーター富野研究室別室の最深部、大きく重い『冷蔵庫』のドアの前にアタシたちはいた。ZE-AAMYのコアを確認するためである。アタシたちはひとりひとりパスコードと網膜認証をすませた後、三人同時に持っている鍵を取り出した。設計上、ここのドアは3人以上のパスコード・網膜認証・物理的な鍵が揃わないと開けられない仕組みになっている。その鍵を鍵穴に入れた後、1・2・3で同時に鍵を回した。
ガコン… という重い金属音が鳴り響く。鍵はこれで開いたはずだ。アタシたちは思い思いに開放された部屋へと入った。
ここには大掛かりな生命維持装置が入っているところまでは把握している。彼女がいるからだ。だが、こうして実際に室内に入ってみるのは初めてだった。一体どのような装置なのだろう? 少なくとも、玄田先生は『倫理に反する行為』と自ら仰っていた。富野教授もまた、『知らなければ知らない方がいい』とも言っていた。
アタシたちは一歩・一歩、長いケーブル群の先へと足を進める。
進路方向の先に、照明とは明らかに異なる人為的な明かりが見えてきた。ボウ… とした、淡い紫色の光源。自然とアタシ達の足は早くなった。
「これは…」
巨大で透明なアクリル製のドームの中、何らかの液体に満たされたそのドームの中に彼女はいた。アクリル壁は結露して、しかも凍りついている。ドームの中は凍りついてないまでも、相当の低温であることは間違いなかった。液体の中に浮いている彼女には何本ものケーブルが繋がれ、見えないながらも欠損部分が幾つか見受けられる。そのドームの近くにある生命維持装置のモニターは十数分に1拍の脈動を示していた。脳波もまた、アクティブだったのだ。そのことはつまり、 …つまり…
そう。彼女は生きている。
結露して凍りついた水滴などのため中の人物をはっきりと見ることはできない。だが、これがMEI-5000の本体でZE-AAMYによって守られているとするならば、自ずから回答は出てきた。
「メイちゃん… だね」
裕二が思わず言葉に出した。
想像はできていた。計画の概要も大まかに把握していた。でも…
こうやって実際の姿を見ると、あまりのもショックが大きすぎた。ヒトは、ヒトに対してここまでしてもいいのだろうか?
「…そういうことね」
動揺を隠せないまま、春香が呟く。
「どういうことよ?」
「つまりね、舞衣。これはその名の通り、人間の再生装置なのよ」
「再生装置?」
裕二も未だに的を得ていない様子だった。
「この液体のサンプル抽出してみないとわからないんだけど…」
春香はいくつかのコンソールを操作しながら続けた。
「大昔でいう生命のスープ… 人間を構成する有機物の集合体… それがこの液体の正体なのかもしれない」
「てことは…」
裕二が続けた
「そう。玄田先生たちは、この娘を… 器そのものを再構築しようとしていたんだわ」
「それこそ、富野教授が言ってたとおりの…」
アタシもまた、驚愕が止まらない。
「そう、まさに『奇跡』よ」
「それじゃ、俺達がやろうとしていた『感情を持ったアンドロイド』っていうのは… 俺達の夢だったアトムを作るっていうのは…?」
「魂をつなぎとめるための風船… 私たちはそのただの風船を作ろうとしていたに過ぎない。先生たちは、更にその先を行ってたんだわ。あの時聞いた説明そのまんまだったってわけね」
「フロンティアの連中は当然知って… いた…?」
アタシは思いつくまま言葉を発した。
「そうでしょうね。更に言えば、私たちが出会うまで、いえ、もしかすると私たちが出会ったのも富野先生の思惑だったのかもしれない。全ては玄田先生の書いたシナリオ通りに事は進んでいたのかもね」
「でもさ」
裕二が言葉を挟む。
「もしそうなら、一馬が離反したのは…」
「シナリオの範疇か、想定外かはわからないわ。少なくとも今の時点では… だけど」
「どちらにしても、真相を知っているのは現時点において3人だけ。宮崎駿馬・押井譲・そして、ウチの富野喜孝…」
アタシは爪をかみながら考えた。考えに考えた。考えてもわからない。
ならば、これに関わった人物と接触を図るのが近道だ。
「アタシ、一週間ほど留守にするわ」
「え?」
「本気なの?」
「本気なのよさ。玄田先生の本当の目的、一馬がやろうとしていること、押井譲が何を企んでいるか… 多分、いえ、この一週間で掴んでくる…。だからさ」
「本気なのね」
「本気ですとも。舐めんな!」
「わかったわ。私と裕二さんとで彼らを見ておきます。くれぐれも注意してね」
「わぁ~ってるって」
「…俺、空気になってね?」
「大丈夫、今度はヘマしないでよね、名探偵!」
「任せろ!」
こうして私はフロンティア本社へと向かうことになったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳で、明日から一週間ほどバカンスに言ってくるからね。後はよろしくゥ~!」
それは9月を前にしたある朝のことだった。舞衣姉さんが珍しく朝一番に来たかと思うと、俺達にそう言った。
「ちょ、ちょっと、えらくいきなりですね。一体どうしたんですか?」
「ん? 単なる気分転換。後のことは春香たちに任せてあるから、当分の間は彼女たちに相談するように。以上!」
◇ ◇ ◇ ◇
「…ということが朝一番にあって…」
俺は事の顛末を朝飯の時に皆に報告した。
「で、一週間ほど舞衣姉さんはご飯が必要ないそうです!」
「ほほぅ、で、そのかわりにこの方がおいでになっていらっしゃるというわけですね」
平野先生がお茶をすすりながら、その人の方を向いた。
「いやぁ、噂には聞いてましたけど、本当に美味しいですな。春香さんよりも上手かも」
「…三田先輩。別にいいんですけれど、何故ここにいるんですか?」
「ご招待いただいたのさ、舞衣クンにね。美味しいから、不在の間に是非って」
「で、肝心の舞衣さんはどこにバカンスに行ったんだ? 聞いてないのか」
司馬が問いかけてきた。
「はい。オンナには秘密があってこそオンナなんだって訳わかんないこと口走ってまして」
「まぁ、バカンスってことだから心配の必要もないだろう。それよりも」
村川が指をゆらゆらとさせながら、視線を三田先輩に向けた。
「だからって本当に食べに来るって、どういう神経してるんですか?」
「キミ達に言われたくないなぁ。これでも招待いただいた側だよ?」
「大丈夫です! ちゃんと皆さんの分のご飯、作ってありますからねっ!」
いや、どこかズレてるぞ、メイ。
「オンナには秘密が…ですか、確かにいいオンナには必須条件ですわね」
秋帆、いくら上品に手べてるつもりでも、鯵のひらき骨までパリパリと音を立てて食べながら言うセリフではないぞ。
「「全くそのとおりですね」」
右京・左京、お前らのそのブレの無さには改めて感服するわ。
「バカンスかぁ… 国内かしら、海外かしら。一度行ってみたいのよね~、ね、俊樹」
何故こっちに振ってくる、沙耶。なんだか目が怖いぞ。
「先輩ならどこに行ってみたいですか? 私、先輩となら南の島とか行ってみたいなぁ♪」
こら、そういうことを言うんじゃない! 沙耶がますます… ほら、怖い表情になってきたじゃないか…。
「お、俺はどこだっていいよ。みんなで楽しけりゃ、な」
そういうことにしておいた。多分、この選択肢で間違いないだろう。
「痛っ!」
思い切り足をつねられた。何しやがる、沙耶。違ってたのか? 俺の選択肢、間違ってたのか???
「はっはっは、本当にここは楽しい場所ですね。私の心も和むというものだ」
先生、あなたぐらいはマトモでいてもらいたい。仮にも経験豊富な年長者でしょうに!
こうして朝餉をすませてそれぞれが解散、平野父娘は出かけていき、司馬たちは研究室へ、沙耶とメイは俺と一成の、予め渡されていた自主トレーニングの監督をするのだった。
てな訳で、物語の核心部分に近づいてきましたね~。
おっと、もうお時間になってしまいましたね?
それでは皆様、さよなら、さよなら、さよなら~♪




