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あの日のままで-06

ぜんかいのおはなし~!


舞衣姉さんと特訓をしてました

おしまいっ!

時はそろそろお盆に差し掛かろうという頃。殆どの学生が里帰りしている中、俺は行き場もなく研究室で仕事をこなしているといった状況だ。沙耶も実家に帰っているし、メイは今日メンテナンス名義で舞衣姉さんちで待機している。たった一人で自宅のクーラーの恩恵に預かるのももったいないので、こうして研究室のクーラーを独占しようとやって来ていたのだった。


「あ~、古川くん。君はそろそろお墓参りとか考えてないのかね」

平野准教授がコーヒーを淹れながら話しかけてきた。

「ええ、昔のことはあまり覚えていませんので。ああ、それと俺、コーヒーは駄目で…」

「あ、ああ。これは失礼したね。このコーヒーは私が飲むとしましょう」

「すみません。ところで、平野先生はどのような経緯で富野研(こちら)に?」

「富野教授の性癖は君もよく知っているでしょう?私もそのクチでしてね」

「ああ…、失礼ですが、先生も拾われたと?」

「そうだね。もともとアンドロイドの製造メーカーにいたんだが潰れてしまってね。幸い学位だけは残っていたので、再就職先を探していたところ、富野さんとお会い出来たんですよ。私はこれでも修士持ちでね。ならばちょっとここの学生の面倒を見てやってくれと頼まれたのですよ」

「娘さんの… その、彩花さんは、ここの学生だったんですか?」

「お恥ずかしながら人文系の学部でしてね。私が富野研(ここ)にご厄介になると言った時には『わたしも学部を変わる!』と言い出しまして… ご迷惑になってなければよいのですが」


「あら、わたしは迷惑かけるようなことしてないわよ、お父さん!」

突然準備室から声がした。彩花である。

「本日の差し入れです、先輩! 気に入っていただけると嬉しいな」

と眼の前に差し出されたのは、一人前には若干大きなカップケーキだった。

「今から先輩の好きな紅茶も淹れますからね、少し、休憩しませんか?」


「…美味いな」

これは沙耶や現在のメイの技量に勝るとも劣らない、上品な味わいだった。

「本当ですか! 嬉しい!」

嬉しそうに手を握ってくる彩花。父親の平野先生もまんざらではない様子だ。

「幸せな時というのは、あっという間に過ぎ去ってしまいます。仕事にかまけて家庭を顧みなかったために、私は妻の心を深く傷つけてしまった。だから君も幸せな時間は大切にしないといけませんよ」


遠い目をしながら、准教授。ああ、なんだか重い話になりそうだ。


「と、ところで先生はお参りにはいかないんですか?」

「行きますよ。今度の日曜日にね。君こそ覚えてないとはいえ、行っておくべきだと思いますよ。もしかすると、なにか良いことが起きるかもしれない」

「良いこと、と言いますと?」

「例えば、失った記憶のこととか」


「…どうして先生がそんなことまで知っているんですか?」

「知ってますよ。あなたは有名人ですからね。それに、私も君に興味があるのです。あの富野教授が何故君をここに招き入れたのかを」

「…それはちょっとした気まぐれですよ。いつものことです」

「果たして、そうでしょうか?」

「…その真意はなんですか?」

「いえいえ、ふと思ったことを口にしただけです。もし気に障ったならば申し訳ない」


「ねぇ、難しい話は後にしてくださいよ! 先輩!」

突然彩花が割り込んできた。

「私も気になっているんですよ。先輩が失ったっていう記憶のこと。なんだかメイ先輩や沙耶先輩とのラブロマンスがあるって話じゃないですか! わたし、とっても気になります!」

一体どこから仕入れてきた情報だ? まぁ… 今更なので、気に留めておくだけにしておくか。

「そこまでおっしゃるのなら、俺、墓参りに行ってきますかね。顔も記憶も何もかも覚えていませんけど、一度くらいは顔を出すのも良さそうだ」

「それがいい。きっと君のご両親も喜んでくださるよ」


◇     ◇     ◇     ◇


そんな訳で、お盆である。先日行った庵治町の、見晴らしの良い墓地公園に俺の両親の墓がある。

交通事故… だったそうだ。俺と両親が乗った乗用車にトラックが車線をはみ出して突っ込んできて、…奇跡的にも俺だけが助かったと聞いている。その以前のことは全く覚えていない。覚えているのは俺の親権をめぐって大人が揉めていたことと、結果遺産の全てを後見人が受け取り… そのままドロンしたことだ。無一文になってしまった俺を引き取ってくれる親戚は誰一人としていなかった。結局俺は施設に預けられることになり、ひたすら勉強した。一刻も早く自活するためである。


荒れていたのはまさにその頃だった。喧嘩に次ぐ喧嘩、友人など誰もいなかった。いや、沙耶だけは変わらず接してくれていたように思う。彼女の話では、沙耶の両親と俺の両親はとても親密だったと聞いている。だが金の切れ目は縁の切れ目。沙耶の家族とも疎遠になっていった。唯一沙耶を除いては。


「俊樹ー…!」

沙耶の声が聞こえる。俺が墓参りに行くと告げたら、どうしても行くと行って聞かなかったのだ。

「マスター、お水とお花、持ってきました!」

と、当然のようにメイも付いてきている。


「もう10年、だよ」

沙耶は手を合わせると、俺に向き直ってそう言った。遠くで船の警笛が聞こえてくる。

「長かったね」

「覚えてないからな、長いもなにもないよ」

「私はよく覚えていますよ、マスター」

メイが話に加わってきた。

「どういうことだ? お前はまだ造られてなかっただろう」

「いいえ、便宜上ではありますが… 私のプロトタイプは存在していました。私とマスターはその時には既に出会っていたんです。マスターは覚えてはいらっしゃらないでしょうが、私は覚えています」

「ねぇ、メイちゃん。それっていつぐらいの頃?」

「はい、マスターが入院していた頃の話ですよ」

「入院?」

「…もしかして、犬に怪我させられた頃かしら?」

「だと思います。だって私、沙耶さんのことも覚えているんですもの」

「「!?」」

「沙耶さんは遠くから毎日のように通ってらっしゃいました。自分のせいでマスターが大怪我したんだって」

「「…?」」

俺も沙耶も覚えがなかった。


デイジー デイジー ハイと言ってよ

あなたへの想いに おかしくなりそう

洒落たお式は 無理かもしれない

でもその時 あなたはきっと素敵だよ…♪


名は消え入りそうな声で歌ってみせた。そして、笑顔でこう言った。

「…覚えていませんか?」


「デイジー・ベル…」

俺は思わず口にしていた。

「…覚えていてくださってました?」

「…いや。曲の名前だけで、それ以上のことは… すまない」

「いいんですよ、まだ時期尚早でしょうから」

メイは淋しげに笑った。

「いいですか、これは宿題です。マスターにとっても、沙耶さんにとっても」

典型的な日常回でしたね~。

さぁて、この続きはどのような展開になるんでしょうか?

気になりますね~?

そろそろお時間となりました、

それでは皆さん、さよなら、さよなら、さよなら~♪

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