明日への懺悔-06
はい、毎度お馴染み、ぜんかいのおはなし~!
司馬無双終了!
でも井上、三田両先輩の救出には成功!
…しました!
おしまいっ!
◇ ◇ ◇ ◇
「ボクかい? ボクは神奈川から来てるんだ。もしかして興味ある? おチビちゃん?」
「おチビは余計よ、このキザ野郎! 舐めんな!」
ある日の拳闘同好会のコンパ。そこでアタシがはじめて声をかけられたのが、この小原一馬という男だった。長い前髪を絶えず気にかけているようなスカした風貌、整った顔立ち。スーツ姿で隠れているが、程のいい細マッチョって感じはビシビシ伝わってくる。これで同好会きっての強者だというのだから、なんとも信じられない。
「神奈川っとぃうと、…う~ん… 東海大相模? …桐光学園とか? 横浜高校なんかも有名よね」
同期の春香が知っている限りの高校名を挙げていく。しかし、どう聞いても高校野球の有名校ばっかりだね。
「ボクはね、ちょっと特殊な高校を出てるんだ。多分だれも知らないよ」
「そうかしら。一時期は学生も減少して学校自体も減ってたらしいけど、その名残で結構名前の通った学校は多いわ。試しに言ってみなさいよ」
「おいおい、先輩にタメ口とは、なかなか有望な新人だな」
当時二回生だった三田裕二先輩が面白がって口を突っ込んできた。
「そうだな… 横浜修悠館高校っていうんだけど…」
「ちょっと待ちなさいよ…? 横浜… 修悠館…?」
アタシはモバイル端末を使って検索をかけてみる。
「見つかったかい?」
「ふうん… 通信制の学校なのね。今時なら通信制出て大学っていうのも珍しくないわよ。何を気にしてんの?」
「気になんかしてないさ。知名度がないだけでね」
「なら何も問題ないじゃない。素敵な学校だと思うわ」
それが、アタシ達の出会いだった。
拳闘同好会… その名の通り、格闘技を好む同好会である。それはプロレスからボクシング、柔道やクン・フーまで多岐にわたって研究したり実践したりするという、一風変わった同好会だった。時にはリングや道場を借りてスパーリングまでするのだ。
半ば無理やり誘った春香は見ているだけでマネージャー的な存在にあったが、アタシはむしろプレイヤーに徹していた。他の同好会員に女性は少なくて、アタシに敵うヒトはいなかった。それもそうだろう。アタシはコレでも空手の黒帯で有段者だ。多度津にある少林寺拳法もかじっている。もともとそういうのが好きなのだ。
当然のようにアタシは男性相手に立ち回りを多くやってきていたし、実力も負けていなかった。
何よりも興奮したのは、異種目同士の格闘を楽しめるということ、その一点につきた。
勿論全員安全のためのプロテクターは装備していたし、グローブも義務付けられている。
それでも三田先輩には全勝無敗だったし、他の先輩にも決して引けを取らなかった。
たった一人、一馬先輩を除いては。
◇ ◇ ◇ ◇
はぁ、はぁ、はぁ、…
大学構内の芝生の上で、アタシは大の字になったまま動けずにいた。なかなか息が整わない。これだけ仕掛けても全てかわされる。空手特有の直線的な攻撃だけではだめで、少林寺の球の動きもアレンジしてみた。が、かわされる。掴んでも投げられず、離れても当てられず、…もうどうやればいいんだか!
「どうしたの、おチビちゃん。そのあたりで降参したらいかがかな?」
いつもどおりのスカした言い回し。何度聞いてもアタマにくる。
「…何言ってんのよ、まだまだ立ってやんよ! 舐めんな!」
「へぇ… 根性あるじゃん。…でも腰にキてる。今日はここまで、だね」
ニヤリ、と一馬の口角が上がった。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!」
「よく頑張ったご褒美に、研究室まで遊びに来るかい? 飲み物くらいは用意できるよ」
なんだか面白くない。今度こそ攻略してやんだから。
「…この借りは絶対に返すわよ」
「まずは一撃から、だね。気長に待ってる」
そしていつも通り、アイツは倒れたままのアタシに手を差し伸べるんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
二回生になった。アタシは一回生のときよりも多く単位を履修してやった。
一馬のいる研究室にも顔を出した。時には春香も連れて、なんだかんだと理由をつけては富野研に入り浸っていた。
後一年、…後一年しか残されていなかった。アタシはなんとしても一馬の在学中に一本とってやりたかった。
そんな時だった。
「…え、ボクかい? 再来年もいるよ?」
まあるい目で無邪気な表情のまま、彼は答えた。
「はぁぁぁぁぁああ!?」
ち、ちょっとまってよ。そりゃなんだか嬉しいけど、ちょっと違うけど、でも…。
「だから、再来年もいるって言ってんの。わかるかな?」
ニッコリと笑いながら一馬は言った。
「え… と、一体何を」
「都合があってね、再来年もいるの。大事なことなので、三回言いました」
「どうしてよ。都合って、何?」
「なんとしても一本取りたいんだろ?」
「えええええ!!! そんな理由!?」
アタシの表情が固まった。そりゃそう願っているけどもさ。まさかそんなこと、コイツにバレてるだなんて!?
「…は冗談だけどね」
「は、びっくりしたじゃない、舐めんな!」
アタシは厳重に抗議した。それがちゃんと伝わっているかどうかまでは知る由もない。
「ロボット工学の第一人者、玄田哲也先生が富野教授の招きで教鞭をとられるんだよ。ボクはなんとしてもその講義を受けたいんだ。ご高齢なのに、本当に精力的でいらっしゃる。先生がお元気なうちに、直接ご教授願いたいと思っているんだよ」
「ふうん…。あんたって、そういう顔もできるんだ」
不覚。アタシはつい、見とれてしまった。
「どういう意味? 顔に何かついてる?」
一馬の顔が近づいた。
アタシの顔が、何故か熱を帯びているのを感じる。ヤバい、これは絶対に真っ赤になってる。
「なんでもないわよ!」
ぷいっと目線を逸らしてはみたが、どうだっただろう。ちゃんと誤魔化せたかな?
「と、とにかく。あんたのクビはアタシが獲ってやるんだからね。覚悟してなさい!」
「ハイハイ、気長に待ってますよ」
この日から一年と3ヶ月め。
アタシは見事一馬から一本を取り、素直な気持ちを告ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
…本当に、あの日々が懐かしいわ。幼くって、純粋だったなぁ…。
もしも一馬がいなかったらアタシはどうなっていただろう。鉄腕アトムの天馬博士のように、人型ロボットに興味を示していただろうか? そもそもロボット工学そのものではない、別の事をやってたんじゃないだろうか?
卒業して自衛隊にまで追いかけてって、偶然とは言えせっかく同じ部隊の同じ部署の、上官と部下になれたっていうのに、たったのひと月でいなくなってしまうんだもの。大体習志野が何よ、特戦群が何よ、MITがなんだってのよ! 何処にだって行っちゃえばいいんだわ。縁結びのお参り100万円分、どうしてくれる! 神様も本当に意地悪だわ。
…本気でそう思ってたのにね。カミサマに悪口言っちゃったからこうなったのかな?
ホント、アタシってバカだ…。
◇ ◇ ◇ ◇
沖合で待っていた第五大福丸に乗り込むと、俺達は熱いコーヒーを一杯やりつつ話を伺っていた。既に舵は、我らが学び舎のあるT市に切られている。
「全く信じられない。ビックリしているのはこちらの方だ」
三田先輩はあの時に見た、タクシーの乗務員カードの人物そのままの風貌だった。短くさっぱりと揃えた髪に、キチンと整った眉。今でこそ無精髭が目立つが、これでなかなか聡明な瞳をしている。
「真っ先に… 一番に襲われたのは、やはり私の不手際かなぁ…?」
「そりゃぁそうでしょうよ。探偵やってるくせに、ノコノコ引っかかってるんですぜ」
俺は半ば呆れ気味に言ってみせた。
「そんなことはない。私達4人の中では、彼が最も優秀で積極的に動いていたんだ。信用するに足るだけの男だったんだ」
「でも… ですよ。その小原先輩がどうしてあなた方を裏切ったかという点が辻褄が合わない」
村川が上目遣いで先輩達の顔を眺めながら言った。
「そもそも、あなた方は何をしようとしていたんですか? あのような火遊び、なかなかできるようなものじゃありませんぜ」
「ヒトを再現する… そのためのAAMY-Systemだった」
静かな口調で、三田先輩は言った。
「再現?」
右京が興味深げに聞き返した。
「そうだ、再現だ。今はそれ以上言えない」
「何故?」
俺はもどかしい気持ちを抑えながら聞いてみた。
「それを上手く伝えるすべを持っていないからよ」
「井上先輩?」
「私も関わった以上、お教えできることはお伝えしたい。でも、できないの」
「医学部で教鞭をとってらっしゃる先輩ができないって…」
村山が話を促す。
「とてもデリケートな問題でね、人為的に卵を作り、孵すようなものなのよ」
第五大福丸のライトが大きく揺れた。
「卵が先か、鶏が先か。2010年代後半の研究で、鶏が先だという結論が出たわ。でも私たちは卵を先に作ってしまった」
「意味分かんねぇ…。とどのつまり、何が言いたいんです?」
と、大きなあくびをしながら、野村。
「言い方を変えるわ。器とその中の水があるとします」
「ふむふむ」
「器はそのままで存在ができる。でも、中身の水は器がないと留まることができない」
「ふむふむ?」
「私たちは、その水の方を先に作ってしまったの。その水は今、器ではなく薄いゴム風船に入っている状態。これで理解できるかしら?」
「ふむ…、で?」
「それじゃ、もしもその風船になにかがあったとしたら… なんらかの外圧がかかったとしたら?」
「そりゃ、勿論…」
「瞬時に破裂、水は流れていってしまうわね」
「…ふむ、わからん!」
「そうよね、だから難しいのよ」
「でもさ。それが水なら、また汲み直しゃいいだけのことじゃん?」
村山がさも当然のように持っていった。
「ああ、そうだよな」
野村もそれを待っていた模様だ。
「それがただの水なら、ね。そうじゃないから説明もできないし、お伝えもできないの」
「元の木阿弥…か」
ため息とともに、つい、本音が出てしまう。
「ところで、優秀なキミ達のことだ。既に押井譲という名前までたどり着いているとは思うが…」
突然、三田先輩から切り出してきた。早速情報担当の村川がそれに応じる。
「ええ、玄田哲也氏の三本の矢と言われているうちの一人ですね。それが何か…?」
「…それならいい、話は早かろう。ちゃんとT市に着いたら、こちらからの情報を提供しよう。もう俺達だけではどうしようもないところまで来ているからね」
「とにかく、だ。こうしてちゃんと先輩方も救出できたことだし、今は休んでおこう!」
司馬は全員を見渡すと、号令をかけた。
「異議な~し!」
こうして船は朝焼けの方角へと向かうのであった。
…という訳で、本当なら新章にしようかなとも思いましたが、この『明日への懺悔』の最終話としました。
最後の最後で難しい、読みづらいお話になってごめんなさいね。
次回から、本当に新章が始まります。
乞う、ご期待!
尚、誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




