アリヤ
アリヤの様子からしてほどなく軟禁状態は終わるかと思われたが、
予想に反して夕刻になっても動きはなかった。
フィラミラなどはすっかり飽きてしまって、
隣の部屋で寝ると言い出した。
「ま、待ちたまえフィラちゃん。
まだ何があるかわからないから…」
「何かあったら起こして~」
「何かあってからじゃ遅いんだよッ!」
しかし、そのまま夜になった。
「…何かあったら起こしてくれ…」
「こら待て、ゾルカ」
結局フィラミラは寝てしまい、
森を長い距離歩いて来たこともあって
早い時間帯ではあるがゾルカも眠気を覚えていた。
この家に入ってから今まで、人の声は聞こえてこない。
夜になって、響いているのは虫の音ばかりである。
しかも、聞き慣れない虫たちのもの。
人の手で造られた建物の中にいるが、
普段暮らしている場所からは遠く離れた所なのだと、
そんなことで実感した。
「だって、このまま起きてたって腹は減ったしさあ~」
ちょうどその時ノックがあって、再びアリヤが訪れた。
食事の差し入れだという。
「お前も一緒に食べていけよ、アリヤ」
「でも、父ちゃんが中に入っちゃダメだって…」
「家の前ならいいだろ、見張りの人もいるし。
ねえ、見張りの人」
問うてはみたが返事はない。
だが反対はされなかったので、玄関の前で
見張り役の五人に囲まれながら
ゾルカら四人とアリヤは食事を始めた。
その間、アリヤは次々と色々な質問をした。
彼にとってはウィトナという名のこの村が全てである。
村の外、森の外にはどんな世界が広がっているのか。
どんな人々がいるのか。
知らないことだらけ、知りたいことだらけであった。
「…その時、魔物が襲いかかって来た!
そこを、恐れることなくズバッと…」
「オレが斬ったんだよな」
「…ちょっと黙ってて、ジュナイル」
「デス君の活躍といえば、う~んと…
この村の灯りを見つけたことかな?」
「俺が活躍するのは偶然だって言いたいの!?」
「まあまあゾルカ君。運も実力の内と申しますぞ」
「偶然も運も変わらないよ、ムトーッ!」
「すごいやゾルカにいちゃん!
それほど実力がなくても冒険ができるんだね!」
「…何だかこんな会話、覚えがあるような…」
他でもない、ゾルカが父・リグルスと
よく繰り広げていたやり取りである。
彼は、実力無しに英雄を目指した父と同じ道を
たどっていたのだった。
「おかしいな…
これまでの旅と戦いで俺はかなり成長しているはずなんだが…」
「何でだよ。
お前が成長するようなことがあったか?
オレが稽古つけてやるって言っても
ロクにやりゃしないじゃねえか」
「い、いや…一応みんなに見えない所で努力を…」
「今のところ成果も見えないけどな」
「…くっ…」
反論はできない。
事実、実際に魔物に対してみると、
予測不能な動きに手を焼き思うように戦えなかった。
ジュナイルは
「敵だけでなく敵の体の周りも見るようにしろ」
と言う。
そうして相手がどう動くかを気配で読むらしいが、
やはりそれにも鍛錬が必要なのだろう。
「お前の太刀筋には、たまに素質を感じることもあるんだが」
「えっ、そう?やっぱり?
天才?」
「…いや、そこまでは言っていない」
すぐに調子に乗る男である。
誉められて伸びる方なのかもしれないが、
誉めて駄目になりそうな気もする。
「聞いたか、アリヤ…俺には計り知れない潜在能力があるんだ。
まだ実力は眠ったままなんだ」
「さすがゾルカにいちゃん…
魔王を倒そうとするだけのことはあるね」
「おい、言ってない、言ってないぞ。
オレはそこまでゾルカを絶賛していない」
ジュナイルは口を挟むが、ゾルカは聞き流して
無駄に熱く語る。
「一応まだ今は正式な勇者じゃないことになっているけどな、
まあ近い内に誰もが認めるだろうな。
俺が覚醒した暁には、間違いない!」
「この世界を守ってくれるんだね!」
「そうだとも!
けど世界だけじゃないぞ、アリヤ。
お前がピンチの時は、友として俺はいつでも駆けつけるぜ!」
「うん!」
アリヤは瞳を輝かせている。
生まれて初めて聞く村人以外の人間の話。
何でも面白いのだろう。
たとえゾルカの勘違いをした発言であっても。
「ぼくもいつか旅に出たいな~」
「大きくなったらすればいいよ。
この村には外に出ちゃいけないっていう掟でもあるの?」
華麗な外見に似合わず豪快な食べっぷりを見せている
フィラミラが尋ねた。
普段はやや適当な言動も多いが、彼女は時々鋭いことを言う。
その質問が出ると、ジュナイルとムトーは見張り役の方に
視線だけを向けた。
そんなものがあるのだとすれば、その『掟』は
四人が出歩けないようにされていることに関係があるのか。
見張り役の反応で探ろうとした。
彼らはこちらを、というよりアリヤに目をやったように見えた。
「ええと…そんなのは…ないけど…」
当の少年は、言葉を濁し少しうつむく。
周りが皆身内同然という環境で育った子供である。
ごまかすことに慣れていなくても当然と言えた。
彼らの様子からして、村に特有の掟があることは確かなようだ。
それがもし住人を村に封じ込め、来客を拒むものであったなら…
ゾルカたちがここに足を踏み入れたことで、
これから一体何が起こるのだろうか。




