表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
補欠勇者  作者: 吉良 善
3 補欠になる
41/230

隠されし村

四人が今、その村を見つけたのは偶然だったのか。


ゾルカに限って言えば、


彼を絶望させるためだったのか、


豹変させるためだったのか―――――


いずれにせよ、彼らはたどり着いた。


世界から忘れられた、地図に載らない森の奥の村に。





森を見下ろす丘を歩いていたゾルカたち。


夜にその丘のある地点で、ゾルカが


たまたまその方向を見なければ気づかなかった。


木々の間から、かすかな灯りが覗いていることを。


ジュナイルによれば、地図では何もない場所だという。


自然に存在する光ではない。


人家かどうかはわからないが、何かがあることは確かである。


ここ数日、一行は屋内で休んでいなかった。


何があるのかという興味はもちろんだが、


小屋でもあるのなら立ち寄りたいという気持ちもあった。


危険が潜むことも考えられるが、


そもそも魔王を倒そうとする者たちだ。


灯りの見えた場所を目指すことにした。


夜の闇の中森に入るのは無謀と考え、朝を待ってから進入する。


鬱蒼としていることは上からでも見て取れたが、


入ってみるとその薄暗さは予想以上だった。


ゾルカにとっては、あのアルトリアの森を想起させるような風景である。


ただ、ここは足元の起伏が少なく、比較すれば歩きやすくはあった。


が、それでも森は森。


立ち入ってから数時間、ゾルカの無責任な発言が皆の耳に飛び込んだ。


「何か出て来そうだよなあ、誰だよわざわざ


 森の奥まで行こうとか言ったの!」


「お前だよ!」


ジュナイルの鋭い声に、フィラミラとムトーは何度もうなずいている。


行くことに彼らも同意はしたが、言い出したのはゾルカだった。


隠れ里か何かがあって、強力な武器や魔法の言い伝えが残されている


…かもしれないというのが理由だ。


特別な力を持つ武具は、話自体は巷間にあふれているが、


実物が身近に転がっていることはない。


名のある人物が所有しているか、宝物として守られているか、


博物館に収まっているか…


いずれにも当てはまらなければ、そうそう人が


寄り付かない場所に眠っているのだろう。


もし隠れ里の類があるのなら、街にまでは聞こえて来ない


情報が得られるかもしれない。


「ちょっと休もうよー」


「今そこで休んできたところだろ!


 灯りが見えたのは大体この辺りのはず…」


フィラミラとゾルカが言っていると、頭上でムトーの声が響いた。


「おお、御覧くださいお二方。


 あれは農具や工具ではありませんかな」


「何っ」


示された方向に目を凝らすと、木や草とは違う色の何かが見える。


進むにつれわかってきたのは、鍬やのこぎりなどが


立て掛けられていたり置かれていたりしているようだ。


「ああやって置きっぱなしになっているということは、


 あまり警戒してはいないんだな」


「オレたちが偶然見た光のようなきっかけでもなけりゃ、


 迷ってもここまで入って来る者はいないだろうからな」


ゾルカに、ジュナイルが言った。かなりの距離を歩いて来た。


何かあるとわかっていなければ、森をここまで進むことはあるまい。


そして進んで来た結果、道具を発見した。


それは取りも直さず人がいるという証であろう。


という事態になって、ある不安がゾルカの胸の中で顔をもたげた。


「…俺たち、歓迎されるかしら」


「されるかされないかで言えば、されないだろう。


 わざわざこんな奥地で静かに暮らしているところに


 よそ者が訪れたんだからな」


「…帰ろうか」


「ええ~やだよ!


 もうくったくたなのにまた引き返して野宿するなんて」


猛抗議するのはフィラミラ。無理もない。


ここに行こうと言い出した提案者が目的地を前に帰ろうと言うのだ。


「…野宿とは言うけどキミだけは折りたたみテントで寝てるよね…」


しかもそのテントは普段ムトーが運んでいる。


「ムトーはどう思う?」


「魔王打倒に役立つ何かがあるかもしれないのであれば、


 迷惑を承知で行ってみるべきではないでしょうか」


「さすがだ!そのとおり!


 世界平和のため、ひいては俺の栄光のため!


 勇気を持って飛び込もう!」


「…勇気にも色々な質があるものですね」


そんな言葉には耳を貸さず、


ゾルカは再び先頭に立って歩き始める。


すぐに、無造作に転がる農具の奥に


古びた木製の簡素な門が見えてきた。





門の奥の村は思った以上に家屋が多かったが、


舗装された場所や魔導灯といったものはなく、


森の開けた場所に民家が並んでいるだけというような光景だった。


それは、必要以上に伐採を行わず自然と共生しようとする


人々の生き方を伝えていた。


外界とのつながりを持たずどこか浮世離れした空気に満ち、


穏やかな時間がゆっくりと流れている。


そう感じさせるこの空間ではあったが、何か妙な雰囲気がある。


ここに入ってからすぐに、ゾルカは肌で感じ取っていた。


「あっ!?」


住人の生活が自然に溶け込む眺めにしばし時を忘れた四人は、


突然の大声に引き戻された。


頭を巡らせると、こちらを見て固まる十歳前後の少年の姿。


これ以上ないというほどに目を見開き、口をぱくぱくとさせている。


来訪者などほとんどないはずの村だ。無理からぬことだった。


「こんにちは、坊や。私たちは…」


「待てっ、ムトー!」


少年に歩み寄ろうとするムトーを、ゾルカが止めた。


「俺たちは多分何十年ぶりの、


 もしかしたら初めてのエトランゼなんだぞ!


 怖がらせてどうする」


「私は挨拶しようとしただけなのですが…」


「それがいかんと言ってるんだ!


 これから村人たちと交流を持つんだ、第一印象が肝心なの!


 好印象を与えるためにもここは俺が」


「そういうことであれば絶世の美少女たるローラさんの方が…」


「やあ、お邪魔しますよそこのキミ!


 素晴らしい村だなあ、自然にあふれて。


 さぞここで暮らす人々は心優しく…」


「父ちゃーん、変な奴らが来たー!


 多分泥棒ー!」


叫びながら、少年は走って行く。


今のところ他に村人の姿は見えないが、


あの様子ではすぐに騒ぎになるだろう。


「何だと!


 俺は泥棒とは正反対の存在、勇者だぞ」


「補欠な、補欠」


そう言って、ジュナイルはため息をついた。


子供が突然の来訪者に驚いたのは仕方ない。


問題は村の大人たちも同じような反応を示すのかどうかだ。


こんな奥地で暮らしているのには理由があるのだと思うが、


その理由によっては強固に排他的であることも考えられる。


「予想以上に閉鎖的な村なのかもしれないな。


 このまま帰ることも考えておかなきゃいけない」


「ひと晩泊まるのもダメ~?」


相変わらず周りをきょろきょろと見ながらフィラミラが言った。


「旅人なんぞ来るかどうかわからないのに宿屋があるとは思えないな」


「大丈夫大丈夫。


 俺たち悪いことをしに来たんじゃないんだから。


 話せばわかるんだから」


「じゃあ説得は任せたぞ。


 先方はずいぶんと大人数のようだが」


「え?」


ジュナイルが顎で示す方向に目を向ける。


そこには、農具で武装した男たちの姿があった。


その数、ざっと二十。


村の穏やかな空気は霧消し、緑の中にぎらぎらとした目が


やけにはっきりと浮かび上がっているような気がした。


「ちょ、ちょっと待った!


 落ち着いて皆さん!


 俺たち怪しい者じゃないです!」


力強い足取りで近づいて来る男たちに、ゾルカは両手を前に出して訴えた。


そして説得を試みるがあまり効果はなさそうである。


「どうしますかな」


小声で、ムトーはジュナイルに尋ねた。


どうも、ここから歓迎されるという展開は期待できそうにない。


今の内に方針を定めておかなくてはならない。


「これほど聞く耳を持ってもらえないとはなァ。


 どうやらこの村は相当にいわくつきの場所のようだぜ…


 おもしれえな」


ジュナイルの心境としてはそうであったが、目の前に危機は迫っていた。


村人たちは人数に勝るからかずんずんと歩いて来る。


「その内日が暮れる、地元の人間に追われるのも


 これほど広い森を暗闇の中行くのもうまくない。


 問答無用で襲って来ることはないと思いたいが、


 最悪の場合も考えないとな…


 彼我の人数の差は大きいが、オレの見立てでは


 まともに武芸の心得がある奴は一人もいない。


 オレとお前さんで半数近くを押さえることは十分可能だろう、


 その上でフィラミラの魔導で驚かせてやりゃ戦意を失うはずだ」


「同感ですな。


 こちらに危害を加える動きがない内はおとなしくしましょう」


「フィラミラ、準備をしておいてくれ。


 威力は抑えろよ」


「ほーい」


小さく左手を挙げて見せるフィラミラ。


彼女は、人前では決してやらないが


一応戦闘で魔導を使うための練習はしているらしい。


対多数では魔導は心強い。


一方、三人がもしもの事態に備えている間にも、


ゾルカは虚しい努力を続けていた。


「皆さん、補欠勇者って知ってる?


 今、テレビなんかで話題の!」


嘘である。


最近話題になっていたのはレイファスの方だった。


しかし、村人の反応がないのは違う理由だった。


「てれびって何だこのデレスケ野郎!」


「えっ、知らないの!?


 補欠勇者どころかテレビを!?」


野太い声で言い返されてゾルカは驚いたが、


魔導テレビが発明されたのはさほど昔のことではない。


各家庭に置かれるほど普及したのも十年前くらいの話なので、


外界と交流がないであろうこの村に住む人々が知らなくても


不思議はなかった。


「とにかく!とにかくですよ!


 俺たちは丘の上から灯りを見つけて何だろうな~と


 思って来ただけで、決して悪さはしませんから!


 ほら、神官様もいるし!」


「どこが神官だ、戦士か拳闘士だろ!」


「くそ~、何であんなガタイMAXなんだムトーは!


 まぎらわしい!」


「いいだろう」


ゾルカが地団駄を踏んでいると村人たちの後ろの方から


落ち着きのある声が聞こえ、中年の男性が前に歩み出た。


彼は手に何も持っていない。


指導者的立場にある人物に見えた。


「妙な真似をすることはないというのだな」


「もちろんです!


 悪いことをしようとするならこんな少人数で


 日中に来たりはしませんよ!ねえ!」


「一理ある。


 少女もいるようだし君たちが悪人だとは私も思わないが、


 見てのとおり来客などない村だ。


 住民への説明も必要だろう、


 部屋を用意するから暫時待機してもらえないか」


軟禁だな、とジュナイルは思った。


さすがに危険を感じてか、ゾルカが視線を向けてくる。


それを受けて、ジュナイルは彼に並んだ。


「オレたちは招かれざる客だ、村への滞在を許可してもらえるなら


 否も応もない。


 が、この状況で全て没収されるのはオレたちも怖い。


 所持品はこのままにしてもらえるか」


「…わかった、こちらも譲らねばならないな。


 では、案内させるからついて行ってくれ」


とりあえず、従うことにする。


やはり、ここはただの村ではなかった。


静かな森の奥の、一見平和なこの里に暮らす人々が


抱えるものとは…



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ