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星の住処

「なにこれ」

 シンは目を瞬いて、謎の図案を見つめていた。

「星」

「踊ってる人じゃなくて?」

 気まずそうな短い返答に即座に疑問をぶつける。ダメージを受けたアロウの頭ががっくり落ちる。

「作った本人が星って言ってるんだから星ってことにしといてくれ……」

「だって手と足生えてるじゃん」

 シンが指さすのは、クッションカバーに施された刺繍だ。黄色い糸で縫い取られた図案には、5つの突起がある……が、それぞれねじれて変な方向に飛び出している。星形にはほど遠かった。

「何に見えるかはもういいから」

 アロウはクッションを取り上げてシンに押し付ける。

「わ」

「このマークつけたやつはお前専用だから、好きに使え」

 両手で受け取ったシンは、ふかふかのクッションに顔を半分うもれながらキョトンとした目をのぞかせた。

「ボクの……?」

「お前から受け取った宿代でこの部屋の備品を整えてるんだ。遠慮すんなよ」

 ぐいぐいとクッションを押し付けると、アロウは自分のベッドに潜り込んで背中を向けてしまった。

「今日は休息日な。俺は寝る」

 出会って数日。

 シンはスラム育ちとは思えないほど行儀よく、部屋の隅にちんまりと座っていた。

 今の生活を守りたい。その一心だろう、アロウの挙動を見て、マナーや生活習慣を合わせようと気を使っているのが見て取れる。

 だが、それでは気が休まらないのではないか。

 そこでアロウはシンに私物を持たせることにした。

 できるだけ自然に、シンが自分で手に入れたと納得できるように。

 そして一目瞭然になるようにと、慣れない刺繍を施したのだが……

 大抵のものはなんでも自分で工作するアロウだったが、繕い物はともかく刺繍はさすがに不慣れだった。

 とはいえ、不細工な図案にシンが笑ってくれたなら及第点だろう。

 壁に向かってため息をつくアロウの背中に、シンの控えめな声が届く。

「ありがと」

 その声は微かに震えていて、アロウの心をざわめかせた。

 その気持ちを何と言い表わせばいいのか、その時はまだ、分からなかった。

シンの名前は異国語で"星"という意味であることに本編(https://ncode.syosetu.com/n6217lj/)で触れており、その補足のようなお話です。

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