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35.俺の炒飯

 班分けが終わると、次は来週の授業で挑戦する調理実習の課題について相談するフェーズに入った。

 家庭科担当教諭は、班全員で協力してひとつの品を作るか、個人それぞれで作るか、或いはその両方を組み合わせるかの三パターンを示した。


「よし、雪奈と灯香梨は俺と一緒に特製ピザ作ろうぜ。俺がしっかり教えてやるからさ」


 隆一がさも当然の様に笑顔を浮かべると、雪奈はあからさまな程に拒絶反応を示した。


「え~、あたしウッチーと組むの、ヤだしぃ」


 いいながら雪奈は、家庭科の教科書を黙々と読んでいる徹郎にちらちらと視線を送ってきた。すると灯香梨も半ば同調する格好で隆一の提案をやんわり拒否した。


「鬼堂君だけ除け者にするなんて、良くないんじゃないかな。折角同じ班になったんだし」

「は? 何いってんだよ灯香梨。鬼堂なんて、俺らが一緒に組んでやるだけで有り難く思ってりゃ良いんだよ。あんな奴、放っとけって」


 隆一が第九班に異動してきた目的は飽くまでも灯香梨と雪奈であり、徹郎は端から眼中には無かったという訳であろう。

 それならそれで構わない。徹郎とて、陽キャ連中と組むなど願い下げだった。

 と、そこへ家庭科担当教諭が巡回に廻ってきた。すると隆一がすっと立ち上がって何やら申し入れている。

 幾つか言葉を交わし合っていた両者だったが、しばらくして家庭科担当教諭が幾分驚いた様子で振り向いてきた。


「鬼堂君は、本当にそれで良いの?」

「ん? 何がですか?」


 徹郎は黒縁眼鏡の奥に表情を隠しながら、面を上げた。家庭科担当教諭は困惑の色を浮かべているのだが、その傍らには、隆一のにやにやと勝ち誇った笑みがあった。


「内崎君がいうにはね……その、この班では内崎君と大塚さん、花辻さんの三人でグループ成績を算出して、鬼堂君だけは個人扱いでの成績を出す形にしたいってことだけど、貴方はそれで納得してるの?」


 成程、そういうことか――徹郎は隆一の笑みの意味を理解した。

 ところが、隆一が申し入れたその提案に食って掛かったのは徹郎ではなく、灯香梨と雪奈だった。


「え……駄目だよ内崎君! そんなの、あたし全然聞いてないし、納得もしてないんだけど!」

「ってかさぁ、マジでウッチー、そんなのありえねーんだけどぉ」


 ふたりの美少女の反発を喰らって、隆一は流石に驚き、狼狽した様子を見せた。まさか自分の提案が拒否されるなど想像もしていなかったのだろう。


「な、なぁにいってんだよ。俺らがあんなぼっち野郎と一緒に何かやるなんて、それこそあり得ねーじゃん。そんなの()にならねーし。あいつと俺らの顔面偏差値、よく見比べてみろよ……な?」


 この発言は家庭科担当教諭も流石に聞き捨てならなかったらしく、隆一にやんわりと注意を入れた。外見を理由に差別するなどというのは、例え生徒同士であっても看過出来ないということらしい。

 隆一もこの指摘には頷かざるを得ず、渋々ながら、以後気を付けると頭を下げていた。

 その上で家庭科担当教諭は再度、徹郎のみ成績を分ける点について聞き直してきた。

 これに対して徹郎は、それで良いと応じた。彼にしてみれば、三人の陽キャと距離が取れるなら何でも良かったのである。


「鬼堂君、本当に、それで良いのね?」

「はい、全然オッケーです」


 徹郎の応えを受けても尚、どこか不服じみた表情を浮かべている家庭科担当教諭だったが、当の本人が承諾しているのだから、それ以上は何もいえない様子だった。

 だがそれ以上に納得のいっていない表情を見せているのが、灯香梨と雪奈だった。

 ふたりは家庭科担当教諭が他班の卓へと去ってゆくと、揃って徹郎に顔を寄せてきた。


「ちょっと徹っちゃん。あたしウッチーなんかと組むつもりで移ってきた訳じゃないんだけど」

「それに鬼堂君ひとりを仲間外れにするなんて、あたし絶対、認めないから」


 しかし徹郎は、成績分離対象たる自分が承諾したのだから何の問題も無いと突っ撥ねた。

 その後、第九班では次週の調理実習に向けての課題品目の選定に入ったが、結局隆一はひとりで一品を作る破目となった。灯香梨と雪奈が隆一と組むことを断固拒否し、女子ふたりで協力するといって聞かなかったのである。


「ちぇっ……しょうがねぇな。じゃあ俺ひとりで最高のピザ作って、俺に惚れ直させてやるよ。お前ら、覚悟しとけよ?」


 どうやら隆一は、灯香梨と雪奈は自分に対してこそ気があるものの、徹郎ひとりを除け者にすることについては倫理的に許されることではないから彼に同情している、と解釈したらしい。

 基本的には美少女はイケメンに惚れるものである。いや、そうあるべきだ――それが隆一の、というよりも一般的な陽キャの発想であり常識なのだろう。

 見目麗しい外観の持ち主が、何故態々不細工な異性を選ぶ必要があるのか。己の美的な利点を活かすならば、不細工を相手にする労力などまるで無駄であろう。

 そういう意味では、隆一のスタンスは正常ともいえる。力ある者に釣り合うのは、矢張り同程度の力を持つ者なのだ。

 陰キャぼっちを貫く徹郎なんぞに、灯香梨や雪奈の様なトップクラスの美少女が気を遣うこと自体がそもそも間違っている――これが世間の常識だと徹郎は理解している。

 徹郎が陽キャを遠ざけたいのは、飽くまでも諜報員の気質が強い徹郎自身の好みの問題だが、同時に灯香梨や雪奈、更には奏恵といった素晴らしい容姿の美少女達が、己の存在価値を貶めてまで、陰キャぼっちたる自分に付き合う必要は無いし、そんなことは極力避けるべきだとも思う。

 だから徹郎は、灯香梨と雪奈が隆一と組むことには素直に賛成した。それなのに、何故彼女らは隆一とのチームを拒否したのか。馬鹿じゃないのか。


「だったらお前らはさぁ、俺の特製ピザに合うのを何か作ってくれたら良いぜ。三人で最高のパフォーマンス、キメてやろうじゃん」


 そんな隆一の台詞を灯香梨も雪奈もまるで聞いていない様子で、徹郎が黙読している家庭科教科書に揃って視線を投げかけていた。

 徹郎が開いているページには、中華料理の写真が幾つか掲載されていた。


(炒飯でエエか)


 そんなふたりからの視線など一切無視して、徹郎は頭の中でレシピを描き始めた。

 諜報員訓練には、調理師として潜入する為の課程も含まれている。

 これまで徹郎は灯香梨や雪奈、或いは礼司、裕太、更には軽音部の面々に様々な料理を提供してきた。それらは全て、この訓練課程で習得してきたものばかりである。

 そして炒飯に関しても、一流の中華料理人に引けを取らぬ出来栄えのものを作る技量はあった。


(調理実習の短い時間内でちゃちゃっと作れるモンっつったら、こんなもんか……エエで、これで決まりや。俺の炒飯)


 脳内シミュレーションは完了した。後は実際に作るのみである。

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