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34.三面楚歌

 あ、やられた――灯香梨は、徹郎と同じ卓にしれっとした顔で陣取っている雪奈に、妙な敗北感を覚えた。

 過日徹郎は今後も陰キャぼっちのままで居たいから、陽キャ属性の灯香梨に対し、校内では極力接触してくるなと頼み込んできた。

 灯香梨は徹郎の希望を少しでも聞いてあげたいと思っていたから、絹里高校敷地内や通学路などでは頑張って徹郎から距離を取ろうとしていた。

 しかし逆に心の方は、徹郎の引力に日々負け続けている。気が付くと、我知らず徹郎の姿を目で追っていることが少なくなかった。

 そしてその徹郎への想いが決定的になったのが、先日の遠足だった。

 徹郎は捻挫して動けなくなった灯香梨の為に、丸一日自分の時間を潰してまで、彼女の脚役として付き合い続けてくれた。京子と愛理も、そんな徹郎の無償の献身に目を丸くしていた。

 更に解散した後も、灯香梨を背負ったまま自宅まで送ってくれたあの優しさに、彼女の心はすっかり溶かされてしまった。


(で、でも、駄目だよ……鬼堂君は、ひとりで、居たいんだから……!)


 校内で徹郎の姿を目にするたびに、必死になって自分自身にいい聞かせてきた灯香梨。

 その一方で、ゆるふわ系美少女ギャルとして明らかに陽キャの側に居る筈の雪奈は、人目も憚らずに毎日、ぐいぐいと徹郎に迫る姿を見せている。その都度徹郎が犬を追い払う様に邪険な素振りを繰り返しているが、雪奈は全くたじろぐ様子が無かった。

 そして現在、その雪奈が、病欠で休んでいる三人の生徒の為という名目で、徹郎の班という羨まし過ぎるポジションをまんまとゲットしている。

 その手があったかと灯香梨は感心すると同時に、負けてはいられないという強い思いがめらめらと燃え上がってきた。

 灯香梨は本能的に立ち上がって、勢い良く手を挙げた。


「だ、だったらあたしのところにも、休んでるひとを入れてあげて下さい!」


 驚きの視線が一斉に集まってくる。

 今の今まで同じ班を組んでいた男子ふたりは何故か物凄く悲しそうな顔になっていたが、灯香梨の視界には彼らの表情など入っていなかった。

 今回病欠の三人の内訳は、男子ひとりと女子ふたり。

 これで灯香梨も、名目上はクラスの役に立てた訳だ。家庭科担当教諭も感心した様子で目を細めているが、D組の男子生徒らは驚きと嫉妬と絶望が複雑に入り混じった表情に染まっている。

 逆に女子生徒らは、本当に良いのかという心配そうな顔つきが大半だった。が、灯香梨と大の仲良しの京子と愛理は、しょうがないなぁといわんばかりの苦笑を浮かべるのみだった。

 あのふたりは遠足で、徹郎が灯香梨の為だけに頑張ってくれたことを間近で見ている。きっと彼女達も、徹郎が本当は無類の優しさを持つナイスガイだということを理解してくれたのだろう。


「えぇ……花辻さん……あっちの班、いっちゃうんだ……」

「ってか鬼堂の野郎、D組美少女三強のうちのふたりを掻っ攫っていくなんて、絶対許せん……」


 灯香梨が離脱を決めた班の陽キャ男子ふたりは腹の底からの怨嗟を吐き出していたが、灯香梨は気にすることなく徹郎と雪奈が座る卓へと移動した。

 徹郎はあからさまに渋い表情で、同じ卓の対面位置に腰を下ろした灯香梨をじろりと睨みつけてくる。


「自分らホンマ、何がしたいねん……」

「え? な、何って、何かな? あたしはただ、ほら、休んでるひと達が可哀そうだなって思って」


 自分でも白々しいと思いながらも、灯香梨は乾いた笑いを漏らしながら慌てて弁明した。一応名目上は病欠の三人の為だということだから、家庭科担当教諭は灯香梨の班異動をあっさり認めてくれた。

 ともあれ、徹郎の第九班は女子ふたりが決定。

 残るは男子ひとりだが、この直後から家庭科教室内では、陽キャ男子達による残り一席を巡った壮絶なバトルが幕を開けた。


「あ、じゃあ男子枠は俺が移動する!」

「いやいやいや、おめぇ何抜け駆けしようとしてんだよ、俺も立候補するぜ」


 などなど、互いに牽制し合う陽キャ男子達。


「皆、急にどうしたんだろうね?」


 不思議そうな面持ちで小首を傾げる灯香梨。そんな彼女に徹郎は、マジでそれいうてんのかと低く呟く。

 この戦いの引き金が自分自身であることを、灯香梨は全く理解していなかった。


◆ ◇ ◆


 今は、家庭科の授業時間の筈だ。

 それなのに、家庭科教室内では陽キャ男子達によるジャンケン勝ち抜き戦が熱い空気を醸し出している。

 家庭科担当教諭が、ここは公平にジャンケンで決めましょうと提案したのである。

 勝ち残った者は雄叫びを上げて派手なガッツポーズを披露し、敗退した者は心底打ちのめされてがっくりと肩を落としている。

 そんな姿を女子達は、どこか呆れた様子で乾いた笑みを浮かべながら傍観していた。

 一方、徹郎は相変わらず渋い表情。

 家庭科は陰キャ同士で静かに過ごすことが出来る数少ないユートピアだったのに、陽キャ女子ふたりに加えて騒がしい陽キャ男子までが加わったら、理想とは真逆の展開となってしまう。

 はっきりいって、良い迷惑だった。

 このジャンケン争いには加わっていない礼司と裕太が、どこか憐れみを含んだ笑顔で手を振ってくるのが見えた。どうやらこの状況を、面白い見世物か何かだと思っているらしい。

 やがて、ジャンケン勝ち抜き戦も決着に至った。

 最後の勝者は、男子バスケットボール部所属の内崎隆一(うちざきりゅういち)。一年生ながら準レギュラーの座を勝ち取り、同学年のみならず、上級生の女子からも人気が高い。放課後の部活練習中には、多くの女子生徒が応援に訪れて黄色い歓声を送っているのだという。


「雪奈、灯香梨! 待たせたな! 俺が完璧にリードしてやるから、安心してくれ!」


 卓を移動してきた隆一が、ドヤ顔で出来る男をアピール。

 これに対して灯香梨と雪奈は何故か、気の毒そうな表情で作り笑いを返すばかりだった。


(四面楚歌……いや、ちゃうな。相手三人やから三面楚歌か)


 その傍らで徹郎は、すっかりやる気を失っていた。


(もうエエわ……俺ひとりで勝手にやっとこ)


 班としての活動は、この三人に任せよう。徹郎はこれからの三カ月、事実上のソロ活動を決め込んでいた。

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