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どうしようもないほど加速した勘違いの果ては

りんごーん……大体において厳かであろう神殿の鐘の音がこんなにも、あほらしく響いた事は今後の人生できっと起こりはしないだろう。

まさに怒涛の展開極まった事が、おれの身の上に起きてしまったわけである。

なんでおれは、決闘のその五分後に、神殿に担ぎ上げられて、神殿の神官ににこにことした笑顔で結婚証明書にサインの記入を促されてそのまま、そこに署名をし、その場でえらい笑顔のシャンドラに、ぐっと顔を近づけられて、そのまま接吻とかいう恐ろしい流れになってしまったわけだ。

ちなみに接吻の際に、何故か大量の貴族令嬢が押しかけてきており、彼女たちは接吻の際に黄色い声を響かせ、花弁を舞い散らせて、祝いの色付き穀物を投げ、もう一体何のお祝い事の世界だと思うくらいの熱量だった。

これで一通りの事を何か話の流れで書けねえかなって思う位に、何か物語っぽい世界である。

なんでおれとシャンドラの結婚式というのもちょっとないと思う位の、質素とさえ言えない、お祝い事の世界には見えない物に、こんな黄色い声を上げ続けるんんだ……?

おれは解せぬ、という顔で周りを見回したものの、彼女たちはなんだか知らないけれど、号泣している人までいるわけだし……

おれとシャンドラの、あほらしいほど血まみれの殴り合いとどつき合いの世界の結果の、結婚式を、こんなにも貴族令嬢の皆さまが歓喜の声で迎え入れるんだ。

そんな事を色々考えた後に、おれは頭の中身を整理するために、にこにこと笑っているシャンドラの脇で、誓いの儀式の霊酒を飲み干して、きっとこの結婚もこいつの可愛い妹が結婚するまでの間の短期間かつ何の意味も持たない結婚式。

それが終わったらさっさと離婚し、お互いに平和な時間を取り戻し、日々が過ぎていくんだろう、と思っていたんだこの時点では。


そう、この状況をひっくり返す恐ろしい事実を、聞かされることになるまでは……




夕刻。おれはたった一度だけ参加し、この後はここに来る事など一生ないだろうと思っていた場所、王宮の大広間何て言うとんでもない場所でつったっていた。

なあ、おれ何もおかしな事してねえよな!? くっそシャンドラの奴、王様に結婚の許可をもらった後に、のりのりになった王様に、結婚祝いの宴を開いてもらうなんてぎりぎりまで聞いてなかったぜ!!

聞いていたらおれは即座に逃げ出した。何なら結婚するなんて妥協はしなかった。

だが時はすでに遅く、おれは手持ちの中で一番の礼装になりるものを身にまとい、話しかけてくる年下の令嬢たちの相手をするわけだ。

おれも歳が歳だから、令嬢と言われるお嬢さんたちは皆年下。華やかな花の盛りである。

目の保養ともいえるだろう。

さてそんなおれが、彼女たちの話題についていけないのではと思うかもしれないが、意外や意外、彼女たちの話題のネタは、なんとおれの小説。

あのシーンが面白かったとか、このシーンに感動したとか、彼女たちは大盛り上がりで、これなら作者であるおれもついていけるわけで。

うんうん、やっぱり生の声を聞くって楽しいなあ、と思っていた矢先だった。


「ねえ、やっぱり勇者様と、相棒殿って、どっちがどっちなのかしら!」


「やっぱり普段の具合から見て、しっかり者の相棒殿じゃないかしら! あんな頼もしい殿方に、にやりと笑われて、おれにまかせろ、なんて言っていただきたいわぁ」


「でも自分からすすんで接触しているのは勇者様の方よ? やっぱり勇者様の感情の比率の方が多いんじゃないかしら!」


「でもお二人って、同じ寝台を使っていても、ちっともそういう流れになりませんわよね」


「わかります! あんなに無敵のラブシーンを延々と繰り広げていらっしゃるのに、どうしてあんなにからっとした空気感のまま進むんでしょう!!」


おれは彼女たちの言葉を聞き、え、おれの書いた小説の事じゃねえの? と戸惑った。

そのため問いかけてみる事にしたわけである。


「あの、それは創作「勇者の冒険」の話でしたよね……?」


「まあ! あなたは勇者様とご結婚なさったのに、全くわからないんですの?」


「理解が追い付きませんねえ……いや、確かに、聞いた話だとファンの皆様が、そう言ったネタで小説を書き、作者に送っているという事でしたが……あの話そんなに、ええとあー男性同士の恋愛方向でしたっけ? おれはなにか勘違いをしているのでしょうか……?」


「あら、殿方たちには、友情の果ての恋愛というもののすばらしさが、あまり理解できないのでしょうか」


「究極の友情の果ては純愛、というのが、わたくしたちの共通の意見なんですけれども」


「究極の友情の果ては友情なんじゃあないですかね……」


おれのなんとも言えない言葉に、彼女たちはウフフ、となんだか恐ろしい笑顔を維持しているままだった。

そしておれは、ここで、なぜシャンドラが永遠に令嬢がたから、縁談を断られるのかを知る事になったのだ。


「何をおっしゃいますの! 勇者様が、相棒殿を一途に愛し、そして相棒殿は愛する勇者様を献身的に支え続け、魔王を討ち果たしたではありませんか!」


「それほどの献身を行う相手がいらっしゃるのに、ぽっとでの誰かが隣に座ろうなんてとても思えませんわ」


「えー」


なんだよ、なんだよ、なんだよ!? 令嬢がたは驚くべき勘違いの結果、創作の物語の中の勇者と、おれと魔王を倒したシャンドラを混合させて、そしてシャンドラとの縁談を断ってたって言うのかよ!!

もうなんだかおれ、罪悪感がやばくなってきた。

というかシャンドラの言う通り、おれの書いた話のせいで、あいつ縁談全部だめだったんだな……と思うと、とてもじゃないが申し訳なさ過ぎて、顔を合わせる事も出来なくなりそうだ。

つうか、今すぐ逃げ出して、どっかに逃亡して、ひたすら謝罪の手紙だけ書きてえよ!!

なんでおれの作った備忘録的な物語のせいで、幼馴染の大事な結婚ぶちこわす事をしなけりゃいけねえんだおれはぁ!!


「でも、あなたさまとシャンドラ様を見ていると、本当に物語の中のお二人が、姿を取って隣り合っているように思えまして……」


「わたくしたち、胸の高鳴りを止められませんの!!」


「……はあ」


なに、ちょっとまって、この令嬢たちまさか皆……




おれの事、男だと思ってる?



そんな可能性に気付いた瞬間、おれは彼女たちの事が得体の知れない存在のように思えて来て、なんだか寒気がして、夜風に当たると言ってバルコニーへ出て、そして。


「……もう、シャンドラになんて詫びればいいかわからねえから逃げよう」


と、華麗に逃亡を決めたのだった。


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