表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/94

赤い絆と緑の襷 第1話

 流石は日曜日の観光地、人でいっぱい!


 「ここは、初めて?」

 「はい! 初めて来ました。イイ所ですね、八景島シーパラダイスって」

 「良かった。でもゴメンね、私のバイトの都合で」


 お姉さん、いやいや、光井栄美みついえいみさんが申し訳なさそうに手を合わせて、照れ笑いを浮かべる。


 「そんな事、無いですよ。ゼンゼン」


 そう言いながら俺は顔の前で、ブンブン手を振った。


 「とりあえず、あと少しで休憩タイムだから。もう少し待ってね」

 「何時間でも待ちます!」


 多分、真顔で言ったんじゃないかな、俺。そんな俺の顔を見て笑いながら、栄美さんは告げる。


 「一緒にイルカショー見に行こうね、メールするから」


 手を振りながら仕事に戻っていく、美大生のお姉さんを見送って、俺は水族館の建物の中に入って行った。


 「来て良かったぁ」


 栄美さんの笑顔を思い浮かべながら、俺は昨日を振り返る。

 そう、とんでもない経験だった。昨日の早朝、多元宇宙の異世界から戻ってきた俺達。とりあえず我が友は二人とも病院送りに。


 「すぐに退院できると思いますよ」


 銀八さんはそう言ったけど、退院前に記憶消されるんだろうな、きっと。

 あんなの覚えてない方がイイとは思うけど。


 「ともかく、君のお母上に納得して頂くのが最優先です」


 そう言う銀八さんこと、多元宇宙の異世界で暮らす俺、1637番宇宙の時保琢磨の言うとおりだった。


 「ちょい異世界に行ってました、とは言えないからね」

 「当然でしょう」


 ひんやり感満載だね、ガス人間8号さんの口調は。

 結局、銀八さんが全て説明してくれた。


 古井戸に潜った友人二人の帰りが遅いので、救助に突入。しかし充満したガスで自らも意識朦朧に。で、銀八さんに救いをメールで求め、昨日土曜日の朝、無事に救助されました。

 こんなストーリーを即興で。

 銀八さんの説明で、我が母も納得はしてくれたけど、再び説教の嵐が吹き荒れたんだ、昨日は。


 「あんたが父さんの真似をしたがるのは、血筋かも知れないけどね。レンジャーなんかじゃ無い高校生が無茶しないでよ」

 「判ってる、父さんとは違うし、俺は。もう二度と、こんな事しないよ」


 ウソ言ってる。自分でも判ってて、そう言うしかない。多元宇宙を知ってしまった、関わり続ける、なら何度もこうなる、きっと。


 「できるだけ、無理なんてしないから」


 平謝りの末、母は怒りを収めてくれた。まぁ、関西弁が出なかったから、本気でキレてたりはしてなかったんだと思うけど。

 その直後に飛び込んできたメールで、俺は今日この日曜日、ここ八景島シーパラダイスに来てる。

 あんな事が有った翌日の外出だから、我が母はイイ顔しなかったけどね。

 化物に囲まれた異世界で、ずっと会いたいって想い続けてた人からのお誘いメール。断る訳が無い。


 「当分は巻き込まれないようにしないと」


 そんな事を考えながら、俺は水族館の中をのんびりと歩いてた。

 ここは水族館3階、昨年に出来たばっかりらしい『くらげりうむ』って言うクラゲ専門の展示エリア。


 少し薄暗く、青っぽい照明。そしてお客さんが少ない。梅雨はまだだと思うけど、本日は雨が降ったり止んだり。

 そんな日は日曜日の観光地でも、こんなに人が疎らなんだろうか? いやいや、場所によるよね、外は全く別だったんだから。

 何だか一人だと昨年の、始まりの秋雨の黄昏を思い出してしまう。


 「お守り、効いてくれよ」


 呟きながら俺は、首から下げた石を服越しに掴む。

 棗のオッサンの言うとおり、あのニセ総理事件で預かったままの青く煌く宝石みたいなのを、今日は持ってきていた。


 「ん? なんか熱持ってる?」


 ずっと体に付いてたから体温で、とも思ったけど……違う。この石そのものが温かくなっている。


 「しかも、これって脈打つってヤツか?」


 石が心臓みたいに一定間隔で振動していた。


 「なんだ? この感覚……」


 目眩じゃない、けど頭の芯が揺さぶられてるみたいな。そう思った途端、後ろに人の気配が。


 「誰も居ない?」


 振り返った俺の真後ろには何も無い、少し離れた所に親子連れが見えるくらい。その向こうはデート中の二人、かな?

 そんな事を考えてた俺の目の端、二つ向こうの円柱の前あたりが揺らめく。いきなり4人の人影が。


 「えっ、幽霊?」


 そう言うしか無かった。どこかボンヤリしてて、実体が無いような不思議な、淡い揺らめきと共に歩いてる。

 みんな日本人じゃない、外国人の男女4人。

 そして4人が4人とも、肩から斜めに幅広のグリーンの布、タスキって言うんだっけ? を掛けていた。


 一人は透け兵衛さん、じゃないや万事屋よろずやさんこと1438番宇宙の時保琢磨おじさんくらいの年齢の、これまたナイスミドル。いやいや、こっちの方が遥かにダンディー。

 その隣に居るのは中学入りたて、いや小学生か? あの日のガス人間8号くんを思い出しそうな子供。


 二人の向こう側に、栄美さんと同い年くらいの女性。

 ドラマで見た、バリバリ仕事できる社長秘書みたいなタイトスカートの、キリッとした女の人が。


 「凄っ……キレイ過ぎだ」


 その三人よりも、俺から一番離れた場所に居たのが、今の感想を呟いてしまった相手。

 場違いと言ってイイような、ふわりと柔らかそうで、しかも豪華なロングドレスを身に纏った多分、二十歳前後の女性。多分。


 「まるで……」


 あの異世界の白い砂漠で出会った、不思議な少女と同じ類? どこか気品がある。程度じゃないね、これは。


 「姫君ってヤツか……」


 あのライオン少女が貴族のって感じなら、目の前のロングドレスの女性は、まるで姫様。そう、絶対権力者・王の娘って感じなんだ。

 気品と風格って言うか、存在自体が別格って感じ。


 「でも、やっぱり幽霊?」


 俺以外の、親子連れも恋人さん達も誰一人、この4人に気付かないみたいなんだ。


 「ここで外国人の殺害事件とか、聞いた事無いよな」


 そんな呟きと共に4人を見送る俺の目に、はしゃいでいた姫君様が軽く跳ねるのが映る。


 「あれ? 俺、知ってる?」


 何故だか判らない、でも今の見て俺は間違いなく、姫君様を知ってるはずだと思った。どこかで確実に見てる、そう記憶の端っこから手が伸びてきた感じがした。


 「どこでだっけ。外国人だぞ、テレビのニュースか?」


 思い出そうと脳みそフル回転の最中に、4人は上の階へ向かう方向に消えていく。


 「追いかけてみようか……」


 そう決めた瞬間、メール着信の揺れが。


 「あ、お姉さん」


 いかんね、未だに名前で呼べてないとは。反省しつつ見た画面には一つ上の4階、アクアスタジアムに来て欲しいって書いてあった。

 階段を駆け上がり、栄美さんを見つけて二人で席を探す。最上段に近いトコしか、もう空いてないよ。


 「最前列はダメ、水被るのはNGだからね」


 女性は顔に水が掛かるのはダメなんだそうだ。お化粧の関係らしいよ。

 ショーはイルカの名演技で、結構楽しませてもらえた。子供の頃、母の田舎に帰るたびに水族館巡りをした事を思い出しながら。

 ただ二つ、とても気になる事を除いては。


 「なんで、あそこに……」


 イルカショー用プールの向こう側、スタンド席の反対側に特別に台が作られていた。そこにあの4人組が居たんだ、かなり豪華な椅子に座って。

 そして、ショーの最中にお姉さんの視線は頻繁に、その4人組の居る特設台の方に向けられていた。


 「なんで、あそこに?」

 「あ、いや、何でも無いです」


 そう言いつつ俺の視線は自然に特設台の方へ。栄美さん、それに気付いたみたいだ。


 「君、まさか……」


 最後まで言わなかったけど、判る。見えてるの?

 やっぱり幽霊じゃなかった。これは、また巻き込まれか? でも、それに美大生のお姉さんが関わってる?


 「あの……」


 問いかけようとして口を開いた俺の前で、栄美さんのトランシーバーが鳴る。


 「あ、ごめんね。はい、私です。え?」


 トラブル発生らしい。あと少しでイルカショーもエンディングを迎えるってトコで、謝りながらお姉さんは立ち去っていった。


 「迎えに来るから、一緒に帰ろう」

 「もちろん! 待ってます」


 聞きたい事も出来てしまったし。

 とりあえず、イルカショーの終わりと共に席を立ち、ちょい我慢してたトイレへ。


 「居ない、か」


 スタンド席を降りながら見た特設台には、もう誰も居ない。もしかしてあの4人もイルカショーを見に来てたんだろうか。


 「また会えたりして」


 いやいや、それこそ巻き込まれだって。

 変に期待してる自分に気付きつつ、用を足してトイレを出る。出た途端、人にぶつかった。これってヤバいパターン?


 「さんたく君じゃないっすか!」

 「金営かなえいさん?」


 それはアキバテロ事件でお世話になった、多元宇宙の異世界から来た人だったんだ。

お読み頂きありがとうございました。


厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。


今後とも宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング もし宜しければ、1票お願い致します。まずは、ここをクリック
連載エッセイ
『平行宇宙(パラレルワールド)は異世界満載?』
「サンたくっ」の世界観を構築、解説してまいります。どうぞお立ち寄りくださいませ。

感想評価レビュー を心よりお待ちしております!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ