赤い絆と緑の襷 第2話
何だか、とってもマズイ展開が待ってるような気がしてきた。
「ちょうど良かったっす! さんたく君、助けてくださいな」
「助けろって、いったい……」
「簡単な人探しっす」
「人探し?」
この優男さんはホント、いとも簡単に距離を縮めてくるね。
「なら、館内放送で呼び出してもらえば?」
「それが出来ないんす、察してくださいな」
いや、それは簡単じゃないでしょ?
「まだ小学校に入学したぐらいの、可愛い女の子なんす。さんたく君、一緒に探してもらえないっすか」
語尾、疑問じゃなかったね、金営さん。
「こっちも待ち合わせとかあって、さ」
「あぁ、あんな小ちゃな子に何か有ったら……もしかして、もう外に出てるのかもっす。さんたく君、一緒に来て欲しいっす」
人の話聞いてないし、もう完全に捜索隊の一人に数えてるね。
どうしようか迷っている内に、視界の端を横切る4人組の姿が。出口に向かって行くじゃないか、このまま見過ごすなんて。
「その、女の子は水族館を出てるかも知れないんだね?」
「そうなんす、ちょっと目を離した好きに」
いやいや、それは貴方の過失じゃないですか、金営さん。でも、これは乗るしか無い。
「外は俺が探すよ。見つけたら、どこに連絡すれば?」
「これにお願いするっす」
銀八さんの持ってたコミュニケーターに、とってもよく似た物を優男さんは突き出す。
「交換開始っす」
言うなり俺のケータイに流れ込んできたよ、金営さんのメアド。
「さんたく君がスマホなら、他に手が有るんすけどね」
悪かったね、今時ケータイで。
「あと、金営さんが探してるって事は、ここの人じゃないよね?」
「あ、判るっすか? いかにも僕らと同じトコっす」
あ、やっぱり。1962番宇宙だったっけかな。ビューレットさんの居る、多元宇宙の異世界。
そこにも俺は存在するんだろうか? それよりも肝心な事を忘れる所だった。
「だったら、さ。俺、翻訳機持って無いから、声かけても届かないよ、多分」
「いつの間にか知識豊富になったっすね、さんたく君。耳年増って奴っす」
ミミドシマ? 何だよそれ、単語が判らんよ。八景島の隣にある島か?
「確かに困るっすね、これ無いと」
そう言いつつ、自分の耳を指す優男さん。そこに、棗のオッサンと同じような機械が有った。
「これ、貸してあげるっすよ」
ポケットから無造作に同じ物を取り出して、金営さんは俺に渡す。スペア持ち歩いてるのか? この人。
見よう見真似ってヤツで、オッサンと同じように耳にセット。金営さんが俺用に調整してくれた。
「宜しくお願いするっす。何が何でも見つけ出さないと」
何だか切迫してるぞ、優男さん。焦りが表情に出ちゃってる。そして俺も若干、焦りを感じてた。
あの4人組は、もう水族館を出ちゃってる。
「んじゃ、外は任せてよ。手品師さん」
「魔術師と呼んで欲しいっすね」
返事もそこそこに、俺は出口を駆け出て行く。あの4人組を見失う訳には行かない。
「うわ、凄い人の波」
外へ出た途端、館内に押し戻されそうな勢いで大勢の人が。雨、と言うより嵐になりそうな空模様、だから集まってきてるんだな。
カーニバルハウスなんて施設に逃げ込む人達も、かなり居そうだ。いきなり土砂降りじゃ堪らないからね。
閑散となってきたシーパラダイス、見渡しやすくなったのも事実。
「居た」
結構あの4人とも、足が速いみたいだ。追いかけるのが大変。
すでに遥か彼方を歩いている、人波とは反対の方へと。
「どこへ行く気なんだろう?」
タワーやメリーゴーランドを素通りしていく、島の反対側に向かってるのか?
「あっちって確か……」
観光地のデートだから、昨夜は必死で下調べしたんだ。辛うじて頭の中に八景島の地図が浮かぶ。
確か、点検で長期運休中のアトラクションが有ったはず。あとは島巡り船の発着所くらいかな?
「どこ行く気だよ、まったく」
分厚い雲が空を覆い、もう完全に嵐に突入って感じの八景島で、外国人4人組は更に人気の無いエリアに向かって行く。
メリーゴーランドなんて誰も居ないよ。そこを通り過ぎようとして、俺はその前に立ち尽くしている少女に気付いたんだ。
「お嬢ちゃん?」
俺の呼びかけに、驚いたように飛び退いた小学生低学年って感じの女の子。
目を丸くしてる、いや、それ以上に顔の半分くらい有りそうな丸メガネが特徴的だな。
それにしても、そんなに驚かせちゃったのかな?
「お、お兄ちゃんは……」
おずおずって感じで返事が返ってくる。
「あの、さ。もしかして金営さんって知り合い、居る?」
優男さんの名前を出した途端、少女の顔から緊張感が消えた。良かった、こんな所で見つかるなんて。あの4人組に感謝、だね。
「君の事、探してたんだ。金営さんに頼まれて」
「ご免なさい。黙って来ちゃって」
いや、俺に謝られても。とは思うけど、素直に謝れるイイ子だ。とりあえず自称魔術師さんとの約束は果たせた。あとはあの4人組を……そう思った刹那だった。
「お兄ちゃん、左手出して」
「え?」
そう言われて、俺は屈んで左手を差し出す。
「おまじない」
少女は俺の左手薬指に、赤い糸を巻きつけて結んだ。薬指って……おませさんって言うのか? この場合。
「あのね、私ね、やらなきゃいけない事が有るの。あの4人の所に連れてって」
彼女の指差す方向、シャッターの閉まった売店の向こうはパラダイスクルーズって島巡り船の桟橋に続く、公園が有るはず。
女の子に気を取られて、俺は4人組を見失っていた。彼女は、ずっと見てたのか? そんなはず無い、俺と向き合っていたんだから。
「ね、連れてって」
「判った、一緒に行こう」
え? 何で俺、オーケーしちゃったんだ?
喜んで俺の手を取り、今にも雨が降り出しそうな中、少女は駆け出す。
そして俺も躊躇なく走り出した。なぜ?
確かにあの4人組を追ってきたし、見失う訳には行かない。でも彼女を連れて行くか? 普通。
まるで暗示にかかったように、俺は少女の言う事に従っていた。彼女の言う事が正しい、叶えなければ。そんな気にさえ成って。
船の無い桟橋に続く道、すぐ横は遊泳禁止の砂浜。そこにあの外国人4人組は居た。
「わぁ! お姉さん綺麗! お姫様みたい」
無邪気に小学生の女の子が大声で呼びかけながら、俺の手を振り切って駆け寄っていく。
「あのね、お嬢ちゃん。こちらは……」
小学生高学年って感じの、4人組最年少が遮ろうとした。それを、あの姫君様が止めた。
「構わぬ」
一礼して、小学生男子が引き下がる。凄い威圧感、お飾りの姫なんかじゃない。ホントびっくりだ。
「お姫様、左手出して」
そんな圧倒的存在感を前にして、それでも物怖じせず女の子は、そう言う。あの社長秘書風のタイトスカートの美人さんが、怒りを顕にして進み出た。
「無礼な、いかに子供とて……」
そう言いかけるのを、左手を上げて姫君様が制する。
「よい。そなた、名は?」
「マリアだよ」
「良き名じゃな。して左手とな、こうか?」
差し出された手に恭しく触れ、俺の時と同じように少女は、あの赤い糸を姫君様の薬指に巻いて結んだ。
「ほう、これは?」
「おまじない、赤い絆って言うんだよ」
「ふむ、これで終いでは有るまい」
穏やかな笑顔で、姫君様は少女に問いかける。小学生低学年の女の子は一瞬、背筋を伸ばし直してから、こう言った。
「パパを、助けて」
その一言に、お付の3人が同時に動こうとして、片手を上げた姫君様に止められた。
「詳しく申せ」
「これを読んで欲しいの」
少女が差し出したのは時代劇で見るような、書状って感じの折りたたまれた手紙だった。
黙ったまま手紙を読み続け、姫君様は最後に、相分かった。って言ったんだ。
「じゃあ、じゃあ、助けてくれるの? 一緒に来て」
「理解した。そう申しただけじゃ」
え? そう声に出して少女は固まる。姫君様は左手の薬指を顔の横まで上げた。
「よく出来ておる。左手の薬指より脳に電気信号を送り、己が意に沿わせる、か」
あ、そうなのか。思わず俺は自分の左手を見た。同じ赤い糸がそこに、有る。
「妾が見えておる時点で、怪しむべきで有ろうしな、その巨大な眼鏡」
「貴様!」
姫君様の言葉に、そう叫んで小学男子と社長秘書さんが飛びかかろうとするのを、さっきより更に怖いくらい威圧感の有る声が制した。
「動くな。妾とこの者の話、邪魔するでない」
ピタリって感じで二人が止まると同時に、最年長ダンディー紳士が姫君様の指から、あの赤い糸を取り去る。
少女の足が震えているの見える。俺が助けに行かなきゃ、そう思うけど、俺も足がすくんで動けない。情けない。
「今一度、問おう。そなた名は?」
「……クレア」
その名前に、俺の後ろから声が上がった。
「う、うそっす、姐さん?」
「金営さん?」
思わず後ろを振り向き、そこに優男さんの姿を確認する。いつの間にここへ? それより姐さんって?
「マリア、クレア……ふむ」
姫君様は二度頷くと、続けてこう言った。
「それが、そなたらの世界の技術、1962番宇宙で言う二次創作と言う物か?」
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