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10.見つけたもの

 以前は魔女の集落があったという小さな土地に足を踏み入れたカインは、あまりにも何も残っていないその惨状に眉を顰める。

 とても小さな里だったのだろう。山間の森の奥深くで隠れるような営みは、突然の暴力により終焉を余儀なくされた。そんな里はいくらでもある。カインはもう幾つも同じ光景を目にしてきた。


 魔女はもう、どこにもいない。


 胸を締め付けるかのような実感は、カインの歩みを止めさせる。

 諦めるために旅路を進んだのではない。だが現実は厳しい。

 踵を返して立ち去ろうとしたカインは、微かな人の気配を感じた。


 人影があった。驚愕し息を呑む音が聞こえた。

 カインは脇目も振らず走り出す。

 

 見間違えるはずもない赤い髪が風に舞う。

 炎のように――血のように赤い。


 カインは他にそんな人物を知らない。


「……馬鹿じゃないの」

「リジー……いや」


「リゼッタ」



 + + + 



「なんでなの」

 リゼッタは突然現れたカインに慄いた。

「なんで、ここに」

「ずっと探していた。魔女の里を虱潰しに。これでもずっと各地を旅をしていたんだ。おおよその見当はつく」

「死人を探してどうするのよ」

「あんたは死なないと言った」


 リゼッタは相手のあまりの愚直さに呆然とする。

 確かにその通りなのだから救いはない。だが、気づかれるはずもなかった。あのときリゼッタは自身が炎に呑まれ灰と消える幻影を作った。誰が見ても死を疑いようがない。


 想像の余地はなかったはずだ。

 その裏で、リゼッタはカインから奪った想いを結晶にして、新たな心臓を作り上げた。刺された心臓の代わりに、彼の想いを凝縮した赤い炎が鼓動する。今も早鐘を打っている。


 知られるはずがなかった。

 リゼッタが今も生きているなど。

 ……彼の愛だけを胸に抱いて、灯った焔が自然に消えるまで、独り生きていこうと決めたことなど。


 なのに彼は。

 どうして彼は。



「馬鹿じゃないの」

 リゼッタは繰り返す。

「あんたが昔、リジーを愛してたっていう気持ちは、なくなったはずでしょう」

 そうでなければ今リゼッタは生きてここに立っていられない。想いの集積は間違いなく左胸で生き、全身に血を巡らせている。

「そうだな。俺には昔の愛情はない」

 カインは肯定する。

「じゃあ私を追いかける理由は何? 今度こそ復讐に目覚めたの?」

「……いや」

 カインは否定する。


「あんたは何故、思い至らない?」

 カインはリゼッタの腕を掴んだ。華奢な身体は地に倒れそうになる。

 逞しく力強いカインの腕が、リゼッタをぎゅっと包み込む。

「たとえ過去の気持ちが消えたとしても、今の俺や未来の俺が、あんたを愛さない理由はないだろう」


「……馬鹿じゃないの」


 愛は常に生み出されるものだとカインは言う。

 リゼッタは心臓を抑えて泣きそうになった。

 どうしてこの男はこうなのか。


 こんなにも馬鹿で愚かで、

 こんなにも簡単に魔女に陥落(おち)て、

 こんなにも容赦なく自分を捉えるのだろう。


「リゼッタ」


 かき抱く腕が強くなる。

 リゼッタもその手をカインの背中に回した。


「馬鹿じゃないの」



<完>

ありがとうございました

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