金色の思案
「──ユエ様……ユエルディーネ様」
すっかりと日が暮れ、ユエの部屋には照明が灯っていた。机に向かっていたユエに声をかけても反応がなく、つい彼が嫌がる本名で呼んでしまう。
「……レーウィスか」
レーウィスに漸く気付いたユエは顔を上げた。主と同じ色の双眸を眇めて微笑むユエに、レーウィスは微笑み返す。
ユエは机に広げていた本を閉じ、適当に積み上げた。机の上だけで三つの本の山がある。本棚に入りきらなくて困っていると聞いたのが先日だったが、明らかに量が増えている。
知識欲が旺盛な方だが、部屋の片づけは下手だ。まぁ、何処に何があるかは分かっておいでなので、あえて触れなしないが。触れるだけ、無駄だ。それは過去に十二分に理解している。
「東洋の書物ですか?」
レーウィスが積み上げた本の表紙にはルゼノ語ではない文字が綴られている。大陸で流通している本は一通り目を通すのが趣味らしい。
「あぁ、貿易で手に入ったんだ。君も読むかい?」
喜色満面で薦めてくるユエに、レーウィスは艶然と微笑んで断った。
「いえ、結構です。以前にお借りした書物もまだ途中ですので……ところでスカイティア様は」
レーウィスが昼間、主人の元を離れた時のことを聞くと、ユエは苦笑を漏らした。とはいえ、苦四割、笑み六割といったところだが。
「クラウディアには困ったものだね」
ユエは卓の上に頬杖を付くと、溜息を吐いた。金糸の間からの覗く青い双眸が悲しく揺れる。
兄弟間の仲の悪さを嘆くのはいつものことだ。分かっていはいても、いざ目の当たりにすると、上の弟に当たってしまう。
二人目の弟がその髪色ゆえに立場が弱く、日々排除の対象とされていることを知りながらも、陰から守ることしかできない。
「世界中を見れば、容姿による差別を禁止している国も多い。大陸にある以上、民は流動的だ…民族的特徴が身体にある者は多いが、それを理由に差別すれば商業の活性化を阻害する」
青い眼に金糸が流れ落ちる。ユエが身に纏う白い衣に金糸が流れて行く。止めどなく流れる時のように。
「この国は何時までも『髪色』に拘り続けるが、それが意味を成すか?これから何か発展を促すと思うか?」
「私が思うことは、ユエ様が一番よく御存知でしょう」
レーウィスの返答にユエは笑う。口角を吊り上げ、瞳が半月を画く。卓に手を付き、立ち上がったユエはレーウィスを真っ直ぐに見据えた。
あどけない顔立ちに思えた顔が、不意を衝いて急に大人びる。その時折──政の席では度々──見せる王の顔に多くの臣下が平伏していることを知っているだろうか。
……まぁ、この方は図った上で、無自覚を装うから王に向いているのだと思うが。
相手の油断を誘い、行動を誘導し、言質を取る。
他者を操る術に長けたカリスマ性を持つからこそ、第一王子ユエルディーネの信奉者は多い。
「レーウィス、君がティアを思うなら力を貸してくれ」
「仰せのままに…私の望みは常にユエ様と共にあります」
凛とした声音にレーウィスは即答する。真っ直ぐにユエを見据えるレーウィスの表情は真剣そのもので、気高き信念がありありと浮かんでいる。その覚悟がなければ、この数年の準備は続かなかった。
「ありがとう、レーウィス」
何処か悲しげな微笑がユエの顔に浮かぶ。哀れささえ誘う痛々しい微笑を捉え、レーウィスは深青色の双眸を眇めた。
「最後まで巻き込んでしまうけど、許してね」
ユエは卓の上にあった白い紙をランプの灯にくべた。チリチリと燃え始める紙が炭と化していく。赤と金の焔がユエとレーウィスの瞳に妖しい影を落とした。
巻き込むなんて、ご冗談を。
私は最初から首謀者の一人。貴方一人に罪科を負わせるような真似は致しませんよ。




