第1話 ぼっち陰キャと学園のマドンナ
5年ほど前に書いて止まっていたものをリテイクしてみました!
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俺は自慢じゃないが、陰キャである。
そもそも定義が曖昧なこの言葉を使うのは、俺としても大変不本意ではある。だが、そろそろ認めなければならないと考え始めていた。
なぜなら、高校に入学してから、まもなく一か月が経とうとしているのに、友達と呼べる存在がまったくできる気配がないからである。
まあ、この「友達」という言葉も定義が曖昧ではあるのだが、今はその話は置いておこう。
とにかく、気兼ねなく話せる友人がいまだに一人もいないというのは、かなりまずい。さすがに危機感が芽生え始めていた。
しかし、なぜ友人ができないのか。その理由はわかっていた。
ただ単純に、この地域に知り合いがまったくいないからである。
この春、とある事情で地元の田舎を離れ、都会に一人でやってきた。そのため、この高校の周辺には知り合いが誰一人としていないのだ。
これでは、高校デビューを目指していろいろと頑張った努力が、すべて無駄になってしまう。
中学生の頃は、受験のために通っていた塾の友人から、必死に同じ中学へ来るよう頼まれたことがあった。
その友人をきっかけに交友関係が広がり、いろいろな人と話すことができていた。だから、特に友達作りに困ることもなかったのだ。
しかし、そのせいで、自分から友達を作る方法がわからなくなってしまっていた。
自分から話しかけに行けば済むだろう、と思う人もいるかもしれない。
だが、それがなかなか難しいのだ。
入学直後のクラス内であれば、今よりもずっと話しかけやすかったかもしれない。
しかし、今となっては完全にグループができあがってしまっている。なんというか、雰囲気的に話しかけづらいのだ。
別に、自分が爽やか系のイケメンだと思っているわけではない。
それでも、高校デビューに向けて身だしなみはそれなりに整えたつもりだった。
だから、どこかの陽キャが話しかけてきてくれるだろうと、ひたすら待っていた。
その結果が、今の有り様である。
……決して、俺がコミュニケーションを苦手としているわけではない。
さらに、このクラスはなぜか全員がどこかのグループに属しており、俺以外に一人ぼっちでいる奴がいない。
以上の理由から、俺こと辻龍弥は、ゴールデンウィークが明けた翌日の昼休み、一人で食堂のハンバーグ定食を食べていた。
まあ、別にぼっち飯なんて悲しくねえし。
いつものように、誰に向けているのかもわからない言い訳を心の中で唱える。
(また自分に言い訳してる。ダセェな、俺)
そんなことを思いながら、ハンバーグ定食をもぐもぐと急いで平らげた。
それから、今や日課になりつつある、食堂前の自動販売機で買った牛乳を、食堂を出てすぐのベンチに座って飲む。
しばらくすると、掃除開始のチャイムが鳴った。
憂鬱な気持ちになりながらも、俺は教室へと向かった。
* * *
その後も、休み前と変わらず、誰とも話すことなく掃除をこなした。
そして、五時間目の授業が始まるのを待ちながら、机にうつ伏せになって寝たふりを続けていた。
今から本当に寝ても、中途半端な時間に起きることになりそうだ。
そこで、寝たふりをしながら、近くで話している女子グループの会話に耳を傾けることにした。
何か話のネタでも見つかれば、今後の会話に役立つかもしれない。
すると、こんな声が聞こえてきた。
「あれ、またこの子寝てる~」
「いっつも寝てるよね~」
「多分、あれだよ。友達作りに失敗したんだよ。誰かと話してるところ、見たことないし」
「あ、確かに~。なんか髪型とかきっちりしてるのに、なんかアレだよね~」
「あー、あれね」
「そうそう。なんか陰キャが無理してる感じ?」
「てか、この子、見たことなかったよね。誰か知ってる?」
「え~、知らな~い。多分、どっかから引っ越してきたんじゃない?」
「あー、ね。なら、友達いなくてもしょうがないか~。てか、誰か名前知ってる?」
「確か、つ……なんとかじゃなかった?」
「そうだ! 辻だよ、辻!」
「あー、確かに。言われてみればわかるかも」
(……こいつら、黙って聞いてりゃ好き放題言ってくれやがって。てか、なんで同級生に「この子」呼ばわりされなきゃいけねえんだよ)
そんなことを思ってはいたものの、本人たちに直接言えるはずもない。
結局、俺はそのまま五時間目のチャイムが鳴るのを待っていた。
そんなこんなでチャイムが鳴ると、近くにいた女子グループも、それぞれ自分の席へと戻っていった。
俺も、まるで今起きたかのように顔を上げ、後ろの席の人にぶつからないよう気をつけながら、ぐっと体を伸ばした。
すると、五時間目の授業を担当する数学教師であり、このクラスの担任でもある桂井先生が教室に入ってきた。
やがて、学級委員の号令とともに授業が始まった。
……と思ったら。
「えー、本日はまず初めに席替えを行う。やり方はくじ引きだ。異論は認めないからな~。あと、目が悪い奴は挙手しろよ~。そいつら専用のくじを用意しないといけないからな」
突然の席替え宣言に、仲のいい者同士で離れたくない生徒たちが不満の声を上げる。
そんな中、俺はこれがチャンスなのではないかと思っていた。
(席替えなら、隣になった人と話す口実ができるぞ!)
そう考えた俺は、周りに気づかれないように期待を胸に膨らませながら、くじを引く順番を待った。
そして、ついに俺の番がやってきた。
(頼む! 話しやすそうな人が隣になりますように!)
そう祈りながら引いたくじに書かれていた数字は、二十九番。
教室の一番後ろ、しかも一番窓側という絶好のポジションだった。
(よっしゃ、ついてる!)
心の中でガッツポーズを決める。
とはいえ、隣の人とうまく話せるかという不安もあった。
俺は期待と緊張を胸に席へ戻り、全員がくじを引き終えたところで、指定された場所へと机を移動させ始めた。
そして、席の移動が終わった。
俺は、隣の席に座る人物を確認する。
そこにいたのは――。
モデルかと思うほどの美女。
そして、この学年のマドンナ的存在でもある、高野由紀だった。
(マジか! 今日の俺、運が良すぎるだろ! この調子で話しかければ、いけるはず!)
そう決意した俺は、勇気を振り絞り、彼女に自己紹介をしようとした。
「こんにちは! 俺は辻龍弥! ぜひ俺と――」
友達として付き合ってください!
……と、言うつもりだった。
しかし。
「付き合ってください!」
「え……」
その瞬間、教室が静まり返った。
窓から吹き込んだ風の音だけが、やけにはっきりと教室中に響いていた。
――こうして、ぼっちで陰キャだった俺が、うっかり学年のマドンナに告白してしまった結果、俺にベタ惚れで、世話焼きな彼女が誕生してしまうのだった。




