最終話 まだ終わっていない……
「……父をご存知なんですか?」
シオンに抱きしめられた際の痛みに耐えつつ、目の前の女性……シオンの姉、彩愛さんを見る。
「弦一郎さんのギルド、『龍王星団』にいたし、新宿ダンジョンに出征した時のメンバーに私も入っていたからね」
「……それでは父の居場所も」
これまで見つけることができなかった父の生存を確認できると思ったが、彩愛さんは無言のまま首を横に振る。
「新宿ダンジョンに入ってしばらく進んだところで、大量のモンスターに囲まれたわ……最強のギルドとも言われた『龍王星団』でも精鋭部隊を集めても苦戦を強いられてしまった」
その時のことを話す彩愛さんは笑顔から苦しんでいるような顔つきへと変わっていた。
「それと同時にダンジョンに設置された罠なのかわからないけど、辺り一面が壁に囲まれしまったの。それによって弦一郎さんと残りのメンバーで分断されてしまい……わたしたちは大量のモンスターたちを撃破していったけど……倒し切った時は私1人になっていた。 周りには力尽きたメンバーの骸があったわ」
彩愛さんの壮絶すぎる話に私もそうだが、その場にいたシオンやエンジュさんも静かに聞いていた。
「私も限界が来て、その骸の1つになるのかと思いながら意識が飛んでしまってたわね」
「だとしたらアヤ姉はどうして……?」
シオンの問いに彩愛さんの横にいた獣人の子供を抱きしめていた。
「偶然あの場にいたこの子の父親に助けらたのよ」
彩愛さんの表情は再び明るくなっていった。
「つまりは今の旦那になるんだけどね……彼の看病の甲斐があって復活したんだけど、お礼に彼の手伝いをしているうちに色々あって、この子が産まれたの」
彩愛さんは獣人の子供の方を掴み、私たちの方へと向かせる。
子供の方は状況が理解できてるのかわからないが、輝くような笑顔でこちらを見ていた。
「ちょっと話は脱線してしまったけど、あれ以降、弦一郎さんがどうなったかわからないの……」
「……そうですか」
力が抜けたように、私がベッドに倒れると心配したのかシオンとエンジュさんが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「オルハさん、大丈夫なの?」
「……うん、大丈夫。 少し気が抜けただけだから」
父のことがわかると思っていただけに、知ることができなかったことへのショックがあったのかもしれない。
「でもさ……」
彩愛さんが微笑みながら私の顔を見ていた。
「あの弦一郎さんがそんな簡単にやられるなんて思わないかな」
「……そうなんですか?」
「うん、あの時いたメンバー全員で戦っても弦一郎さんには敵わなかったよ……オルハさんの前でいうのは失礼かもしれないけどバケモノじみてたよ!」
彩愛さんは笑い混じりにそう話していた。
「だから私は無事であると思ってるよ! オルハさんも自分の父親ならそう思ってあげないと弦一郎さんに怒られちゃうかもよ」
彩愛さんは話の最後にウインクをしていた。
「そうですね……」
そうだ、私がダンジョンの探索者になったのは……父を家に連れて帰ることだ。
姿をみていないのに落胆するのはまだ早い……!
「……彩愛さん」
「どうしたの?」
「……ありがとうございます」
礼を告げると彩愛さんはニッコリと私の顔を見ていた。
それから私が完全に動けるようになるまで半月近くかかってしまい。
それまで私たち3人は彩愛さんに厄介になりっぱなしだった。
彼女は久々に人間に会えて楽しいと言ってくれていた。
そして、彼女とのお別れの日がやってきた。
「もう少しゆっくりしていけばいいのに……」
村の入り口で私たち3人は彩愛の家族や村の人たちに囲まれていた。
「そうしたいけど、そろそろ大学の授業も始まるしね」
隣にいたシオンが笑顔で答えていた。
「そっかぁ……」
彩愛さんは寂しそうに話しながらシオンの前に立つ。
「詩音、最後に抱きしめていい?」
彩愛さんはシオンの答えを聞く前に体を引き寄せて抱きしめた。
「……長いこと傍にいてやれなくてごめん……ね」
次第に彩愛さんは嗚咽を漏らしていった。
「そんなこと言われたら……せっかく……泣かないでおこうと思ったのに……!」
彩愛さんに釣られるようにシオンも泣き出していく。
2人の様子を見て、誰もが黙って見ていた。中には涙するものも……
「ママ、どうしたの? どこか痛いの?」
彩愛さんの子供が彼女の手を取っていた。
それに気づいた彩愛さんはシオンから離し、子供を抱き上げていく。
「ううん、大丈夫だよ! それよりもシオンおばちゃんにバイバイってしなさいね」
彩愛さんは微笑みながら子供の手を取るとシオンに向けてゆっくりと手を振る。
「20歳になったばかりだからお姉さんにしといてよ!」
シオンの言葉に私やエンジュさん……村の人たちも笑っていた。
「アヤ姉、それじゃいくね」
「うん、私はここにいるから、辛いことがあったらいつでも来なね」
シオンは力強く「うん」と答えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
彩愛さんに教えてもらった通りに進んでいくと、地上へと繋がる魔法陣の部屋へ辿り着いた。
3人意を決して魔法陣の上に立つと……
私たちは下北沢ダンジョンの入り口に立っていた。
久々に太陽の光に目が慣れず目を瞑ってしまう。
「太陽の光っていつもだと鬱陶しく感じるのに、長いこと浴びてないと心地よく思えるのね」
エンジュさんはいつもの皮肉を込めて話していた。
「だからエンジュさんってそんなに捻くれているんですね、浴びているうちにその毒気が蒸発していくかもしれませんよ?」
「あら、随分と言うようになったじゃない? お姉さんに会えて気が強くなっちゃったのかしら?」
そして私たちは笑い合っていた。
「お、オルハちゃああああああああああああああん!」
それから3人で家に帰り、出迎えてくれたのはアイリスと……
「なんでアンタがここにいるのよ……」
リビングで不機嫌を表したようにムスッとしていたダンジョン管理局局長。
——3人と無事だったのか! おぢさん心配したんだぞ!
——今日はめでたい日だ! もってけドロボウ![10000]
——久々にオルシオを楽しむことができるのか![10000]
——全裸待機してまっておりました!
その後、シオンが無事に帰ってきたことをSNSで告げると大量のメッセージが送られると同時に大量のお金が送られてきたとかでシオンが困惑していた
戻ってきてから、あっという間に月日が流れて行った。
私とシオンは大学生活、エンジュさんも休学していた大学へ戻り、卒業に向けて頑張っていると話していた。
それもあってか、あれ以降ダンジョンに行ってはいない。
……もちろん、探索者を辞めたわけではない。
——私の目的はまだ果たしていないのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「せっかく帰ってきたと思ったのに、もっとゆっくりしてどうだい?」
玄関で祖母がため息混じりに話していた。
一旦の区切りがついたのもあるし、実家を出てから一度も帰っていなかったので……年末年始に帰郷していた。
「……もう少しのんびりしたいけれど、友達が待っているから」
私が答えると、祖母は「そうかい」と微笑んでいた。
「まさか、織葉の口から友達なんて言葉がでるとはねえ」
ホント、自分でもそう思ってしまい、思わず口元が緩んでしまう。
「……それにまだ、目的は話してないから」
「そうだね……」
私の目的は父親と一緒にここへ帰ってくること。
それが終えるまでは……探索者としての私はダンジョンに向かわなければならない。
「だからと言って無理は禁物だぞ」
「……わかってるよ、おばあちゃんは相変わらず心配性なんだから」
私がそう告げるとおばあちゃんは笑っていた。
「……それじゃ、行ってくるね」
「気をつけてな、今度はお友達を連れてきなさい」
「……うん」
私は実家の玄関を後にしていた。
「この地に眠る我が先人たちよ、我が孫を見守りくださいませ」
——私たちは再び、ダンジョンへと足を運んでいくのだった。
Fin,
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