第58話 私の助けになってくれた彼女へ
「うわぁ……私が見てきた魔導書より分厚い」
読むことが可能になった目的の魔導書を見ているエンジュさんの横からシオンが覗き込んでいた。
『こういうのもあれだけど、シオちゃんのは初歩魔法だからね』
インカムからの言葉が矢のように突き刺さったのか、シオンは泣き出しそうな顔をしていた。
『シオちゃんの魔力が上がってきてるから、中級魔法にもチャレンジしてみてもいいかもね』
その言葉が嬉しかったのか、シオンは泣きそうだった顔がパッと明るくなっていった。
「それならちょうどいいのがここにあるわよ」
魔導書を読んでいたエンジュさんが本を下にずらしてこちらを覗くようにみていた。
「どういうことですか??」
シオンは不思議そうな顔でエンジュさんを見る。
「どうやらこのドラゴンスレイヤーって魔法2人で使うものようね」
『そ、そうなの!?』
真っ先に反応したのはアイリスだった。
「……アイリス、突然叫ばないで」
耳を抑えながらインカムの主に言うが、まったく聞こえてないようだ。
「何よ、エルフのあなたも知らなかったの?」
『エルフだからって何でも知ってるわけじゃないからね……』
「もしかして、あなたのお兄さんも知らなかったとか?」
『バル兄は知ってたと思うけど……あっ』
「どうしたの?」
驚いた声を上げたと思ったら今度は「うーん」とか「そういうことかぁ」などの独り言が聞こえてきたがそれ以降アイリスは何も話さなくなった。
「でも、エンジュさんが見ている魔導書ってものすごい魔力を使うんじゃないんですか?」
「だからこそ、2人で使うんじゃないの?」
「たしかに……」
「大方、あの性格最悪な男エルフのことだから、私1人に使わせて生き残るか見てみようとか考えてたんじゃないかしら?」
そう言いながらエンジュさんは不敵な笑みを浮かべていた。
『……考えバレてるよバル兄』
インカムからアイリスの小声が聞こえた気がするが、誰の気づいていないから気のせいだったかもしれない。
「どうやらこの魔法にはメインとサブの役割があるようね」
魔導書を読みながらエンジュさんはシオンに説明をしていく。
「魔力は両方とも使うけど、サブの方が負担は低いみたい」
「それなら大丈夫な気がしますね……」
そう答えるシオンの表情は不安そうだった。
それからはエンジュさんが主体となって、シオンと一緒に魔導書を読み合わせていく。
その間、魔法に関して何もできない私はやることがなかったので、時間を潰そうと本棚を見ていく。
『オルハちゃん、もしかして暇なの?』
私の行動が気になったのか、アイリスが話しかけてきた。
「……うん、あの調子だとかなりの時間がかかるでしょ?」
以前、シオンがアイリスの出してきた絵本を解読するのにも相当な時間がかかっていた。
あの分厚さだとあの時以上にかかるだろう。
『まあね……エルフ族の言葉、アールヴ言語を知ってればそこまでかからないと思うけどね』
アイリスの言葉に相槌をうちながらも、暇を潰せそうな本を漁っていく。
だが、どれも背表紙にはアイリスの言うアールヴ言語だと思われる文字で書かれていた。
『それにしてもさ』
「……なに?」
『ちょっと前ではこんな風になるなんて考えられなかったよね』
「……何が?」
『こうしてギルド作ってしかもメンバーと一緒に探索できることだよ』
「……そうね」
最近は3人で探索に行くことが普通になりすぎて忘れていたが、数ヶ月前までは私1人だった。
ポータルを使うこともできず、かと言って私の性格が災いしてギルドも作ることもできない始末。
あの時、シオンに出会わなければ……もしかしたら今もずっと町田ダンジョンを彷徨いていたかもしれない。
『ホント、シオちゃんには感謝しかないよね』
「……うん」
それは心から思う。
素直な気持ちをシオンに言っても顔真っ赤にして否定されそうだけど。
『シオちゃんのことだから、「私は何もしてなくてオルハさんが頑張ったからです!」とか言いそうだよね』
どうやら考えていることは同じだったようだ。
思わず笑ってしまう。
『戻ったらシオちゃんにお礼してあげないとね』
「……ありがとう言うだけでいいのかな?」
『言葉よりも、抱きしめたり添い寝とか一緒にお風呂入ったりしてあげた方が喜ぶんじゃない?』
「……そんなことでシオンが喜ぶとは思えないけど?」
私の返答にアイリスは大きなため息をついていた。
何か変なことを言っただろうか?
暫くの間、アイリスと他愛のない会話をしていると、インカム越しに甲高い音が聞こえてきた。
「……なに?」
『ちょっと待って、バル……局長から緊急連絡!?』
その直後、カタカタと激しくキーボードを叩く音が聞こえてきた。
『うそ……!?』
「……どうしたの?」
『下北沢ダンジョンに……』
声を振るわせながら、アイリスはこう話していた。
——下北沢ダンジョンの最新部にノワールドラゴンが現れたと。




