有名な画家
花売の商人が北に咲く白薔薇を集めた出稼ぎの帰り道、夜も深まり山を通り抜けようと急ぎ足で歩いていた。
山道の両側は生い茂る森でまさに一寸先は闇であった。花宋は怖くて帰路を急いだが、数キロ歩いて再び怖くなった。
彼は分岐点で立ち止まり前方の壁に何かが描かれているのを見た。どれも色鮮やかで、目を凝らさなくてもハッキリと見ることができる。
壁画には花畑や小さな村に行き交う人々、さらには二十代の女が描かれていた。壁の三分の一を埋め尽くす絵は同じ村の景色と同じ女の絵だけが描かれており、同じ画家が描いたのだと分かる。
彼は夜闇に怯えながら帰路につき、家に戻った時にはこの壁画のことを忘れていた。その画家の絵は一言で言うなら平凡である。タッチ、題材、色使い、全てにおいてありきたりであった。
そのため数年後、花宋は再びこの山を通ったが壁画を忘れており通り抜けようとしたところ人だかりに気づきその中の一人に声をかけた。
「なあ、娘さん。こんな何もない山道でなぜ人だかりができているんだ?」
娘は快く教えてくれた。
「あら!知らないの?ここの壁画が素晴らしいって有名だから見にきてるのよ。しかもこの先の村には画家が住んでいるから皆こぞって聖地に来てるの!」
彼は群衆を掻き分けてその壁画を見てやっと思い出した。しかしその壁画は彼の記憶とは異なる点が一つあった。同じ花畑に村と女の絵で形も全く同じなのだが色が違った。かつての鮮やかさは消え、全部が黒の濃淡で描かれている!
その夜彼は民宿を探していた。数年前以来、北の地の花の色が気に入られ流行り泊りがけで摘みに来ていたので、画家の住む村の宿に宿泊した。彼は布団の中であの暗く、それでも印象に残る壁画を思い浮かべながら眠りについた。




