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寒波の温かい夜

 無事でいてくれ、エルピス──。


 俺は真っ暗な世界を彷徨っていた。もう二度と会えないなんて絶対に御免だ。エルピスが行きそうな場所は? 肩で息をしながら脳をフル回転させる。冷たい外気に晒されながら、冷や汗をかいていた。


 まず海が頭に浮かんだが、すぐに打ち消す。瞬間移動を使えば行けるだろうが、魔素を温存するためそんな真似はしないだろう。人の多い繁華街は避ける。待てよ、エルピスは人間なんて魔法で簡単に倒せるわけで、恨みはあっても恐怖の対象にはならないはず。分からない。 


 とりあえず進むしかなかった。街頭を頼りに自販機やシャッターの降りた店舗、バス停、あちこちに目を配るが彼女の姿はない。


 焦りがどんどん増していく。それは失う恐怖と言い換えられる。エルピスならどんな惨めな俺でも受け入れてくれる、話を聞いてくれる。その安心感を突如奪われたら、俺はこんなにも不安を感じて弱い存在に落ちぶれるのか……。大切なものを失って初めてその偉大さに気がつく。人間は同じ過ちを繰り返す愚かな生き物だ。


 手当たり次第探し回ったが見つからず、もう家に帰っている可能性も考えた俺は後ろ髪を引かれる思いで自宅へ引き返すことにした。行きとはあえて違うルートを選択し、ちょうど公園の前を通りかかったときだ。


 乾いた空気を刺すような遊具の軋む音が俺の耳に届いた。誰かがブランコを漕いでいる──その姿を認めた瞬間、一目散に駆け寄った。


「エルピス! 大丈夫か!」

「……来てくれたんだ」すくっと立ち上がる。

「ああ、無事で良かった。もしものことがあったら、一生後悔するところだった」

「心配かけてごめんなさい。勝手に家を飛び出したりして。嫌いになった?」少し俯いた。

「そんなわけないだろ? 原因を作ったのは俺だし自業自得だ。エルピスの優しさに俺は甘えてたんだ。文句だけ言って自分を卑下する奴は現状を変えようともしないただの敗者だ。被害者ヅラして受け入れるしかないって呪文を唱える。俺だって本当は幸せになりたい。諦めたくない。一度しかない人生、エルフと比べると一瞬の灯火に過ぎない命を、納得行くまで使い果たして死を迎えたい。その必要条件はエルピス──君を元の世界に帰して家族に会わせてあげることなんだ。帰った後も俺のことを覚えていてほしい」


 うん、とエルピスは小さく返事し、「わたしが一番聞きたかった言葉、わかってるなら最初に言ってほしかったかな」

「ほんと馬鹿でごめんな」


 エルピスはそっと俺の胸に寄りかかり、「許す」体温と言葉が優しく俺を包み込み、肯定された気がした。


 十年に一度の寒波が、とニュースで散々言っていたが、よくもまあ平然と嘘をつけるものだ。


 こんなにも温かい夜を、俺は知らない。

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