第六章 白色の友人
「よし、行くよ!」
授業後、いつも通りミコの腕を掴み走り出す。でも、行くのは図書室じゃない。
「・・・どこいくの?」
「いいところだよ。」
* * * *
「ん~!おいしい!幸せ~!!」
うまい!やっぱスウィーツは食べると幸せな気分になれるね!
「・・・・・・・・・。」
「ん?あんたなにしてんの?さっさと食べなさいよ。あたしのおごりだからさ。」
別に食い逃げしようなんて言わないから安心して食べなって。
「これ・・・なに・・・?」
「スウィーツよ、スウィーツ。」
おいしくて、幸せになれる乙女・・・いや、ほぼ全人類の必需品。
「まぁ、食べてみなって。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
ミコは感情ののらない瞳でじぃっとプリンを見つめた。やがて、意を決したような表情をしたあとぱくりとプリンを口に含んだ。
「・・・・どう?おいしいでしょ?」
「・・・・・おい・・しい・・・の・・・かな?」
ガクッ!!
「おいしいかおいしくないかぐらいわかるでしょーよ。」
「・・・・これまで・・・舌を・・・味を・・・感じられるようにしたことなんて・・・なかったから。」
・・・・・耳とか目だけでなく、他の体の機能も使えるようにしたり使えなくしたりできるのか・・・。
「でも・・・なんだか・・・少しだけきもちがふわってなる。」
「それがおいしいってゆーの。あと、幸せ。」
「そっか・・・。」
そもそもミコには感情というものが希薄なのかもしれない。・・・・うん。これからは・・・普通の勉強以外にも情操教育もしよう。
「ほら、あたしのも食べる?」
「いいの?」
「どーぞ。」
どうせあと一口だし。
あたしが最後の一口をフォークにさして差し出すと、ミコはパクリとたべた。
「・・・・・・。」
なぜかミコの眉が若干ゆがんだ。
「どうしたの?」
「・・・・・なんか・・・いや・・・。」
なんだ。苦手だったのか。
「それはね、嫌いっていう感情。あんまり良くない感情だっていう人もいるけど、あたしはそれも人間の大切な感情だって思ってる。」
憎しみや嫌悪感が生きる原動力になるときもあるからね。
「あ、ちなみにその食べ物はチョコレートケーキね。」
ちょっとビターな感じだったから、お子様の口にはあわなかったかな。
「さっきのたべものは?」
「プリン。」
そういや、アイツらもプリン大好きだったなぁ・・・。アイツら、なにしてるんだろ・・・。ウィンクルにルナ・・・・。馬鹿トリオだったけど、楽しかったなぁ・・・。幸せだった・・・。
・・・でも、なんであたしを追い出したんだろう。追い出される一か月ぐらい前から、なんとなくおかしい感じがしてた。ユリに来て・・・三人でこっそり学園に忍び込んで授業をうけたあたりから・・・。知というものがあればあたしの人生はもっと変わったのではないか、母国においてきた妹分たちを救えるのではないか、と、人々に知を与える教師という職業に強いあこがれを抱いたあのときから・・・。そのころから急にウィンクルがあたしに文字とかを教えるようになってきたりしたんだ、たしか。
・・・・・忘れもしない。いつも通り公園とかで寝るんじゃなくて、あの日はこっそり三人で寮にとまったんだ。翌朝、二人は消えていて・・・いくらかのまとまったお金に通帳。そして、いつのまにとったのか花園学園の学生証と制服、教材、文房具類一式・・・・・そして、手紙がポツンとおいてあった。手紙には「あなたとぐるーぷをくむのはもううんざりです。よって、あなたをぐるーぷからだったいさせることにしました。このあとのじんせいはわたしたちのことはわすれて、きょうしにでもなってください。」とだけ書いてあった。ウィンクルにならったばかりのひらがなで書かれた文字列を見て、あたしは絶望した。文字なんて習わなければよかったとあの時ばかりは後悔した。
・・・・最初はひたすらに泣いていたあたしだったが、だんだん怒りやら憎しみが勝ってきて絶対に教師になって母国だけでなく世界も救ってやるとなって・・・今のこのあたしがいる。
「・・・・・・どうしたの?」
「・・・いや、なんでもない。ちょっと嫌なこと思い出してた。」
「いやなこと?」
「ああ。」
アイツらのことなんかさっさと忘れよ!うん!
「・・・・・・・あげる。」
ミコがプリンをスプーンで一掬いして、あたしに差し出してきた。
「あんた好きなんでしょ、これ。別にいいよ。」
あたしはプリンみたいに甘ったるすぎるものはあんまり好きじゃないんだ。
「あげる。」
「むごっ!!!」
なんと、ミコは無理やりあたしの口にプリンを突っ込んできた。
「・・・・心、ふわってなった?」
こてん、とミコは首をかしげた。
やっぱりプリンはあたしの舌には少々甘すぎたようだが、甘さよりもミコのやさしさがじんわりと口の中に広がって心がふわっとなった。