第二十七章 君の感情を知りたい
「まずね…最初の秘密。」
うん。
「僕が、好きな人は…プミラだよ。」
「…ありがとう。」
……ミコの好きは決して恋人同士で抱くようなものではない。ミコのこれは、親やそれに近いものたちに抱く感情。幼い子供が母親に抱く愛と依存の混ざった感情だ。
……近いうちに、これをミコに説明してあげないとな。愛にも色んな種類があるということを。
「あとね、本当の本当にたいせつな秘密。おかあさまいがい……ううん、もう誰もしらないこと。しられちゃいけないこと。プミラにとくべつにおしえてあげる。」
…?
「僕ね、本当は名前があるの。」
…!!!?
「その名前を呼ばれると僕はその人に支配されちゃう。僕はからっぽだから、名前しかない。だからね、それをしられると全部奪われちゃう。」
「それは…大変だ。」
よくわからないが、名前は絶対に教えられないということだろう。
「それでね、
なにか、嫌な予感がする。
「僕の名前、ヨツズミっていうの。」
………。
「この体はすべての神のためのものだから、特定の誰か…とくに人間のものになるなんてだめだっていわれてきたけど…僕、プミラにだったら支配されていい。今の僕にとってプミラはすごく大切で…プミラにだったらなんでもあげたい。だから…プミラに僕の全部あげる。」
……
「…支配されていい、なんて言わないでよ。」
そんなの、違う。そうじゃない。あたしは…
「あたしは、あんたの友達だ。あんたの、支配者にはなりたくない。」
「…僕は、プミラに僕の支配者になってほしいわけじゃない。」
「あたしにはそういう風に聞こえた。」
「僕は、プミラに僕のことをもっと知ってほしい…ただ、それだけだよ。僕の名前を知っていれば、僕の心の中をよむこともできるから。」
「そっちの方がもっと嫌だ!そんな一方的な関わりはいやだ。そんなのは友達じゃない。」
「じゃあ!……僕は、どうすればよかったの?」
ミコが突然大きな声をだした。
ミコが大きな声なんか出すことはこれまでほとんどなかったから驚いて、逆に冷静になる。
…ミコは、ミコなりに悩んでいたのかもしれない。悩んで考えた結果がこれだったのかもしれない。だから、一方的に否定してはいけない。あたしは、ミコの友人として、先生としてミコの言葉をしっかりと受け止めなくては。
「ミコの思いは嬉しい。そこまで信じてくれたことも嬉しい。……でも、あたしはそのやり方は少し好きじゃない。あたしたちには言葉や体がある。思いを伝えるために言葉とか体があるの。だから、言葉とか行動で思いを交わそう。言葉や行動でお互いの考えを、思いを知ろう。」
この言葉は、思いは、ちゃんとこの子に届いているのだろうか。わからない。でも、自分の思いや心を伝えようとすること、相手の言葉や心を理解しようとすること、それこそが友人という関係において大切なことなのではないかと思う。
「なんであたしが怒ったのか、ミコはよくわかってないかもしれない。でもね、ミコがやったことは、あたしへ思いや心を伝えるための努力を放棄し、ミコのことを理解しようとしたあたしの努力をいらないことと切り捨てたのと同じなんだよ。」
たしかに、お互いの心を知れたら楽だ。でもそれは、相手のために努力をしないのと同じではないだろうか。だからこそ、私はミコの行いに怒りを感じた。
「…僕は、うまく気持ちをつたえられない。僕は、ばかだから…。」
「そんなのあたしも同じだ。綺麗な言葉じゃなくてもいい、正しい言葉じゃなくてもいい、言葉じゃなくてもいい…ただ、伝えようとしてほしいんだ。」
「………。」
ミコはじっと無言であたしを見つめたあと、強くあたしを抱きしめた。あまりにも強い力で抱きしめられたので、一瞬うめき声を上げかけたがその声はなんとか喉の奥で押し殺した。
あたしは、ミコの思いを受け止めると決めたのだ。
「…うまく、ことばにできない。だから、こうやって伝える。」
…わかるよ。伝わってる。
ごめんなさい、という気持ち。大好きだって気持ち。許してほしいという気持ち。
「…これからも、僕と友達でいてくれる?」
「もちろんだ。」
ウィンクルとも、ルナとも、ヒメユリとも違う友達にミコはなる…そんな気がする。
「さいごに、お願いがあるの。」
「なに?」
「名前を、よんでほしい。」
……。
「…ヨツヅミ。」
「…あんまり聞きなれてないから、いまいち自分だってじっかんがわかないけど…うん。なんだかうれしいな。…これが僕のすべてなんだね…。」
「…ヨツヅミには、名前以外なにもないことなんかない。ミコには心も体もあるしあたしという友達もいる。だから、名前いがいなにもないなんていうな。ヨツヅミは名前だけなんかで支配されない。」
「……ありがとう。」
ヨツヅミは嬉しそうにほほ笑んだ。




