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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第1章 殺戮の戦鬼編
3/119

2 前夜:辺境の村

目には目を刃には刃を。

「あれが国境前の最後の村か」

俺は夕暮れ迫る街道沿いをゆっくり進みながら遠方の小ぢんまりとした村を見て一人呟いた。

ラード王城を壊滅させる途中で魔導研究室に隠れていた魔導師を見つけ拷問して元の世界への帰還の可能性について問い質してみた。

分かったことはやはり王城の魔導師達が送還魔法を知らないということと召喚魔法が書かれていた古い魔導書の内容の多くがここの魔導師達には解読不能であったということだけであった。

俺はその魔導書を手に入れ芋虫状態になっていた魔導師の息の根を止め王城の後始末を済ませた。

その後半年掛けてラード国内の魔導師達を回ってみた。

幸いシュルトによる占領で混乱し指名手配は掛かっていなかったため自由に動けた。

しかし送還魔法がないか魔導書の解読が出来ないか尋ねて回ってみたが成果はほとんど出なかった。

只ある魔導師から伝説の大魔導師シオンならどうにかなるのではないかと示唆があった。

俺は藁にも縋る思いで詳しく問い質したところ伝説の大魔導師シオンは不老を達成した最高峰の魔導師で齢数百歳を重ね今も生きているはずであること、近年ではトーア国内で確認されたとのことであった。

俺はトーアを目指し国境前の村に辿りついていた。

今夜はここで一泊して明日には国境の検問所を抜ける予定だ。

俺は歩を進め辺境の村に向かっていった。


村の周辺は荒地を拓いた畑が広がり仕事を終え村に戻る農夫達が見えた。

あぜ道を歩きながら雑談に興じる農夫達の声が離れた街道沿いの俺のところまで届いていた。

この世界の農民を含む平民の地位は低いし税も重い。

国名がシュルトに変わってもそれは変わらなかった。

しかしつまらない話しに笑い合う農夫達の様子はそんな暗さを感じさせなかった。

「おーい、あんた、旅人さん」

農夫の一人が声を掛けこっちに歩いてきた。

俺は立ち止まり暫し待つ。

「今夜は村に泊まるのかい」

がっしりした体格の中年の農夫が俺の近くまで来るとにこやかに話し掛けてきた。

「ああ、泊まれるところはあるかい?」

「村の中央に一軒だけ酒場を兼ねた宿屋があるよ。以前はもうちょっとあったがここ暫らく隣国のトーアとのいざこざで商人の行き来がめっきり減ってなあ」

「そうか、泊まれそうかい」

「大丈夫、三日前に地方巡回の行商人が泊まったきり空きっ放しさ。今から一杯やるから案内してやるよ」

「ああ、頼む」

歩き出した農夫の後をついて行く。

「で何処に行くつもりなんだい」

「関所を抜けてトーアまで行くつもりだ」

「そりゃあ大変だな。今は入出国が無茶苦茶厳しくなっていてこの間も商人が追い返されて戻ってきていたぞ」

「まあ、なんとかなるさ」

平和的に通過させてくれるならそれに越したことはないが無理なら押し通るまでのこと。

「フーン、そうかい。そういえば行商人から聞いたんだが近々戦が起きそうって話しは知っているかい?」

農夫が少し不安げに聞いてきた。

「ここに来る前の街でシュルト軍の受け入れ準備をしていたな。睨み合いだけで済めばいいが」

「まったくだ。俺達農民はラードがシュルトになろうがシュルトが戦に勝とうが負けようが税が軽くなることも賦役が減ることもない。むしろ税は重くなる一方だ。下手をしたら徴兵されて死ぬかもしれない。ここらが戦場にでもなれば畑は荒らされ村の衆も殺されかねない。いいことなんて一つもねぇ」

「そうだな」

国家同士の大規模な戦争のツケは下層である一般庶民に回されることになる。

挙句の果てに異世界人まで召喚して戦奴として犠牲にするとか外道過ぎる。

まあ、直接やった連中には俺が命でツケを取り立てた訳だが。

「あれが宿屋だよ」

他にも雑談を挟み情報交換しながら歩いていると宿屋に着いたようだ。

平屋建てばかりの村落の中で唯一の二階建ての家屋があった。

一階部分が酒場で二階部分が客室のようだ。

「よう、女将さん、今日も一杯やりに来たぞ。それと泊まり客も連れてきた」

農夫は酒場兼宿屋の扉を開け中に入っていく。

俺もその後に続いていった。

「いつもありがとうよ。そちらが泊まりのお客さんかい」

女将さんと呼ばれた若い女性が俺の方を見た。

「ああ、一泊頼む」

「夕飯、朝飯付きで一泊二百ガルだよ。夕飯は直ぐに食べるかい?」

「ああ、頼むよ。腹ぺこだ」

俺は金を払い空いているカウンター席に座った。

既にテーブルの方は一杯やっている農夫達で埋まっていた。

「お兄ちゃん、はい、お水」

俺が夕飯を待っていると小さな女の子が水の入った木のコップを持ってきた。

「ありがとう」

喉の乾いていた俺は受け取り飲み干した。

何故か女の子は立ち去らず俺の方をじっと見ている。

「?」

理由が分からず当惑していると女の子が両手を出してきた。

俺は取り敢えずコップを返してみた。

「違う」

女の子が首を振った。

なるほどそういうことか。

俺は1ガル銅貨をその小さな手の上にのせた。

「お兄ちゃん、ありがとう」

女の子は笑って礼を言うと立ち去り他の客の給仕に向かっていった。

逞しいなぁと思いながらもちょこまか動き回ってお駄賃を受け取っていく女の子を見て少し癒されていた。

国内の混乱で指名手配はされていなかったものの追手が掛かっていない保障もない状況で絶えず緊張状態だったから偶にはこういうのもいいだろう。

「あはは、娘がすまないねぇ」

料理を運んできた女将さんが笑いながら謝ってきた。

「いや、構わないよ」

この世界にもチップの概念はあるようだが高級ホテルや一流レストランだけの話しで一般の宿屋や大衆食堂なんかは給仕込みの値段である。

払う必要はなかったが小さな女の子が一生懸命給仕している姿は微笑ましいようで酒の入った農夫達の財布の紐も緩んでいた。

「お駄賃貯めて行商人からお菓子を買うんだってさ」

この世界の一般庶民にとって砂糖などの甘味は中々手の届かない贅沢品である。

小さな女の子でも手に入れようと必死になる訳だ。

俺は異世界のテンプレ的甘味事情を目の当たりにして感心していた。

料理に目を移す。

パンと茹でたソーセージと野菜の盛り合わせにスープ。

食ってみるとパンは柔らかくソーセージも肉の旨みがありスープも鶏ガラの出汁で煮つめた蕩けるような食感の根野菜がいい味を出していた。

戦奴時代の固い黒パンと小さな肉片と生煮えの野菜が入った塩スープだけの食事に較べたら天と地の差があった。

一般庶民ですらこの程度の物が食えるのに国家の存亡を掛けた戦争に投入している人間兵器にあんなクソ不味い物を食わせるとか何の嫌がらせかと思っていたものだ。

使い捨ての死兵に高い物を食わす必要がないという考えだったらしい。

この世界で美味い物を食う度に外道どもめ地獄へ落ちろと呪ったものである。

「よう、兄ちゃん。腰に剣を差しているところを見ると傭兵かなんかかい?」

酔っ払った農夫の一人がビール片手に話し掛けてきた。

「ああ、そのようなものだ」

俺は食事をしながら返答した。

「フーン、じゃあ『殺戮の戦鬼』って知っているかい?」

俺は危うく飲んでいたスープを吐き出しそうになっていた。

国内で情報収集を行っていた時にも度々耳にした中二病溢れる勝手につけられたその呼び名。

何度聞いても慣れるものではない。

というか転がり回りたい。

「・・・ああ、それがどうした?」

俺は動揺を押し隠し聞き返した。

「いや、戦場で見かけなかったかなと。なんでも身長3mを越す巨人で騎馬を一跨ぎし一撃で大軍を蹴散らし殺した人間を頭から丸かじりする鬼のような化け物だとかいう話しだろ」

噂に尾ひれだけじゃなく足までついてタップダンスを踊っているようだ。

「・・・そんな化け物、見たことない」

俺は脱力しながら素っ気なく答えた。


一夜明け、朝飯を食らい女将さんに見送られながら俺は村を出ていった。

他に泊り客もいないので朝は暇なのだそうだ。

小さな女の子も一緒になって手を振っていた。

昨夜はあれから身体拭き用のお湯を貰った時と朝の給仕の時にもお駄賃をせがまれたことも今ではいい思い出さ。

俺はゆっくりと歩いて国境に向かっていった。

半日ぐらい歩いたところで国境側から騎馬の一団が街道をこちらに向かって駆けて来るのが遠方に小さく見えた。

俺は要らぬ騒ぎを起こすまいと街道から少し離れて土魔法で素早く地面に穴を開け潜り込んで背中のリックから出した灰色の布を頭から被った。

そして目の部分だけ僅かな隙間を開けた。

やがて三十騎ばかりの黒い皮鎧を纏った騎兵らしき一団が通り過ぎていった。

所属を示す旗もないが統一された軍装と統率の取れた軍馬の走らせ方から騎士か傭兵の類だろう。

俺は嫌な予感を覚えつつもやり過ごし足早に国境の検問所に向かった。

夕暮れ近くにやっと検問所に到着した俺は周囲に漂う悪臭に気づいた。

戦場では何度の嗅いだ死体から流れ出す血と漏れ出す糞尿の臭い。

俺は走って検問所に近づいていった。

すると検問所の脇にある小屋からさっきの騎兵達と同じ黒い皮鎧を纏った男達が三人、警備兵らしき男達が三人出てきた。

いずれも抜刀して無言のまま斬り掛かってきた。

俺は瞬時に左端に跳び間合いを詰め黒い皮鎧の一人を残し抜き様に剣を横薙ぎした。

「グッ」「ガッ」「ゲッ」「ゴッ」「ギッ」

俺の動きを目ですら追えなかった5人の男達は反応も出来ず胴体を真っ二つにして即死した。

残り一人も瞬間移動したように横側に現れ仲間達を瞬殺した俺に向き直ろうしたが剣を持っていた右手を斬り飛ばした。

「ガァ!!」

男はそのままバランスを崩して転がり俺はその胸を踏みつけ顔の前に剣先を突きつけた。

男は残った左手で俺の足を掴み除け様とするが力負けして僅かも動かせない。

「質問に答える間だけ生かしておいてやる。お前達は何者で、ここで何をしていた?」

「クッ、こ、殺せ」

男は痛みと恐怖に顔を歪ませながら拒否した。

「そうかい」

俺は平然と残った左手を斬り飛ばした

「グワッー!!」

「気が変わった。苦しめるだけ苦しめ。次は両耳、その次は両足、性器、鼻、両目を潰した後、腹を裂いて放置してやろう」

俺は『敵』に対してはいくらでも残酷になれる。

俺をこの世界に召喚した連中への憎悪と怒りが害意に反応して蘇るためだ。

恨み過ぎて殺し過ぎてとっくに俺は壊れているのだろう。

今となっては元の世界での平和な生活や思い出が夢のように霞んでいた。

「わ、分かった、答える、答えるから止めてくれ!」

男は俺の躊躇いのない冷酷な宣告に顔を蒼白にして叫んだ。

「ではもう一度だけ聞いてやる。お前達は何者で、ここで何をしていた?」

「お、俺達はトーア軍の先遣隊だ。本隊の露払いとして検問所のシュルト側の警備兵とその先の村の始末を命じられている」

「!!」

俺は村の方向に目をやった。

夕餉の支度には不自然に多過ぎる煙が立ち上っていた。

俺は男の首を刎ね飛ばすと全力で来た道を駆け戻った。


小一時間で村に戻ってきた。

身体に負担が大きいため普段はリミッター解除をこんなに長時間連続して使うことはなく必要に応じて瞬間解除しているがそんな事を気にする余裕などなかった。

既に村は炎に包まれ数人の黒い皮鎧の男達が村から逃げ出す途中で斬られて街道側に倒れている村人達の止めを差している姿が見えた。

俺はそのままの勢いで男達の間に飛び込むと瞬時に斬り伏せた。

生きている村人はいないかと周りを見直すと微かな呻き声が聞こえた。

見覚えのある宿屋の女将さんが倒れており抱きかかえられた小さな女の子が僅かに身動きしていた。

俺は駆け寄ると事切れている女将さんの腕を女の子から外す。

女の子も肩口から斬られており瀕死の状態だった。

「今治す。がんばれ!」

俺は治癒魔法を掛けようとした。

「お、お兄ちゃん・・・」

しかし女の子は一言呟くと息を引き取った。

俺はそれでも諦め切れず治癒魔法を掛けながら心臓マッサージをしたが息を吹き返すことはなかった。

その頃になって村を囲んで逃げ出す者がないか確認していたトーア軍先遣隊の男達が俺を見つけ駆け寄ってきた。

「貴様、何者だ!」

斬り殺された仲間達の姿を見て誰何してきた。

「・・・」

俺は無言で立ち上がった。

「チッ、殺せ!」

数人の男達が斬り掛かって来るが俺は相手の目に留まらない速さで瞬時に斬り飛ばした。

「敵襲だ!手強いぞ!」

少し離れた位置にいた男がそれを見て慌てて叫んだ。

残りの男達がわらわらと集まってきた。

「たった一人ではないか。さっさと始末しろ!」

隊長らしき男が命令した。

男達が一斉に斬り掛かって来る。

魔導士もいるようで 火弾(ファイヤーボール )も飛んできた。

俺はその全てを躱し男達を瞬殺した。

「なッ、は、速い!」

隊長を残し全員が地に伏した。

隊長は踵を返し近くに繋いでいる軍馬の方へ逃げ出そうとした。

俺は転がっている男達の剣を一本拾い上げその背中に投擲した。

「グワッ!」

隊長は背中から腹を貫かれ転ぶように倒れた。

俺は駆け寄り首筋に剣を当てた。

「死ぬ、死ぬ、助けてくれ」

隊長は哀れに命乞いをする。

俺は辺りを見回し目を戻した。

「・・・その傷では急いで本隊まで戻らないと助からないだろう」

今ここで止めを差したいのは山山だがこの傷では本当は助からない。

ならば・・・。

「今は見逃してやる。本隊の指揮官に伝えろ。殺戮の戦鬼がお前らを殺しにいくとな」

俺は剣を引き村の生き残りが他にいないか探し始めた。

軍馬に乗せてやるほど俺の気は治まっていない。

なんとか自力で乗ったのかトーア方向に軍馬が走り去る音が聞こえた。

俺は生き残りがいないことを確かめると一人々々丁寧にこの村の墓地と思しき場所に埋葬していった。

黒い皮鎧の男達は放置だ。

村の全員の埋葬を済ませ暫し瞑目した後、トーアの方向に目をやった。

「次はトーア軍だ」

俺は点々と続く血の跡を辿り追跡を開始した。


検問所でシュルトの警備兵の遺体を確認しトーア側に入った。

血の跡は街道を外れ荒野に向かっていた。

俺は追跡を続ける。

冷静に考えればここで事を起こすのは得策ではない。

これからのトーアでの調査に差し支えるのは明白だ。

しかしどうしても我慢出来ないこともある。

俺は歩を進めた。

やがて荒野に布陣しているトーア軍が見えてきた。

広範囲に焼け焦げている地面の跡から 火弾(ファイヤーボール )の範囲攻撃で迎撃するつもりのようだ。

せめて焼け焦げた地面の跡ぐらい隠せよと思いながら方針を決める。

範囲攻撃なら動かずに直撃する分だけ 氷弾(アイスボール )で向かい撃つ。

範囲攻撃がブラフで収束して飽和攻撃なら 火弾(ファイヤーボール )の軌跡で判断して高速移動で回避する。

それ以外は臨機応変だ。

さあ、殺戮を始めよう。


お約束の帰還方法探索ものを少し続けますが途中で軌道変更予定です。

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