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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第7章 ラード王国編
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小話6 心残り

前章の後日談です。

あれから何十年かの時が流れました。

あの方は諸侯を虐殺した後、シュルト国境から侵攻してきた三万の軍勢を完膚なきまでに殲滅され王城に帰還されました。

しかし、その胸には深々と剣が突き刺さっておりそれを見た私は目の前が暗くなるほど驚き取り乱しました。

あの方は常々『殺せば死ぬよ』と冗談めかして言っていましたが私は不死身だと思っていたのです。

心臓が早鐘を打つようにドキドキし呼吸すら満足に出来ず溢れる涙で世界は歪み家臣や侍女達の声も届いていませんでした。

取りすがる私にあの方は平然とした声で『これはアフターサービスだ』と耳元に囁き侍女達に命じて玉座の横に事前に用意していたと思われる立派な椅子を持ってこさせるとドッカと座り込みました。

『ラードの守護たる我黒騎士が最後の言葉を残す。これより我は永き眠りにつくが常にこの国を見守っている。この国の王が道を誤る時、貴族達が腐敗し専横を極める時、そして汝らの力及ばぬ国難に会った時再び目覚めるだろう。しかし我に頼ろうとするな。常に全力を尽くして事に当たれ。汝らの努力が不十分であったなら我は目覚めぬ。この後、我が目覚めぬまま王国が末永く続くことを願う』

それだけ言うと微動だにしなくなりました。

私は恐る恐る黒騎士の兜を外しました。

その中は予想通り空で私はほっとしましたが他の者は逆に恐怖の悲鳴を上げて侍女などは気絶する者まで出る始末。

あの方の悪戯は時に冗談では済まされないほど悪質です。

それから何度かあの方は“救世の勇者”様として私を訪ねてきてくださいました。

黒騎士だったことはおくびにも出されませんでしたが『双子メイド』と呼んでいた侍女とシオン様を連れていたため侍女達には妙な顔をされていたものです。

あれもいつもの悪ふざけだったのでしょうか?

まさか気付いていなかったということはないでしょう。

それから暫くしてプッツリと勇者様の行方が途絶えました。

現在も世界が続いている以上、無事“世界の危機”を祓い元の世界に戻られたのでしょう。

シオン様も過去の多くの勇者様が人知れず“世界の危機”を解決して去っていったので自分らの行方が途絶えても世界が存続していればそういうことだと思ってくれと言われていましたのでそうすることにしました。

血塗られた戴冠式から何年も私は “鮮血の魔女” “血塗れ女王”などと騎士や文官、民からも陰口を叩かれ怖れ蔑まれていました。

幾ら証人がいるとはいえ私に都合の悪い人間が自殺し過ぎています。

こういう時は確証がなくても人は有罪と断定しますしそれは間違いでもありません。

しかし玉座の横に飾られている黒騎士の鎧のお蔭か表だって反抗する者もなく国の復興は進み治世は安定していきました。

内政はあの混乱期に登用した平民達が台頭し従来の準貴族だった文官を抑え民に近い政策が次々に身を結び我が国の発展と民の安寧に寄与していきました。

あの方はそこまで考えていたのでしょうか。

外交は貴族を皆殺しにしたとされる私は他の王侯貴族制の諸国から疎まれていましたがトーアとレインディアだけは絶えず友好関係を維持してくれたため孤立しないで済みました。

事情をおおよそ知るライザ様やルシア様の御尽力のお蔭です。

彼女達には感謝の念が絶えません。

月日が経ち昨今では民が私を恐れる声よりも慕う声の方が多くなってきているような気がします。

契約とはいえ何十年も人に疎まれ怖れられるのは堪えるものです。

私の思い違いではないと嬉しいのですが。

でもこの最後の時に当たって本当に一つ心残りなのは結局あの方に謝罪することが出来なかったことでしょう。

一度は死の淵から這い上がってでも殺したいと思った相手でした。

安寧を願い尽力しているつもりの民から罵倒され怖れられているのを如実に感じた時は恨みもしました。

でもあの方が私を本当に苦しめたかったら何もしないのが最善だったでしょう。

それを敢えて偽悪ぶって汚れ仕事も平然とこなしていった。

今思い起こせばあの時あの方の取れる選択肢は限られていたのでしょう。

あの村のために怒ったあの方がシュルトの暴政に怒りを覚えないはずはないのです。

介入する理由と私に覚悟を決めさせその後の治世の安定まで見越した最善手。

それがあの悪魔の契約だったのでしょう。

あの方と永遠に会えなくなってからその可能性に気付いた私は本当に後悔しました。

何故あの時自分の心に正直になれなかったのでしょう。

何故あの方の心の内を真摯に質さなかったのでしょう。

ああ、もう目の前が暗くなってきました。

心残りを残して私は逝きます。

今はいない貴方を思って・・・。



「・・・という話しを考えてみたのだけど」

久しぶりに一人で訪ねてきたシオン様が長々とした話しを語り終えた。

「なんですか、その夢物語は。黒騎士の最後までは事実ですがその後は酷い創作です。それではまるで私があの方に恋慕しているようではありませんか」

私は顔を真っ赤にして反論する。

確かに最初はあの方の言っていたように民は私を怖れた。

しかし諸侯のそれまでの所業の悪さが影響し民の生活も良くなってきたため罪人を裁いただけと解釈され概ね好意的に見られている。

僅かな生き残りの貴族達は流石に私を怖れて他国に逃げ出したが騎士と文官達はかつての主人達の方がより残虐な行いを平然とやっていたためそれ程怖れられることはなかった。

もっとも玉座の横の黒騎士の鎧に近づきたがる者もいなかったけれど。

「しかしそれ程間違ってもいないと思うけどね。とにかく私らは“世界の危機”が終わればいなくなる。それまでにはその夢物語の主人公のように後悔しないよう言うべきことは言っておくんだよ」

言いたいことだけ言ってシオン様は部屋を出ていった。

シオン様はいったい何をしに来たのでしょう。

それはそれとしてシオン様の指摘はあながち間違いではない。

しかしそんな恥ずかしいことをあの方に言えるはずも問えるはずもない。

そして私は途方に暮れた。

本当はもっとベタな悲哀ものを考えていたのですがオチをつけてしまいました。

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