試合
先程手に入れたスキル『真空斬撃』の発動条件を俺は確認した。結論、手刀を含め、刃が無い物で斬りつけながら念じること。
つまりだが、個体スキルは独唱要らずということだ。
有意義な情報は手に入ったのだが、結果、レベル上げはそこまで進まず現在Lv.12。『鑑定』『真空斬撃』と、普通の人は殆ど所有していない個体スキルを二つも持っているのだが、如何せんレベル差は覆らない。
しかし最善は現在持つ装備を持っていくことだった。あとは体調を調える程度しかできない。
「今回の試合の立会人、及び審判を務めさせて戴く、グレイ=バーナーズと申します」
戦いの場所はサインクルフの西側の隣街、スレイヴァーにある闘技場。本来平民以上の階級の者同士の闘いは、城や武道館などにある試合場を使うのが一般的であり、見世物として奴隷が闘う闘技場を利用することなど殆ど前例が無い、らしい。とはいえこうなったのは、ジャッキーは実力があり、俺も実力があると思われている為、試合場が壊されると困るからと言っていた。
しかし闘技場そのままというわけにもいかず、簡易的な審判台の設置や、本格的な大掃除はしたらしいのだが。
そんな簡易審判台にグレイと名乗る男が乗り、自己紹介をした。アルタイルを始めとした、軍事的または政治的上役しかいない、闘技場の空気が引き締まる。
「それでは――準備はよろしいですか?」
グレイの問い掛けに、ものすんごいメリケンサック――白虎の牙を確認して、頷く。
俺もワンドを引き抜き、構え、頷く。
「それでは。用意……」
勝負は一瞬。レベル差がある場合は尚更だ。額に意識を集中させる。
「始めッ!」
宣言された。
念じ、無独唱で真炎魔導を発動する。轟と音を立てる程の勢いで、広範囲高威力の紅蓮の壁が出現し、ジャッキーに襲いかかる。普通ならレベル差もごり押しできる程の威力を持った炎は、いともあっさりと、ストレート一回で穴が開いた。
マジかよ、あり得ねぇ。
突風が起き、直後、拳が目の前まで迫る。当たったら死。回避するためにワンドを無理矢理押し付ける。
腹に鋭い打撃が与えられた。
「ッ――――ガハッ……ぐうェ、は」
油断した。
がら空きだった腹に叩き込まれた膝蹴りにより、俺の体は数秒間も無重力を味わうことになった。そして飛んだら次は着地で、しかし地面ではなく壁に激突する。呼吸が詰まる。
荒い息をし、やや朦朧とした意識の中、必死に今回唯一の武器である頭脳をフル回転させる。
予想では自己加速。前衛職の一部が使う無属性スキル。――属性とは『火』『水』『空』『地』の元素四属性と、『光』『闇』の聖邪二属性からなる、属性を指すものだ。そして元素四属性を持つスキルは、自動的に聖邪二属性も所有する。聖の『光』は神素、邪の『闇』は魔素をそれぞれ放つ筈なのだが、それを感じない。――結論としては、突風も含めて無属性スキルと考えるのが打倒だろう。
解決策を強いて挙げるなら、勢いを利用して強い一撃を叩き込むことだ。リスクは大きい。
「フン。やはり人間ではその程度か」
「はあ、ハア、はぁ。……笑ってられるのも今のうちだ」
馬鹿にするように鼻で笑ったジャッキーに、あえて強がって返す。
よろめきながら立ち上がり、いまだ一切曲がりや亀裂の無い白金のワンドを構え、『真空斬撃』を念じる。
直後、高速で、白虎の牙が装備されたジャッキーの右拳が奮われた。
――――――――――斬ッ!――――――――――――――音と共に、紅に染まった。




