悪戯
俺と虎男改めジャッキーが試合をするという話は、何故かサインクルフ中に広まっていた。ガチで何故だ、と思う。
まあそんなことはどうでもよくて、今夜が戦いだ。闘いではなく戦い。時差なのか知らないが、魔界に来て最初に見た紅い月と同じ月の夜である。これ以上紅くしない為には、俺が勝って、かつ殺さないことが必要だ。
やっぱムリゲーじゃね。いやこれはクソゲーだ。
訓練に使う為手に持っていた木刀に力が入り、木の的に対して思いきり振り下ろす。何度も何度も叩いていた為、バキッと音を立てて的が割れる。――かれこれ一時間。いまだレベルは一つしか上がっていない。
「買ったばかりの装備を新調するのは勿体無いしなぁ……」
やる気が失せる。しかし死にたくは無い。今回みたいに転生できるかなんてわからないし、死ぬいくらか前から二歳くらいまで記憶が曖昧になるのが嫌だ。
倒れこみ寝転ぶと、落とした木刀がカランと音を立てる。
特に理由は無いが入口の方を見て、適当な威力の風魔法を打ち出す。魔力の無駄遣いだが、まあ、四時間もあれば回復するだろう。
「ッきゃあ!」
「な!? な!? な!? 危な!」
あ。誰かいたみたいだな。しかも聞き覚えがあるんだが。
……あー、思い出した。セイラとゴビーだ。まあゴビーに関しては「小汚ないガキ」的なことを言われたことがあるから、その分の報復だと思え。HAHAHA。――セイラは言い訳もありません、ごめんなさい。
しかし疲れているので黙り混む。暇潰しを兼ねてだが、小学生の頃に死体の真似がクラスで一番だった俺の実力を見よ。
結果として二人とも驚いてました。特にゴビーが。手についた血は剣の振りすぎだバーロー。
「魔王様が! 魔王様が! くそ、やはり一人にさせたのが間違いだったのか!?」
「落ち着いて、ゴビーさん。フェル様は普通に寝ているだけだから」
うーん。セイラが思いの外冷静でつまらないな。ゴビーは面白いのだが。
「増援を呼んできまワブるッ!?」
本当面白いなアイツ。壁にぶつかるって何処のギャグ漫画だよ。
とりあえず娯楽が無くなったなー。薄目でふざけるのも疲れるしなー。第二段階に移行する必要があるなー。だが、まあ、死んだふりは最終手段としては使えるだろう。魔法や魔術の類いは使える訳だし。
さて第二段階だが、状況を利用していろんなことをしてやる。ぐへへ。犯罪にならない範囲で。
完全に目を瞑り、セイラを抱き寄せてみる。抵抗するが、「負けるわけにはいかないんだ」とか言いながら力を込める。既に犯罪な気がしないでも無いが、法律が同じとは思えないし、俺は魔王なんで。職権乱用だがまあ、許せよ。「よっしゃ」と言って適当に区切りをつけて、雰囲気をガラッと変える。適当に呻いて、しばらくおき、愛の言葉的なものを呟く。これは悪戯ですよ本当に。まあしかし、しばらくすればバレる訳で。
「生きてるのは当然として、……フェル様、起きてますよね?」
「…………………………ぃぃぇ」
ダウトだ。断固寝ているぞ。これは譲れない。
「起きてますよね? 答えないとお父様に言いますよ?」
「……すみませんでした」
そう言いながらもセイラの体を抱き寄せる。意外と満更でも無さそうな顔をしている。これはあれだ。この世界は『女性の一番の幸せは、男性から愛されること』みたいな風潮が人間にはあり、セイラもその風潮を受けているのだろう。
「反省してないんですか?」
「まあ、聞け。俺はセイラのことが好きだ。愛してる。だから、無事に勝利したらさ、俺のものになれよ」
強引にいこう。今更戻れないからな。
巾着袋に硬貨と共に入っているイヤリング――魔力の耳飾りをセイラに渡す。
「えっと…………、えぅ……はい」
よっしゃあ。俺マジ勝ち組。……っと浮かれると死亡フラグに引っ掛かってしまう。冷静になれ俺。
しかしながらセイラを抱き締めながら誓う。もう勝つ意外の道など見えない、と。
余談というか、寧ろ本題なのだが、ゴビーがニヤニヤしながら覗いていたため、木刀で切り裂いた。治療魔法をすぐにかけたので無事だ。
そのあと『鑑定』を使うと、レベルが上がっていた。あとスキルが何故か増えていた。名称は『真空斬撃』である。




