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人間

 正式名称は知らないが、一般的には『魔王城』などと呼ばれたりする大魔王帝国の首都にある大きな城。サインクルフの中央に存在し、そこから三二方に道が蜘蛛の巣状に伸びている。俺達が通ったのは、四本あるメインストリートの一つだ。

 外装は黒ベースで中世ヨーロッパの城ような形をしていた。対する内装は許容内だがRPGのダンジョン風味だ。その手前から数えて一〇二番目の部屋に、俺達と高階級と思われる魔族達が集まっていた。


「で、このチンチクリンの人間族が新魔王だとぬかすんじゃないだろうな? アルタイル」


 まあ、集まった理由は当然俺を紹介するためである。んでもって、予想通りと言うべきか、虎の顔をもった半獣半人の魔族が馬鹿にしたような目でこちらを見てくる。人間で何が悪いというのだ。

 皆の視線は俺とアルタイルを交互にとらえる。間違ってセイラを見ている奴もいるが放置しよう。


「なにか問題でも? 彼は確かに魔王です」

「そういうことを言ってるんじゃねぇよ! 人間のクソガキを魔王の座にするのかよ」


 アルタイルの挑戦的な言い方に、虎男はややキレ気味に吠える。というより、魔王目の前にそんなこと言っていいんですか。


「そもそもよぉ、人間族なんざ魔物にも劣る下位種族じゃねぇか。そんな奴に命令されるなんざ御免だね」

「ほう……」


 ムカついた。

 思わず声が漏れる。上目使いになってしまうが構わない、思いきり睨み付ける。

 あまり面倒事を起こしたくはないが、余計な不安は早めに刈り取るべきだろう。このまま魔王をやっていても良い政治はできない。ならば実力を見せつけ、人間でも構わないと思わせる必要がある。

 靴底の木材がカツカツと音を立てる。虎男の前に立ち、言う。


「もし貴方が人間は弱くて、魔王に相応しくないと思うのならば――一つ、手合わせしませんか?」


 全力の造り笑顔で、目は不気味なくらい死んだように笑わずに。

 俺の振る舞いにさらに機嫌を悪くした虎男は、フンと鼻を鳴らし、ぶっきらぼうに吐き捨てた。


「馬鹿にしてるのか?」

「いいえ」

「こちらは殺す気でかかる。命の保証はできないがな」

「それで良いんです。貴方は人間の魔王を殺すことができ、俺は反乱分子を抑制できる。利害は一致しましたね」


 イラッときて勢いで言ってしまったか、今更やめることはできない。ならば徹底するまでだ。


「ナメられたものだ。――もしお前が勝ったら魔王として認めるだけではなく、俺の娘をくれてやろう。それでトントンだ」


 こっちの方がよっぽどナメられている気がしないでもない。いや、政治的な策略の気もする。

 一度深呼吸する。


「わかりました。……戴冠式は明日ですよね?」


 他の者達が頷く。


「それでは、今日の深夜に。宜しいですか?」

「紅い月の夜か。構わない」


 勝算を得るために『鑑定』を使う。


 ┌────────────────

 │ジャッキー=エイベル(猛虎族・男)

 │ジョブ/格闘王(バトルマスター)(Lv.54)

 │装備品/白虎の牙、猛虎の闘衣

 └────────────────


 やべえ。ムリゲーだ。魔法や魔術でごり押せば勝てるかもしれないが。

 自分のジョブやスキルを確認して、作戦を捻り出すより前に、レベル上げをすることにした。かなり効率は悪いが、的を使っての訓練で。

 あとは、勝てば天国。負ければ死。それだけだ。

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