第六話:崩壊の三重奏
黒い影が進むたびに、戦場の“意味”が剥がれていく。
音が遅れる。
血が乾く前に、次の死が来る。
風だけが、置いていかれていた。
「……冗談じゃないわね」
セラ・ヴァルディスが低く言った。
剣は構えたまま、呼吸だけがわずかに乱れている。
アレンは目を細める。
脳内で戦場を再構築しようとして――やめた。
「再現できない」
初めての言葉だった。
“理解不能”ではない。
“前提が崩壊している”。
レヴァルは肩を回しながら笑う。
「いいねぇ……こういうの待ってた」
血が腕を伝って落ちているのに、まるで気にしていない。
「つまりよ、理屈じゃ勝てねぇってことだろ?」
処刑騎士団・第二進行
黒い鎧が、同時に動いた。
一体ではない。
三体が“同じ意志”で動く。
――違う。
“同じ意志ではない”。
もっと正確には、
一つの思考が三つの身体を使っている。
「分断は無意味だ!!」
アレンが叫ぶ。
次の瞬間。
右翼消滅。
「……っ!」
セラが踏み込み、かろうじて間に合う。
剣が交差する。
金属音。
だが音は“半分”しか鳴らなかった。
「音が……切れてる?」
セラの目が揺れる。
レヴァルが横から突っ込む。
「考えるな!当てろ!!」
一撃。
黒影の一体に叩き込む。
――が。
「……硬ぇな、おい」
手応えが“壁”だった。
戦場の異常
アレンは気づく。
「違う……こいつら、守ってない」
セラが振り向く。
「どういうこと?」
「防御行動がない。全部“結果”で処理している」
レヴァルが笑う。
「つまり?」
アレンは短く言う。
「攻撃と防御の概念がない」
沈黙。
その言葉の意味が、じわじわと広がる。
セラが呟く。
「……戦ってない?」
「そうだ」
アレンの声が硬い。
「これは“処理”だ」
処刑騎士団・第三形態兆候
黒い鎧が、止まった。
そして――
“音が消えた”。
空気が凍る。
地面の砂粒が浮く。
「……重力が……」
レヴァルの顔から笑みが消える。
「おいおい、やりすぎだろ」
セラが一歩下がる。
「これは人間の領域じゃない」
アレンは剣を握る手に力を込める。
「王は……これを隠していたのか」
その瞬間。
“来る”。
誰もが同時に理解した。
崩壊衝突
一体目。
消えた。
ではない。
“存在しなかったことにされた”。
セラの剣が空を切る。
「……!?」
二体目。
レヴァルに接触。
瞬間。
レヴァルの身体が地面に叩きつけられる。
「ぐっ……!!」
骨の軋む音。
だが――笑っている。
「ハッ……やべぇな……!」
血を吐きながら立ち上がる。
三体目。
アレンへ。
「来るな……!」
思考が先に走る。
――回避不能。
理解した瞬間、世界が歪む。
アレンの“視界崩壊”
時間が伸びる。
いや、違う。
“自分だけが遅れている”。
剣が振られる。
終わり。
その瞬間――
割り込み
「させない」
セラ。
一閃。
黒い軌跡。
衝突。
地が裂ける。
アレンの目の前で“何か”が弾かれた。
レヴァル再突入
「おいおい、俺も参加させろよ!」
レヴァルが笑いながら飛び込む。
剣ではない。
全身だ。
衝突。
黒影が初めて“揺れる”。
「効くじゃねぇか……!」
アレンが気づく。
「構造が一瞬だけ乱れた……!」
セラが叫ぶ。
「今!」
三者同期
アレン
「一点集中!」
レヴァル
「潰すぞ!!」
セラ
「合わせる!」
三つの刃が重なる。
――その瞬間。
空間が“白”になる。
処刑騎士団・第一損傷
黒い鎧に、初めて“傷”が入った。
沈黙。
戦場が止まる。
レヴァルが息を吐く。
「……やっと血が出たか」
セラが膝をつきそうになりながら立つ。
アレンは静かに言う。
「理屈は通る」
「倒せる」
だが――
黒い鎧は、ゆっくりと顔を上げた。
そして。
“笑った”。
黒影が“変わる”。
鎧が割れる。
中から出てきたのは――
“空洞”。
人でも、機械でもない。
ただの“欠落”。
アレンの声がかすれる。
「……これは……何だ」
レヴァルの笑みが消える。
セラが剣を構え直す。
「終わりの形ね」
空洞が、動く。
そして――




