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影法師と友人談義


 エルとの勉強会があった翌日、普通に登校日だったので僕達は学校でいつもの日常を過ごしていた。勉強をし、友人と会話をし、お昼ご飯を食べる、そんなどこにでもあるような毎日だ。その日々が薄氷の上の存在だということを僕は知っている。だからこそそれを無駄にすることなく毎日噛みしめたい。



「ふぁ~~~~。ねっむ……」


「朝からそうだけどお前なんでそんな眠そうなんだよ」


「色々とあったんだよ、智弘君」



 もっとも、現実の僕がかみ殺しているのはあくびだったが。昨日昼に眠った時にいつの間にかエルの膝枕という天国を味わってしまったせいかもの凄くぐっすりと、それこそ夜までお眠だったのだ。その結果夜に寝ることが出来ずに目がギンギンに冴えてしまった。



『ん~~~むにゃむにゃ……。もう食べれないよお兄さん……。いや、そのプリンはアタシのだから……』


「こんな定番の寝言言う人が実際にいるんだ……」



 眠くなるまでリルナに付き合ってもらい色々と新技を考えたりゲームをしたりしていたがその代償に今は彼女もお昼寝中だ。だけどまぁ彼女は寝るのが大好きなので夜も問題なく眠れることだろう。現在精神体になっている為、食っちゃ寝してなんの運動もしなくても彼女の体型が変わることはないので問題ないらしい。



「なんか言ったか?」


「ううん、ちょっとしたひとり言だよ。それより智弘君は今日も部活?」


「おう。ゴールデンウィークに大会があるからそれに向けてな。一・二年生中心の奴だから三年生がいなくなった後のレギュラーとか決める参考にする奴だ」


「サッカー部も大変だねぇ。だけどゴールデンウィークに大会か……。応援しに行ってもいい?」


「良いよ別に。大会って言っても一日くらいで終わる小さい奴だしな。そもそも現状レギュラーの俺にはあんまり影響ないしな」


「はい、そこで油断しない」


「あいたっ」



 胸を張って自慢する智弘君の頭を丸めた教科書で軽く叩く。調子に乗りやすい所が彼の数少ない欠点だ。そこまで強くやらなかったのでその声も反射的に出した物ではなく彼がわざと出した物だろう。



「智弘君と同じくらい凄い一年生が入ってきてるかもしれないんだからあんまり調子に乗らないように。それさえなければ智弘君ならいけると思うけどさ」


「わーってるって。だけどこの時期にもうレギュラーってのは結構凄いんだぜ?」


「その上で、だよ。油断大敵って言うじゃないか。実力的に問題なくても油断してたら足元掬われてそのままドボンってことだってあるんだよ」



 特に最近はそれを実感している。バイト先でやっている模擬戦で何回か危ない目に合ったばかりだ。出力はこちらが上でもそれを戦闘経験で覆されそうになる。それが起きるのはいつだって大丈夫だろうという慢心を持っている時だ。

 僕もリルナも経験という点においてはドルザルクに捕らえられていた彼女達よりも遥かに下で、僕が慢心すれば余裕をもってそこを突くことが出来る実力者だった。そんな彼女達との戦闘訓練で実力がメキメキ上がっている実感はあるが、そこで油断すれば今度は実戦で死にかねないという実感を僕に憶えさせる。


 それを考えての忠告だったのだが智弘君はこちらを呆れた目で見てきている。まるで同族を見るような目でだ。



「それはリョウに言われたくないってーの。お前、ライトガーデンさんとはどうなんだよ」


「あー、えっと、その……、進展なし、かな……」


「ほら、お前だって油断慢心してるじゃんか」


「油断も慢心もしてないんだ。その上でこれなんだよ……」



 智弘君の言いたいことは分かる。あれからもう半月くらい経つが何の進展もない僕達にヤキモキするのも分かる。僕が彼の立場だったら同じことを言いたくなるだろう。自分が忠告しているのにうじうじしていたらそりゃイラつくもんだ。



「僕もエルも今結構大変でさ。僕の方はバイトで忙しいし、エルは勉強で忙しい。出来る限り一緒にいたりはするけどそれがずっとってわけじゃないし」


「あー、補習受けることになってんだっけ。ライトガーデンさん頭良さそうなんだけどな」


「実際に頭はいいよ。ただ現代文を始めとした文系の問題で躓いてるみたいなんだ。まぁ昨日とか一緒に勉強したけど、その時見た限り補習は問題なく突破出来るよ。次回は一気にテスト順位上位に来るんじゃないかな」


「なぁんでそんな才女が前学年のおさらいテストなんかで赤点とったんだか」


「うーん、バイトで忙しすぎて居眠りしちゃったとか?」


「そうはみえねぇけどなぁ。明らかに真面目だろあの人」


「いやでも結構いたずら好きだよ?昨日も僕が昼寝してる時枕にしてた座布団引き抜いていつの間にか膝枕してたし」


「その距離感で何もなしはないだろ……」


「そう言われても何もなかったのは事実だし……」



 何か言われてたりされたりすればその時起きていたリルナが教えてくれるだろう。そのリルナが何も言わなかったということは何もなかったということだ。

 まぁ膝枕自体がすでに何かあったと言ってもいいだろうけれど。毎回ではないが昼寝をする時は結構な頻度でそうなっているのでもう気にしない。



「膝にかかる重みが良いんだって言ってたよ」


「……なんというか、ライトガーデンさんってかなり尽くすタイプだよな。それもかなり重めに」


「そうかなぁ……?だけどエルみたいな美人に束縛されるんだったらそれは幸せなんじゃない?いやもちろん限度はあるんだけどさ」



 エルに監禁されるというのも悪くはない生活ではなかろうか。一生となればそれは困るだろうけど一週間とか一ヵ月くらいだったら問題なく思える。こう、出掛けて帰ってきたエルを暖かい料理を用意して待っていたり、夜は一緒にご飯食べたりしてと……。



「いや、これは監禁じゃなくて幸せ主夫生活だな……?というか今とあまり環境が変わってない気がするぞ……?」


「なんでお前ら付き合ってねぇんだよってまず言いたいが。先にリョウにとってイチャイチャするってことがどんなことなのか確認すべきなのかもしれないな」


「イチャイチャ……。手を繋いで遊びに行ったりとか?」


「やったことは?」


「この前二人で服を買いに行った時は大体繋いでたよ。お昼も一緒に外で食べたりしたし。周囲から物凄い目で見られてたからよく覚えてる」


「それじゃあそのワンテンポ先、腕を組むことを目指すんだリョウ。そうすればお前はさらに先に進むことが出来るだろう」


「うでっ!?いやいやそんなことしたら僕の理性が千切れちゃうって!!!」


「千切れろって言ってんだよ。時には野獣になることも必要だぜ?」


「他人事だと思って好き勝手言わないでぇ!!!」


「だってそうでもしないとお前ら進展しなさそうだし」



 進展しない理由はもっと大本にあるんだと言いたいが、一般人である智弘君に言っても多分認識阻害の影響で当たり障りのない話題に変わるのだろう。

 これがエルの味わってきた想いだとすると少し親近感がわく。こうして近くで話しているのに決して分かり合えることがないこの感覚は、結構辛いものだ。



「っと、それじゃあ僕はもう行くよ。エルの所に行かなきゃ。今日は放課後図書室で色々と読むって言ってたしね」


「おう。俺もサッカー部の練習あるから行かなきゃな。レギュラーで活躍してすげぇ美人のお姉さんに逆ナンされるのが俺の夢なんだ」


「いやぁ、智弘君の見た目とか考えるとどっちかというとナンパする側だと思うけど」



 そんな感じで僕達は手を上げて分かれる。そんないつもの日常を今は尊く思う。だからこそ顔を両手で叩き気合いを入れる。ここまで親身になってくれる親友がいて何故手をこまねいていられるだろうか。少しずつでもエルとの関係を深めることを目指すべきだろう。BSSとか冗談じゃないしね。



「エルー。ホームルーム終わったみたいだけどいるー?」


「うぇえええええええええええ!?!!?エルっちパイセン補習受けるんすか!!??!」


「この前話したはずですよ。それとアリナ、声が大きいです。教室の外にまで聞こえたら恥ずかしいです」


「いや恥ずかしいとか、そんな顔色も口調も表情も全く変えずに言われても説得力がないんすけど……。いや、でもそうなるとどうするべきっすかね……?あの人結構ズボラだからそろそろ見舞い行くべきだと思うんすけど……」



 短い茶髪の少女がエルと元気に話している。元気というにはエルの方は見たことないくらいにクール状態だが。制服のリボンの色を見る限り彼女は僕達の後輩で1年生なのだろう。しかし元気だしよく動く。その度にエル達にはない胸部装甲が揺れて周囲の男子達の目を釘付けにしている。



『…………お兄さん、あれも天使だよ。間違いないね』


『天使多すぎない?なんかの特異点なのかなここは』



 あくびを噛み殺しながら僕の中のリルナがそれを伝えてくる。僕も予想済みだったので驚きはない。エルにエアロードさんと二人も天使がいる時点で他にもいるかもしれないというのは容易に想像出来る。

 心の中でリルナの頭を撫でながらお礼を言えばそのまま彼女はまた眠りにつく。と言っても浅い睡眠なのか何かあればすぐに起きて対応してくれるので問題はないだろう。



「エル、廊下まで聞こえてきたよ。なんかあったの?」


「ああ、リョウ君。すみません、ちょっと待っててください」


「りょう……?ってああ!!この前エルっちパイセンとデートしてた人っすね!!いやぁこうして近くで見ると中々いい男っぷりっすねぁあああああああああ!!!?!!?!?」


「なんで、その事を、知っているんですか。私はシルフィ以外の誰にも言ってないはずですが?」


「あがががが!!??!?すんませんっす!!シルフィパイセンが挙動不審だったので聞きこんで二人してデバガメしてたああああああ!!??!?頭が割れるように痛いィイイイイ!!!!!」



 後輩女子がデートについて言葉にした瞬間エルの右手がその頭を掴み物凄い勢いで締め付ける。まさにアイアンクロー、その名にふさわしい威力を傍にいるだけで感じる。

 そして明らかにエルが怒っている。感情を表情に出すのが苦手なだけで行動自体はかなり感情由来だし覗かれていたという事実に怒っている、というより恥ずかしがっているのかなこれは。



「リョウ君。少しこのアリナにお仕置きするので待っててくださいね」


「いやぁ!!!助けてくださいっすスケコマシパイセン!!!」


「駄目だよエル……」


「リョウ君……」


「駄目元で言ったらマジで助けてくれるんすか!?最高じゃないすか!!アタイの救世主なんすか!!!」


「僕もお仕置きしたいから静かに地面に下ろそうか」


「藪蛇だった!!??!」



 流石にスケコマシ呼ばわりされたら僕とて動かざるをえない。目の前の後輩をどう料理するか僕達二人は静かに考えるのだった。


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