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影法師のバイト開始

「分かりました、教授。その申し出を受けます」


「おおっ!!本当かね沢渡君!!!」


「ただし条件が三つあります」



 教授のスタンスを聞き、僕と考え方がここまで似ているのであれば彼らのバックアップは是非欲しい。ただ、なんでもかんでも言う事を聞くと思われても困るのだ。だからこちらからも条件を出させてもらう。



「まず一つ。正体を隠すことに関して全面的に協力してください。エルに対する誤魔化す方法も一緒に考えてくれると助かります」


「当然だ。それは元から契約に盛り込んでいるとも。幸いこちらには様々な人材がいる。君という戦力を得るためにその日常を奪うことはしない。契約で明記するとも」



 これに関しては大前提だ。僕は別に今の生活全てを裏側の為に使いたいというわけではない。というより表の生活を守りたいからこっちでも活動しようというわけで、全てを天使と悪魔の問題に使うとか本末転倒過ぎる。例外はリルナの案件に関してだ。これは僕自身が決めた事なので必ず『炎天渇奪』は潰す。



「二つ目は、僕に戦い方を教えて欲しいです。完全に自己流ですし、練習も殆ど出来なくて困ってるので……場所がないし」


「うむ、それはこちらにとって有益なことだ。君という人材を使い潰すという愚行は避けたいからな。沢渡君、君はリルナ君のいる精神世界に行くことは出来るかね?」


「できますけど……それが?」


「ならば吾輩の能力(ちから)でその中に協力者の悪魔や天使を送ろう。君の中でならば様々な環境を再現するのも簡単だし、周囲に被害もない。何より時間感覚を弄ることで現実世界では短時間、だが実際はその数倍の修練を積むことが出来るだろう」



 これもまた非常に助かる。僕には戦闘経験が欠片もない。前回のドルザルク戦のように悪魔は悪辣なので裏の裏をかいてきたりする。それに対応する為にも戦闘経験を積み、余裕を持って戦えるようにしておきたい。僕にはリルナがいる。余裕が出来れば戦闘中でも彼女と相談して敵の狙いを暴き、有効に立ち回れるはずだ。



「それで、三つ目なんですけど……」


「うむ、言ってみたまえ。吾輩が全力でサポートするぞ!!」


「あの……バイトとして雇ってほしいです……。夏休みに色々とやりたいのでお金が欲しいので……。あと社会経験積みたいです」


「む。確かにバイトという経験は将来的にとても参考になるだろうな。吾輩も苦学生として日々新聞配達に精を出した物だ。母は優秀ではあったが変わり者だったからなぁ……」



 なんかとても遠い目をして過去を振り返っている教授。だけどこの人大企業の社長兼研究者やってるとんでもない人なんだよな。

 というわけで夏休みにエルを始めとした友達と色々と遊びたいので働きたい。お金が欲しい。貯めてあるお金にはあまり手を付けたくはないのだ。



「よし!!!では君にはその健康的な身体を借りて新薬の検証をしてもらうという形で雇おう!!新しいプロテインとかあるぞ!!!」


「副作用ありそうなのはこちらではじいておきますのでご安心くださいであります」


「ありがとうございますドールさん。頼りにしています」


「ドール君?吾輩そんな変な物を社員に提供したりしないよ?人をマッドサイエンティスト扱いは酷いと思わないのかね?」


「教授、そう仰られるのであれば普段の生活から改善することをお勧めします。生活習慣が最低で、私が存在しなかった場合教授が早死にする可能性は高いのであります。少なくてもそんな教授の作った栄養ドリンクは怪しすぎて飲みたくないのです」


「何故だね!?これ一本で一週間は戦える代物だぞ!?沢渡君も飲んでみたいはずだが!!」


「いえ、そんな怖い物飲みたくないです」


「!!!???!?」



 物凄く驚いて眼鏡が顔からずれているけどこれに関してはみんな同じことを考えていると思いたい。効きすぎて逆に怖いってことが本当にあるとは思わなかった。



「そ、そうか……。怖いのか、これ……。社畜な会社員に飲ませればバカ売れ間違いなしだと思ったのだが……」


「効果を薄めて売り出しましょうよ。一日くらいなら栄養ドリンクとしてかなりいい感じだと思いますし」


『というか一週間も働き続けるとか殆どの人間は拒否すると思うんだけど。アタシ悪魔だけどそんなに働きたくないし』



 出会った当初、自分のことを怠惰と言っていたリルナだけどその自己申告自体は間違ってはいなかったりする。基本的に何もしない時間というのが好きなのか、漫画とか暇つぶしに飽きたら良く僕の中で眠ってたりするからだ。なんかの病気なのか心配したら物凄い笑顔で「動かないってすごく楽しいね!!アタシは大好きだよ!!!」って言われた時は引きこもりの家族を持った人の気持ちが少しわかった気分になった。



「ううむ、まぁこれらの検証は安全性を確認してからだな。では沢渡君にはそのコミュ力を発揮してもらおうか」


「僕のコミュ力とか大したことないと思うんだけどなぁ」


『お兄さんが大したことなかったとしたら人類皆兄弟とか言い出す人が大半になると思うよ?』


「少なくても困っているメイドに話し掛けれるタイプはそう多くはないと思うのであります」



 困ってたら自分に出来ることならば見て見ぬふりをする方が辛いと思うのだが。いやこれに関しては個人個人でかなり感性に違いがあるから一概には言えないけれど。コミュ力というよりどちらかと言うとお節介焼きだと思うが。



「今度、吾輩達が売り出している「風邪コロリX」の新規CMをやることになっておるのだよ。そこで出演するアイドルの話し相手をしてあげて欲しいのだ。あちらも沢渡君と同い年だというし若者の相手は若者がした方が良いだろう?」


「えっ、いいんですかそれ。僕、今からバイトする人間だけどそんな簡単に決めちゃって」



 アイドルの相手とか男なら結構憧れると思うのだが。そんな重要ポジションに僕みたいな新人を組み込むとか従来の社員がいい顔しないと思うんだが。下心があるのは困るが、全くなくせというのは無茶ぶりだろうし。



「安心して欲しい。我が社の社員は優秀だが悲しいほどに身内話しか出来なくてな。外と話し合いが出来る人材が枯渇状態なのだよ。ただでさえゴールデンウィークの大きなライブの出資でそういう人材が外に行っているから本当に、アイドルというキラキラした存在と緊張しない人材などおらん」



 それはそれで人材不足だと思うのだが。まぁ任せるというなら拒否する気もない。もっとも、僕に何が出来るかは分からないし、アイドルと話すとか何を話せばいいのかも不安だけど。やるとなればやり切るというのが僕という人間だ。



「分かりました教授……いえ、社長。僕で良ければその話お受けします」


「おお!!礼を言うぞ沢渡君!!」


「感謝します、沢渡様」



 教授の初仕事に関して引き受けることを告げるとそう言って二人から感謝された。そういう方面の人材が本当にいないんだなぁと改めて思う。



「では改めて……吾輩が『スメラギ製薬』代表取締役兼研究所長、皇ライドウである!!ここに来たことを心より歓迎するぞ影法師!!!」


「なんでこうなった」


『というか皇ライドウ?ライド・ソローネじゃなくて?』


「ああ、そちらは悪魔名という奴だな。皇ライドウは母が着けてくれた物。こちらの方が吾輩としては愛着があるが……まぁ裏側の人間に名乗るのであれば悪魔名の方が良いと思っただけだ」


「教授はその、形から入るタイプなので……」



 ぐっ、気持ちが分かってしまうのが辛い。だって僕もドッペルとか名乗るのあの姿になったからって理由が大きいからなぁ。そりゃ黒ずくめに白い仮面とかカッコいい名前名乗りたくなるよ。それで昔考えた名前引っ張り出してくる感性に自分で自分にキレそうになるけど。



「では早速今から仕事だ!!!行くぞ沢渡君!!!」


「今から!?もう少し間をおいて欲しいんですけど!?」


「残念ながら沢渡様。その会議というのが始まる時間が、今から1時間後なのであります」


「もう少し余裕をもって時間とりましょうよ!?というか僕との会話ここまで延ばしてたら駄目でしょ!!!」


「いやだって誘ったら即来るほどの即断即決を見せるとは吾輩夢にも思わなかったのだよ」


『お兄さん、行動力の塊みたいなもんだからねぇ……。アタシと契約する時だってあんまり悩んでる様子なく即座に決めてたし』


「ふむ。実際どれくらい時間をかけてたのかね?」


『一週間程度で。一生に関わる選択なんだからもう少しゆっくりでもいいと思うのに』 


「「えぇ……」」


「いや、そこには僕にも言い分があるわけで」



 あの時はドルザルクの脅威が迫っていたし、アイツの狙いはエルだったしで契約しないという選択肢は実質なかったのだ。アイツが居なかったらもう少し時間をかけて悩んでいたと思う……。いや、どうだろう。悩んだところで契約するって結果自体はもうあの時点で決めてたわけで。そうなると即断即決という評価も正しいのかな?



「沢渡君、悩みがあればちゃんと相談するのだよ?でないとこちらも動けないからね?」


「悩みがなくても色々と日々のことを話し合いましょう。沢渡様は悩まないで色々と決めてしまうところがありそうなので」


『ここで活動するなら色々と話せる環境になるしねー。お兄さんの話を聞けるのがアタシだけじゃないって言うのはちょっと寂しいけどそっちの方がお兄さんの為になるし仕方ないかぁ』



 なんかみんなに色々と言われているが僕はそんなに見ていないと不安になるタイプなのだろうか。もう少し信用してくれてもいいのではないか、と思ったが信用した結果がこうなのだろう。

 要するに放っておいたらすぐに突っ込む暴走列車のような人間だと思われているのだ。そしてそのことに対して僕自身否定できないのが酷い。



「よし!!それじゃあ社長!!!早速お仕事しましょう!!!!」


「あ、その前にこれが給料表なのである。月の最後に振り込むので口座を教えておいて欲しいぞ」


「えっ!?こんなに!!!」



 一流企業なだけあってただのバイト代だけでもすごかった。ドッペルとして活動したら危険手当も貰えるとか物凄かった。

 これ、高校卒業したらそのまま入社してもいいかなと心から僕は思った。お金の魅力って怖いね!!!!


約1000年前

『病孤涙苦』生誕、活動開始。異世界にて病気を振りまく。


約800年前

『病孤涙苦』この世界に渡ってくる。とある目的の為に世界中に病気を振りまく。


約600年前

人間になりすまし、とある偉人として火炙りに。その後の流れも完璧に理解した上でやった。人々に信仰という病を振りまく為に。

共に戦った名将に対して精神的病を植え付け、その後の彼の活動を笑いながら見ていた。


約400年前

スタンスの違いから他の上級悪魔と殺し合うことになる。敗北し、しばらくの間活動を休止。


約300年前

『大飢万征』が元の世界で誕生。この時期のコイツはコレクションという概念がないので殺した相手の腕やら足やらを適当に集めては捨てていた。


約200年前

天使達が人間社会の上層部に接触。現在の天界組織の雛型を作ることに成功。


約150年前

異世界における人類が数人を残し滅びる。“欲望”と“愛”を集めるのが困難に。こちらの世界に来ている悪魔や天使が数人いた為にその痕跡を調べ出す。


約100年前

世界間ゲートが完成し、天使と悪魔がほぼ同時期にこちら側に来る。悪魔は3人の魔王のどれかのグループに所属することに(といってもほぼ自由だが)。天使は天界組織を正式に設立し、悪魔の脅威に対抗し始める。人間同士の争いに対しては不干渉を貫く。魔王は基本的に動かずにいるが、一度出たら世界中が酷いことになる。


現在

史上初、人間の“欲望”と悪魔の能力を持つ異端者『影法師ドッペル』を確認。現在天界組織も悪魔もその存在を殆ど認識していない


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