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『観測希究』の自己紹介

人間と、悪魔のハーフ……?」


『そんなのが、存在するの……?』


「うむ、驚いているようだな。無理もないが納得してもらいたい」



 その情報の爆弾に呆然とする俺達を『観測希究』ライド・ソローネはメイドさんから貰ったコーヒーを飲みながら笑う。次の瞬間物凄い勢いで噴出した。



「ぶへぇ!!?なんだねこれは!?ドール君!!君はまた砂糖と塩を間違えたのかね!?」


「失礼なことを言わないで欲しいであります、教授。(ワタクシ)はただ砂糖と小麦粉を間違えただけなのです」


「どう考えても間違えるわけないだろうそれは!!君は吾輩に何かうらみでもあるのかな!?」


「そうですね。恨みと言えば昨日教授に夜伽を命じられ行ってみればグースカピーと既に眠っていた事でしょうか。色々と準備を整えておりましたのにそれでしたので流石の私もキレそうでありました」


「済まないねドール君!!心より深く謝罪するよ!!!」



 まるでその一連の流れは毎度のごとくやっているようにスムーズで、思わず毒気が抜かれかける。だが警戒を解くわけにはいかない。敵ではない、味方である。例え相手がそう口にしたとしても簡単に信じてはいけないのが今の俺達の状況だ。



「さて、気を取り直して……。吾輩の身の上話、そこから繋がる悪魔の話。それらをするのに敵意を持たれ続けるというのも問題だ。なのでここで吾輩から提案したい」


「……なにを?」


「この研究施設における吾輩達の戦闘行動の停止、当然吾輩が命令した場合、命令していない場合もペナルティはこちらが受ける。更にそちらが攻撃されたと感じた場合即座の契約破棄、防衛戦を行うことを許す。無論口約束ではなく契約を結ぼう。契約に関しては君の中にいる悪魔の方が詳しいと思うがね」



 そう言って差し出す手を握るかどうか、悩む。ここで下手な契約を結べばその時点で俺達は無力化されるも同然だ。自身の意思で結ぶ悪魔との契約は互いに高い効力を持ち、破れば重いペナルティが発生する。



「…………リルナ、そこらへんの判別は出来るか?」


『うん。アタシってば影に潜ること以外じゃ契約特化だしね。嘘だったら即座に見抜けるよ。で、今のところあっちの言葉には嘘はないみたい。あの手を握れば契約が完了したとみなされる』


「リルナが言うなら、信じるか」



 纏っていた影を消し、ドッペル状態から普段の俺――――僕に戻る。相変わらず強気な口調になってしまうことに頭を抱えたくもなるが、そのおかげでエル達から正体を隠せた一面もあるのであまり文句も言えない。だとしてもあの高揚感とか戦意の高さとかはどうにかならないものかと思うが。


 そんな悩みを抱えた頭のまま教授の手を取る。互いの腕に紫に光る茨が巻き付き、それが契約が締結した証なのだと魂が理解する。



「うむ。これでお互いゆっくり話し合うことが出来る。まずは改めて謝罪を。吾輩の従者が君達に対して不用な戦闘行動を起こしてしまい、誠に申し訳ない。そして、彼女を破壊しないでくれて本当にありがとう」


「……そこに関してはまだ何とも言えない。ただ、破壊という言葉はあまり好きじゃない。まるでメイドさんが生物じゃないような言い方は」


「私は生物ではありませんよ?」



 えっ、という間もなくそう発言したメイドさんが右腕を持って、取り外した。断面からは血などは見えず、そこにあるのは機械的な回路だけ。思わず凝視する僕にメイドさんは再び右腕を取り付け、スカートを広げて自己紹介をする。



「改めまして、教授から名付けられた私の名は『ドール・メイカー』。教授の能力(ちから)とその技術によって作られた人工奉仕人形であります」



 人間にしては身体能力が高すぎたので天使か悪魔か、どちらかなのだろうと想像していたけどま

さかの機械人形ということに今日何度目か分からない驚きを覚える。こんなに驚いたのはリルナと出会ってエルが天使だったという事実を知った時以来だろうか。まだ一ヵ月も経ってなかった。僕の人生驚きに満ち過ぎてないかな?



『えっ、じゃあそこの教授って人。自分が作ったメイドさんに夜伽してもらおうとしてたの?』


「それの何が悪いのかね!!自分の理想通りのメイドさん作ったらそりゃ誠心誠意尽くしてもらいたくなるのが男というものだよ!!吾輩も男、そして君も同じ意見ではないかね沢渡君!!!」


「チクショウ!!全く否定できないから困る!!!」


『お兄さん????』



 いやだって教授の言う事心底理解できるし……。エルがメイド服姿でご奉仕しますとか言ってくれた日にはあんなことやこんなことを頼みたくなるのが男というものだ。



「だけどねリルナ。僕はそんなことしないよ。だってそんなこと、まるで強制してるみたいじゃないか……。僕は紳士だからね、欲望に簡単には飲まれないのさ」


「ふむ。つまり沢渡様は教授と同じくヘタレという事でありますね。教授も私から押し倒さなければ今もなお童貞でしたでしょう」


「「ぐほぉ!?」」



 その言葉に二人の男がダメージを受けて膝をつく。なんだこの人間味あふれる人形は。その口撃力は明らかにおかしい。というか鋭すぎる。なんでそこまで的確に人を傷つける言葉が言えるんだろう?



『まぁ、お兄さんがヘタレって言うのは分かりきってることだからもういいよ。それより先に話しをしようよ』


「リルナ、もう少し優しくしてくれてもいいんだよ……?」


「沢渡君、君の相棒もまたキツイね、言い方が……」


『というか、今更だけど聞こえてるんだね。アタシの声が』



 そういえば、自然と話に入っていたからまるで気にしていなかった。例えエルの前で話しをしても全く不信感を覚えられなかったというのに、存在に気付くどころか声まですべて聞こえているとは。



「ああ、吾輩の能力(ちから)なのだよ。「魂の知覚と操作」それが吾輩、『観測希究』の能力でね。これの応用でドール君に魂を与え、こうして一人の存在として生み出した。上位悪魔の持つ下級悪魔生成の上位互換と言っていいだろう。もっとも、戦闘力は皆無に等しいがね」


「ああ、だから僕がドッペルだって言うのも一瞬で気付いたのか……」


「正解。流石に頭の回転が早いね。私にとっても『大飢万征』、ドルザルクは傍迷惑極まりなくてね。あれのせいで一ヵ月の間でうちの会社がどれほどの損害を出したか知ってほしいくらいだ。あの時、君達がエル・ライトガーデンを助けていなければ即座にドール君を出していたよ。他にも吾輩の作った人形たち全てを使って排除するつもりだった」



 研究所の奥の方から蠢く気配が感じる。余りに多いその数を正確に認識することは出来ず、戦うことになった場合あの物量を相手にするのは酷く面倒だということは分かる。



『でも数じゃドルザルク相手にはキツイと思うけど?アタシ達もかなり苦労したし……ああ、本体狙うつもりだったのね』


「そう。吾輩の目にはあのいつも動かしているのが人形だと分かっていた。そしてそれに繋がっている魂の糸を辿れば本体のことも気付ける。逃げようが隠れようが吾輩の目からはまるわかりだとも。奴が吾輩の人形を壊しきる前に排除できる……が、出来れば取りたくない選択肢ではあった」


「教授が戦力を出せば確実に『大飢万征』を仕留めることは出来るであります。しかし、その場合その戦力がどこから出てきたのかが問題になってしまう。ライトガーデン様が意識を失っていれば誤魔化しようはありますが、あの方もタフでしたので」



 確かに、あれほどボロボロにされておきながら一瞬も意識を失っていない頑丈さには驚いた。何度も瓦礫やら地面やらに叩きつけられていたというのに深い傷は殆どなかったみたいだし。もし喧嘩する時があったら口喧嘩にしよう。殴り合いなんてしたくもないし、やったとしても確実に負ける自信がある。



「とまぁ、いつでも出られるように監視はしていたのだ。そしてもう出るしかない、と言ったところで君達が出てきて、戦って、ドルザルクを仕留めてくれた。吾輩もまた、その後の混乱に乗じて奴に捕らえられていた悪魔達を天使達から匿う為にこうして保護した、というわけだ」


「それで、あの実験室みたいなところに座らせてたの……?」


「うむ。自力で“欲望”や“負の感情”を取り込むことが難しくなってしまったが故に苦肉の策である。今はリハビリ期間、それまでの間はここで大人しくしてもらうつもりである。治療が終わっても今後人間社会に対して敵対行動はとれないよう契約で縛りつけておく。当人達が望むのであれば吾輩の下で衣食住を提供した上で働いてもらうことになるな」



 まくしたてるように今後の計画まで全部暴露してくれているが、どうにも彼を。教授を疑いきれない僕がいる。なんというか、同類の臭いがするというか、他人事ではない感じというべきか。



「影法師君。何故吾輩がここまでぺらぺらと喋っているのか分かるかね?」


「……いや、分からない。人と悪魔のハーフってことは聞いたけどそれ以上のことは知らないし。想像でいいのならだけど、その生まれからして人間にも悪魔にもなり切れない自分がいてそんな自分の身内を作りたくてドールさんを作り出したはいいけどそれだけでは満たされなかったものが悪魔と契約して戦う力を得た僕という存在を見て強烈な仲間意識を持ったとかそんな感じかな?」


「…………君の能力は影の操作ではなく読心なのではないかね?ここまで言い当てられるとそれは気持ちいいを通り越して気持ち悪くなってくるのだが。言っておくが君、その調子で女性と話すのはやめたまえよ。火傷ではすまん、心からの忠告だ」


『多分もう手遅れだと思う。アタシはともかく、光天使とかはもう駄目だよアレ』


「なんでそういうこと言うの?」


「『お兄さん(影法師君)の言動が全てを物語っている(のだ)よ』」



 まるで僕のことを人の心を弄ぶ悪魔みたいに言って。僕だってちゃんと考えてるよ。相手の嫌がることは言わない、相手のことを想って発言する。その上で相手が先に進めるような言葉を言いたい。僕の言動はこれに基づいているのだ。もちろんドルザルクのような腐れ外道は確実にぶっ潰す為に挑発も繰り返すけど。



「教授。そろそろ本題を言った方が良いと思うのでありますよ。あまり沢渡様の時間を奪うのも、問題かと」


「む?ああ、確かにもう一時間も経っているのか。であるのならば話を早く進めた方が良いだろうな」



 コーヒーのお代わりを持ってきたメイドさん改めドールさんに促され、目の前の男は手に持ったコーヒーを飲み切り、真っ直ぐこちらを向いて言ってきた。



「沢渡リョウ君。そしてリルナ君、だったな。単刀直入に言おう。影法師ドッペルとして吾輩と共闘して欲しい」


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