第81話 クラスの委員長は同行したい
「相川君、こっちだよ!」
駅前にあるモニュメントで手を振り俺の名前が呼ばれた。
週末になり、俺は駅前で委員長こと橘さんと待ち合わせをしていた。
それと言うのも、文化祭について活動があるからだ。
「それにしても、本当に釣りするんだね?」
彼女は俺の肩にかかっている釣具ケースとクーラーボックスを興味深そうに見つめている。
「そうだけど、疑ってたの?」
相沢がバラしてしまったのでクラスメイトに俺が釣りを趣味にしていることは知られてしまったのだが、橘さんは信じていなかったのだろうか?
「私、てっきり……」
「てっきり?」
言葉の続きを聞こうと彼女の顔を覗き込むと、目を逸らしてしまった。
「ううん。何でもない!」
彼女は手をパタパタ振ると話題を変えてくる。
「それより、文化祭で使う魚の仕入れなんだけど、本当に可能なの?」
「うん、多分問題ないと思うよ」
彼女と待ち合わせしたのは文化祭で使う魚を仕入れるためだ。
「魚を直接漁師さんから仕入れられれば安く済むし、新鮮なのが手にはいるからね。どうせ料理するなら美味しい方が良いし」
最初はスーパーで買うという計画だったのだが、それではわざわざ材料に魚を選ぶ意味がなくなってしまう。そう考えた俺は漁師から直接仕入れることを彼女に提案した。
「相川君って結構こだわるほうだったんだね?」
「美味しくない魚料理が許せないんだよ」
たまに魚料理を店で味わう場合もあるのだが、下手な店で食うよりも鮮度が良い魚を自分で料理した方が美味しかったりする。
「生徒会への許可はもらっておいたから、後は実際に仕入れられるか確認させてもらうね」
彼女は仕入れルートが正しいかどうか確認をするために俺についてきたというわけだ。
「もしかして、今日仕入れるためにクーラーボックスを用意してきたの?」
文化祭までに仕入れた魚を調理してみるつもりと思ったのか、橘さんは俺が釣り道具を持っている理由を想像した。
「いや、どうせ港に行くなら釣りもしないと勿体無いからね」
ただでさえ、今日は良い天気なのだ。交渉だけして釣りをしないで帰った場合、後日釣果情報をみて爆釣だった場合後悔せずにはいられないだろう。
電車に乗り数駅で降り、港に向かう。
その間、橘さんはスマホを弄っているのだが、時々チラチラこちらを見ていた。
十数分後、目的の駅へと到着する。
「そういえば私、海に来るのって久しぶりかも?」
駅を出て港に向かっている最中、彼女はキョロキョロと周囲を見回していた。
「そうなの?」
「最後に来たのって小6の時に家族で海水浴だもん。電車で30分あれば海に来られるんだねー」
俺にとっては海は身近なものなのだが、釣りやマリンスポーツをしない者にしてみればわざわざ海まで出向くことは少ない。
そんな会話をしていると漁港の事務所に到着した。
ーーコンコンコンーー
ドアをノックして中に入る。
「お、相川君。来たね?」
中には日に焼けた男性が待っていた。父親よりはやや年上なのだが、引き締まった身体をしているのは肉体労働で鍛えているからだろう。
爽やかな笑みを浮かべてこちらに話し掛けてくる。
「こちらは山川さん。ここの漁港で働いてる漁師さんだよ」
俺は橘さんに山川さんを紹介する。
「相川君とはどういう関係なの?」
橘さんは俺の耳に唇を寄せると俺と山川さんの関係について聞いてきた。
「たまにこの漁港のゴミ拾いをしてるんだけど、その時に声を掛けてもらったんだ」
釣り人の中には汚すばかりの者も存在している。港で釣りができるのは漁港関係者が許してくれているだけなので、あまりにもマナーが悪いと封鎖されることになる。
そこで俺を含むこの港の常連は、定期的に清掃をするように声を掛け合っていたのだ。
「相川君は本当に気持ちの良い少年でね。ここまで礼儀正しい少年は中々いないよ」
「や、やめてくださいよ。山川さん」
委員長の前で褒められた俺は顔を熱くすると山川さんに言った。
「俺たちは漁港関係者の方々に場所を貸してもらっているお蔭で釣りができるんです。自分たちで汚した場所を掃除しているだけで褒められるようなことじゃありません」
俺がキッパリ答えると、山川さんは橘さんを見た。
「彼って学校でも真面目でしょ?」
「わかりますか?」
山川さんと橘さんが打ち解けて笑い合った。
一体今の発言のどこが面白かったのだろうか?
「それで、文化祭で仕入れる魚についてなんですけど」
俺は咳払いをすると本題について切り出す。
「文化祭で魚を料理して店を出すって? 中々面白いことを考えるね」
「俺が魚を捌けるのを知ってる友人が強引に提案してきたんですけどね」
「その友人は見る目があるよ」
山川さんの言葉に俺は苦笑いを浮かべる。
「仕入れるってことについては問題ないよ。その日の朝に摂れた魚を学校まで届けてあげよう」
「いいんですか?」
受け取りに来るつもりだったのだが、山川さんの提案に驚く。
「他ならぬ相川君の頼みだからな」
彼は微笑むと、
「それに、鮮度の良い魚を客に食べさせたくてやるんだろ? だったら、クーラーボックスなんかで運ばせるわけにはいかないさ」
山川さんが持つ冷蔵車の方が鮮度を落とさずに運ぶことができる。
「それじゃあ、お願いします」
「その代わりと言ってはなんなんだが、一つ頼んでもいいかな?」
山川さんはそう言って微笑むと俺に頼み事をしてきた。
「なんですか?」
「実は朝飯がまだでね。良かったらこの中から何か作ってくれないか?」
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