第80話 相沢は親友の評価を高めたい
「ええー。それで相川っちが料理することになったのー?」
昼食時になり、いつものメンバーで食事をしていると、沢口さんが文化祭の話を聞いてきた。
「どうしてあんな話を振ったんだよ?」
ことの原因となったのは相沢なので、俺は相沢を睨みつける。
そもそも、俺が釣りをしているというのは秘密だったはずなのだ。
「相川が凄いやつだって皆に教えたかったんだよ」
ところが、相沢は真剣な表情でそう言い放った。
「つまり、悪意はないということですね?」
渡辺さんが確認すると相沢は頷いた。
「でも、前の調理実習の時みたいにならないかな?」
沢口さんは眉根を寄せて心配そうな声を出す。
「それがあったからこそ周知すべきなんだよ」
「どういうこと?」
石川さんが首を傾げる。
「調理実習で相川が料理が得意なことは既に知れ渡ってるわけだろ?」
「まあ、そうだな……」
あの日、同じ班の男たちに言われた言葉は俺の心に傷を残している。
「俺たちの歳で魚が捌けて料理ができるってのは、誰が何と言おうと凄い技術なんだよ」
「そうね、少なくとも私は相川を凄いと思ってるし」
石川さんが相槌を打った。
「調理室ではアイツらが場の空気を読まなかったからとか場の空気を支配していたからそうなったけど、相川が凄いって事前に皆知ってたらそうはならなかったはずなんだよ」
「つまり相沢は、爪を隠していた相川っちもいけないってこと?」
沢口さんの問いに相沢は首を縦に振る。
「もし最初から相川の凄さを皆知ってたら、悪口を言った瞬間アイツらが白い目で見られてたはずだぞ」
相沢のいう通りになったかどうかはわからないが、少なくとももう少しマシな空気になっていたのかもしれない。
「現に、真帆はお前の味方をしたわけだし、他の女生徒も好意的だったんだろ?」
「まあ、それはそうだね」
最初は美味しそうに俺が作った料理を食べていたし、調理中も特に嫌悪感は見えなかった。
「相川に必要なのは自分の評価を正当に見つめ直すことだ。だから俺は今回皆に話したんだよ」
「そういうことだったのか……」
いつもの悪ふざけではなく俺のためを考えてくれていたのなら相沢を責めることはできない。
「でも、相沢。ワンチャン相川っちの料理狙ってるよね?」
「そりゃ当たり前だ。相川の料理は美味いんだから食えるチャンスがあるなら食うに決まってる」
相沢は沢口さんを見ると、
「そういう真帆も狙ってるだろ?」
「その日の私の昼食は決定済みだよ!」
俺を見てサムズアップする沢口さん。
「うちらファッションショーあるし、真帆は仕切りをやるんだから時間ないんじゃない?」
「うっ……そうだった……」
沢口さんは縋るような目で俺を見る。
「相川っち、私の分とっておいてくれる?」
「クラスの行事だから無理だね」
「そんなぁ……」
彼女はがっくりと肩を落とした。
「それにしても、本当にファッションショーなんだ?」
俺が渡辺さんに確認すると、
「クラスの満場一致で決まってしまって……」
渡辺さんは困ったような表情を浮かべる。
何度か見て思ったのだが、彼女の私服姿というのは破壊力が高すぎる。
制服姿も可愛いのだが、私服ともなると渡辺さんの魅力を最大限に引き出しているので、視線が釘付けになってしまう。
休日に会う時もいまだに慣れることがなく見惚れてしまい褒めるのを忘れてしまうこともあった。
D組の連中も、制服ではない彼女を見て見たいと考え徒党を組んだのだろう。
なんなら沢口さんに根回ししていた可能性もある。
「衣装はそれぞれの家にある服を持ってくるので費用もかかりませんし、ステージの設営くらいですね」
クラスの全員がステージを練り歩くとのことだ。
「なので、私は絶対に食べに行こうと思ってます」
「渡辺さんなら、別に店に来なくてもいつでも振る舞うよ?」
家に来ることも多いのだし、わざわざ教室まできて食べなくても良いのではないだろうか?
「相川君が文化祭で活躍している姿を見にいきたいんです」
そう言ってじっと見上げてくる渡辺さん。
彼女は俺の服を摘むと恥ずかしそうに言った。
「それとも、相川君は私の私服姿に見飽きてしまったんですか?」
「勿論俺も、ファッションショーは観に行かせてもらいます」
渡辺さんに飽きるなどということがあるはずもない。俺は何が何でも時間を確保することを誓うのだった。
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