第79話 文化祭での催し決め
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「えー、それでは文化祭の話し合いをしたいと思います」
俺は緊張しながら教壇に立つとクラスメイトに話しかけていた。
教壇に立つと普段と違う視点からクラスメイトを見ることになる。
隣ではクラスの委員長こと橘風香さんが控えており、何かあった時のサポートをしてくれるようだ。
「文化祭の出し物について、何かやりたいことありますか?」
俺は皆に呼びかけるのだが誰も要望を出さない。
場が温まっていない静寂の中発言するのは気まずいという空気が流れており、皆互いに顔を見合わせているようだ。
離れた場所では、相沢が楽しそうにこちらの様子を見ながらスマホを弄っている。
グループメッセージで俺が仕切りをやっていることを連絡しているのだろう。
クラスメイトたちは「どうする?」「何やろうか?」とヒソヒソと話し合っている。
そういう話はできれば仲間内ではなく俺として欲しいのだが、アイデアが一向に提案されないので、俺は空虚な目で離れた場所にある壁の掲示物を見ていた。
「皆、静かにしてください。やりたいことがあれば相川君に話してください!」
委員長が呼びかけると皆、前に向き直る。半年の間、彼女はクラスを仕切っていたので皆から信用されている。
「やっぱり定番といえばお化け屋敷?」
彼女が促したことでポツリポツリと意見が出始めた。
「でもさ、どこかがやるだろうし、そもそも準備が大変な割に内容はそこまででもないんだよな?」
「子ども騙しというか、どうせやるなら斬新なのがよくないか?」
「展示とかどうかな?」
「準びが大変だけど、やっておけば当日は最小限の人手で回せるからいいかも?」
「でもどうせなら、もっと楽しいイベントにしたくない?」
段々と意見が活発になってきたので、俺がホッとしていると……。
「そういえばD組はファッションショーやるらしいよ?」
渡辺さんのクラスの話題が出た。
「あのクラスは沢口がいるもんね」
「渡辺さんが出るなら見に行きたい!」
気になる話題なのだが、今は自分のクラスに集中しなければならないと考えていると……。
「はいはーい」
「相沢、何だ?」
相沢が手を挙げ、皆が彼に注目した。
「メイド喫茶にしようぜ!」
相沢は皆を見渡しはっきりと告げる。
「まあ、定番ではあるよな」
「衣装を自作すればそんなに高くないけど……」
「でも、定番すぎて他がやるんじゃない?」
相沢の提案は却下されたのだが……。
「チッチッチ」
やつは不適な笑みを浮かべると言った。
「そこは提供する料理で差をつけるんだよ」
「どういうことですか、相沢君?」
委員長が首を傾げ相沢に質問をする。
「採れたて新鮮な魚料理を出してそれで話題を掻っ攫うってのはどうよ?」
相沢は俺に目配せを送ってきた。
「おい……何を?」
咄嗟に止めようとするのだが、相沢の方が声が大きいので遮ることができない。
「お前ら知ってるか? 海で釣ったばかりの魚の旨さを?」
相沢はクラスメイトを見渡すとアピールを始める。
「刺身は生臭さが一切なくて旨みが口一杯に広がってくるし、揚げ物なんかはホクホクでホロリと口の中で崩れて舌に溶け込むんだ。あれを味わった客は絶対にうちのクラスに人気投票を入れてくれると思うぞ」
「「「「「ゴクリ」」」」」
教室中から生唾を飲む音が聞こえる。
「そういえば、相沢ってたまに美味しそうな揚げ物を食べてるよな?」
「わかる、いつも羨ましく思って見てたよ」
「やるなら当然試食もできるってことだよな?」
「メイド服を着て定食屋って逆に新しいかも?」
「他の出店はありきたりなのが揃うだろうしだし勝てるかも?」
クラスメイトは相沢の言葉に耳を傾け、前向きに検討を始める。
段々と賛成の声が大きくなり、このままでは決まってしまうのではないかと思った瞬間。
「ちょっと注目してくださーい」
委員長がストップをかけた。
「提供できる料理には制限があります。ナマモノは提供できない決まりです!」
「となると、揚げ物はいける?」
相沢が委員長に確認をすると、彼女は文化祭の出店規則を確認する。
「一応、許可を取れば可能ですね」
「そういえば俺去年の文化祭きたけど、焼き鳥とたこ焼きの出店があったわ」
「でも、一体誰が料理をするんだ?」
そんな意見が出たところで、相沢は自慢げに俺を指差した。
「何を隠そう、あの弁当を作ってきてたのはそこにいる相川なんだよ」
「そういえば調理実習の授業の時も凄く美味しそうな料理作ってたよ」
同じ授業をとっていた女子生徒が思い出したかのようにポツリと告げる。
「相川は釣りが得意なんでね、よく釣った魚を俺に振舞ってくれるんだよ」
「ということは、相川に釣ってきてもらえば材料費も安く済むんじゃないか?」
「勝てる! 収益を上げたら打ち上げも豪華にできるしな!」
皆が乗り気になっているようだが、ここは俺が冷や水を浴びせかけなければならないだろう。
「ちょっと皆、聞いてくれ」
ピタリと動きが止まる。
「釣った魚を販売するのは無理だよ。これは文化祭のルール以前の問題だ」
釣った魚を食べるのはあくまで自己責任という話がついてまわる。文化祭で出す、さらに利益まで得るとなると完全にアウトだ。
「でも、相沢が普段から食ってるのは?」
「自己消費に関しては認められているんだよ」
クラスメイトの質問に俺は答えた。
「それに、店で出す分の魚を釣るとなると時間が足りなさすぎる」
文化祭の開催は土日だが、両日深夜から釣りをしたとしても釣れない可能性が存在している。
企画のメインとして扱うには厳しいだろう。
「後は、揚げ物についてだけど、教室で火を扱うのは駄目なはず」
委員長が援護してくれる。そのお蔭でどうにか話の流れを修正することができそうだ。
「なら食材はスーパーで買えばいけるんじゃないか?」
クラスメイトの一人がそう提案をした。
「揚げ物についても教室で作らないで、調理実習室の使用申請出しておけばいけたはず。運搬の手間はあるけどやれなくはないんじゃないか?」
「確かに、それなら問題を解決できるな!」
「えっ……ちょっと?」
なぜこれで止まらないのか?
クラスメイトはこの企画を本気でやるつもりらしく話し合いを始めてしまう。
しばらくして、服を作る係と接客する係、内装を盛り付ける係などが決まっていき、
「それじゃあ、相川は調理担当頼むな」
俺はメインを担当することになるのだった。




